敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
水面下
ガミラス基地司令室はいま蓮の花が蕾を閉じたような形で水中にあり、その〈蕾〉の先端だけを水の上に出していた。そこから上に伸びたカメラが、こちらめがけてやって来る二台の車両を捉えている。
「あれは何をする気なのだ?」
シュルツが画面を見て言った。ガンツが「さあ」と首を振り、
「ここにこうしている限り、滅多なことで我々が殺られるはずがないのですが……」
「なんとかして殺っちまえんのか」
「浮上すればできないことはありませんが」
「浮上したらこっちが〈ヤマト〉に殺られるだろうが」
シュルツは言った。この司令室は極めて強固な装甲で鎧(よろ)われ、〈ヤマト〉の主砲を受けたとしても数発ならば耐えられるはずと推定されている。
つまり、『数十発』ならば、耐えることはできないのだ。ボカスカ撃たれりゃ蜂の巣になるとわかっているのだから、〈ヤマト〉の主砲がまっすぐこちらを向いている今、水上に出るわけにはいかない。
だが問題はそれだけでなかった。オペレーターが「司令!」と叫んで、
「やつら、突っ込もうとしています!」
「なんだと?」
と言った。オペレーターが言うのは、地球人の戦闘機が遊星の射出口に飛び込もうとしていると言う意味なのは、スクリーンを見ればわかった。先程、蓋を破壊されたとき、『まさか』と言った者もいたが、
「本当にやる気なのか!」
「これはそうとしか思えません!」
「墜とせ! なんとしても墜とせ!」
「しかし――」
と、言ったところで今度はガンツが、
「やつら、水に飛び込みました!」
と叫んだ。見れば変な二台のクルマだ。水中を潜ってこちらへやって来る。
「だからこいつは一体何をする気なんだ!」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之