敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
揺れ
「迎撃ミサイル全基が起爆」
ガミラス基地司令室で〈弩(いしゆみ)〉内部の状況を見ていたオペレーターが言った。
先程までの画面にいくつも映っていたこちらの迎撃ミサイルの指標はもうすべてが消えている。穴の中で動くものは今ではもうふたつだけだ。動力炉を通過してそのまま進み続けている。
「どうなったのだ。このふたつは戦闘機だよな」
シュルツは言って、オペレーターが見ている画面の一部を指した。エコーとして検出されるふたつの物体の存在。それがあの二機の銀色の戦闘機だと言うのはシュルツにもわかる。
「はい」とオペレーター。「ですが、それ以上は……」
「なんだと? 核は殺ったんじゃないのか」
「わかりません。寸前で全部墜としたように見えましたが……」
「なんだと!」
と言った。そうだ。見えた。自分にも、あれはそのように見えた。動力炉に辿り着かれる寸前で、トンネル内で爆発のエコーが百も谺(こだま)したらしいようすが自分にも見えた。
忌々(いまいま)しいあの二機に炉の通過を許したことは良しとしよう。けれどもここで肝心なのは、あいつらが連れてた核ミサイルなのだ。一基でも炉の近くで起爆されたらすべておしまい。この基地はそれで終わりとなってしまう。
だが。しかしだ。残すところあと数基となっていたミサイルは炉に辿り着く寸前で、こちらの迎撃ミサイルによってすべて墜としたように見えた。その代わりにこっちもすべて吹き飛んで消えたが――。
どうなのだ。あれは全部殺ったのじゃないのか。それとも、まさかひとつでも、動力炉の壁に刺さっていま起爆のタイマーが秒を読んでいるなどと言う――。
そんな。どうかやめてくれとシュルツは思った。お願いだからすべての核を途中で止めたと言ってくれとオペレーターの肩を揺さぶって言いたかった。だって、わたしにはそう見えたぞと。それが見間違いなどと言う話があってたまるものか、と。
そう言おうとした。そのときだった。足元がグラリと揺れるのをシュルツは感じた。
「なんだ?」
と言った。床だった。この司令室の床が揺れ動いたのだ。とても立ってはいられないほどの大きな揺れ。
そして感じた。何やら体が軽くなったような感覚。
これはちょうど――思ったときに、これはちょうど、あれに似ているとシュルツは気づいた。別になんと言うこともない、どこにでもあるあれに乗るときとちょうど同じだ。これはつまり――。
エレベーターだ。あれに乗って建物の階を降りるときの感覚とちょうど同じ。しかし逆に――。
「上がってる……」
ガンツが言った。そうだ。シュルツもそれと気づいた。建物のエレベーターなら降りるときに身が軽く、昇るときに体が重くなるように感じる。しかし今、それとは逆に、上昇している感覚があるのに身が軽く感じるのだ。
それはつまり――。
「いかん!」叫んだ。「やめろ! これでは――」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之