敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
斉射
〈ガマガエル〉の荷台で後ろを振り向けば、自分達がたった今そこから出てきた〈蓮池〉だ。そこに水柱とともに巨大な物体が下から浮かび上がって現れ、しぶきを散らしてさらに上へと高く上がっていくのを見上げ、斎藤と部下の荒くれ科学者どもは『おお』と喜びの声を上げた。
「ヤッタ! ヤリマシタヨ、斎藤サン!」
アナライザーが小躍りする。頭と胸とを腰からクルリと180度回転させて後ろに向け、両手を挙げてバンザイしている格好だ。
「おい、振り落とされんなよ」
と、斎藤はこのあいだ、タイタンの空で自分がこのロボットを蹴飛ばしたのを思い出しながら言った。
〈ガマガエル〉は運転席と荷台の上にはロールバーがあるだけのオープン仕様だ。床に溜まった液体窒素と液体メタンの〈水〉を後ろに散らせながら〈蓮葉〉の上を疾走している。
〈葉〉は厚み数センチのビニールシートのようなものだから、〈ガマガエル〉が上を走れば重みでたわみ、車体を揺する。斎藤達は安全ベルトで体を固定できるからいいが、そうでなければすぐにも飛ばされてしまいそうだ。
しかし、と思う。やったのだ。〈蓮の蕾〉を水の上に高く昇らすことができた。〈反重力ジャッキ〉を使って――。
理屈はごく簡単だ。いつか火星で〈ガミラス捕獲艦隊〉に〈ヤマト〉を〈軽く〉させられたのと同じ。
あの〈蕾〉を軽くすることができれば水に浮く。元より、あれが中空で船のように軽い造りであるものを下からチューブで引っ張って〈水〉に沈めているだけなのは一見してわかることだ。だからジャッキの力によってもうちょっとだけ〈軽く〉させれば、冥王星の重力にたちまち反するようになって、あのように――。
宙高くに飛び出させることができる! ただそれだけの話である。そこにいるアナライザーにもその装置が付いてるように、反重力で物を浮かせる道具など今の地球で別に珍しいものではないのだ。〈ヤマト〉の装備品の中にもいくつも何種類もある。
だからちょうど手頃なジャッキを二台のクルマに急いで積み込み、艦橋からアナライザーを借りるだけのことでよかった
その成果が自分達の後方で、巨大の猫の首の後ろをつまんで持ち上げたようになっている。後はそいつが〈ヤマト〉の主砲に殺られるさまを、ここで見物するだけだ。
行く手の空に浮かぶ〈ヤマト〉に向かって斎藤は叫んだ。
「どうだ! やったぞ、ブチかませ!」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之