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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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動力炉



「敵の中枢はもうひとつ」

第一艦橋で新見が言った。メインスクリーンには遊星投擲装置と思(おぼ)しき冥王星の地下トンネルが映っている。新見はそれが描かれた図の一部を指し示した。

「ここです。ここに大きな施設があるらしいのがわかります」

新見が指すのは、長いトンネルのほぼ中央だった。冥王星はこの十年間、南半球がずっと白夜で太陽と地球の方を向いている。対して北はずっと極夜(きょくや)でカイパーベルトを向いてきた。

そしてそのトンネルは星の地中を極夜の北から白夜の南に長く貫き通っていた。新見が示す〈施設〉とやらは十数キロの深さにある。

「つまり、遊星は北側の口から入れてこのトンネルで加速させ、南の口から射ち出しているわけですね。真ん中にあるこれはおそらく動力炉です。これを殺れば遊星は止まる」

「ふうん」と南部が言って、「けど、地中深くじゃないか。主砲で撃っても届きゃしないぞ」

「ええ、無理でしょうね。〈魔女〉もまたこの近くにありました。対艦ビームもこの炉から力を得ていたのでしょう。けれどもあの核攻撃もまるで届いていないはず」

「じゃあどうするの?」

森が言うと、南部が応えて、

「だから、全然無理ってことだ。けど遊星を止めるんなら、穴の出口にミサイルでもブチ込んでやりゃいいんじゃないか? それで口は塞がるだろう」

遊星の射出口は〈ハートマーク〉の縁にあった。〈ヤマト〉が今いるこの場所からそう遠くない。

「ああ」

と森が頷いたけれども、

「そんなの、またすぐ掘り開けられるんじゃないのか」

と島が言った。南部は応えて、

「どうせ今から遊星止めても、水の汚染は止まらないぜ」

「そうだとしても、やはり遊星は止めるべきだ。そうして初めて地球は自然を取り戻せるようになる。やるんだったらちゃんと止めなきゃ」

「そりゃおれだって確かにそういう考えだったけどさ」

と、島と南部で言い合いになるのを相原が指で差しながら、太田に向かって、

「あのふたり、言ってることが昨日の会議とあべこべじゃない?」

「とにかく」と新見。「この動力炉こそ敵の力の源でしょう。こいつを殺ればすべてを殺れる。あの〈蓮池〉が凍らぬように温めてるのも、この炉なのだと思います。だからこいつを潰せばきっとあの〈蕾〉も〈池〉の上に出るしかなくなる」

「それで主砲で殺っちまえるって?」南部が言った。言ったがしかし、「けど、それって何時間後のことなんだ?」

「さあ。ちょっとわからないけど……五時間くらい?」

と新見は言った。あの〈蓮池〉の〈水〉はおそらく水ではなくて、元々そこで凍っていた窒素とメタンを液体にしたものだ。〈蓮葉(はすば)〉のようなカモフラージュ板は凍結を防ぐ役目も持っているが、なければまた固体化していくだろう。

そのくらいはすぐに察しがつくことだった。星のどこかに動力炉があり、零下百度の〈湯〉になるように〈池〉を沸かしているのだろうから、〈火〉さえ止めればやはりすべてが凍っていく――それもわかりはするのだが、そうなるまでに時間がどれだけかかるものか。

となると答はすぐに出ないのだった。五分や十分でないのは確かだ。

「じゃあ、話にならないじゃないか。すぐカタつけなきゃいけないんだろ?」

「ええまあ。だからやるとしたら……」

と新見が言う。そこで沖田が、

「航空隊だ」と言った。「戦闘機でトンネルに突っ込み、動力炉に核をブチ込む」

「そう。それしかないでしょうが……」

「な……」

と太田が言ってそこで絶句した。他の皆もアッケにとられる。

しばらくして徳川が言う。「おいおい、本気か? 〈ゼロ〉と〈タイガー〉で……」

「〈タイガー〉ではたぶん無理です。やるとしたらこれも〈ゼロ〉の仕事でしょう」

「じゃあ、古代と山本で」

「そうなんですけど、ふたりとも、核は射ってしまいました」

「じゃあどうするんだ?」

「ですから、やるとしたら……」

と新見が言いかけたところで、彼女の席のインターカムが着信を告げた。

スイッチを入れる。新見の部下の戦術科員がパネルに出た。

『戦術長、よろしいですか。基地攻略の件でラボから提案が……』

「なんなの?」

と新見が言うと、別の者が画面に出てきて、

『おう。ちょいとおれに考えがあるんだがね』

「斎藤?」

と真田が言った。インターカムの向こうにいるのは彼の部下である斎藤だった。真田の前の画面にも、同じ画像が映っている。

『はい。技師長、アナライザーをおれに貸してくれませんか』斎藤は言った。『あの〈蓮池〉に潜ってこようと思うんですがね』