敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ジャッキの力で
『どうだ! やったぞ、ブチかませ!』
斎藤が通信機で叫ぶ声が〈ヤマト〉艦橋に響いたが、言われるまでもないことだった。〈ヤマト〉は今、敵の〈蓮の蕾〉に対して船の横腹を向け、〈主〉と〈副〉合わせて五つの砲塔すべてをまわして十五の砲門をピタリと敵に狙い合わせた。後は号令を待つだけである。
「撃ち方始めーっ!」
南部が叫ぶ。途端、十五の砲身が、轟音を上げてビームを放った。
ドスドスドスと続けざまに太い光線の矢が走る。旧戦艦〈大和〉の四十六センチ砲と言えば、もしも役に立っていたらとても役に立っていただろうと語りつがれるシロモノである。何しろ直径46センチ、長さ2メートルにもなるバカでっかい砲弾を、米俵いくつ分と言うほどの量の火薬を使い、ドーンと前に撃ち出すのだ。その威力がいかほどのものか、想像できる人間がいたら素晴らしい想像力の持ち主と言えよう。
宇宙戦艦〈ヤマト〉の主砲もまた然(しか)りだ。亜光速で撃ち出される超高温のハンマーは、核にも匹敵するほどの打撃を一点集中で狙い定めた敵に喰らわす。その力はやたらな通常爆弾やミサイルの及ぶものではない。
今こそその主砲の力が解放されるときだった。太さ46センチの丸太を焼けた炭にして射ち出すような猛烈なビーム。いちどきに数十発も敵を撃つ。
〈蓮の蕾〉を宙高く伸び上がらせていた〈反重力ジャッキ〉はたちまちビームを受けて吹き飛んだが、〈ヤマト〉にとってそれは問題とならなかった。冥王星のごく弱い重力は〈蕾〉をまた水中に引き込むのに十数秒を要するのだ。
それだけの時間があれば充分だった。百発以上のビーム砲弾を〈ヤマト〉は連続して叩き込む。繰り出されるビームは〈蕾〉の装甲を一枚二枚と打ち壊し、はぎ落として遂にその内側に届き、中心にある芯を砕いた。
斉射に要した時間はほんの数秒だ。〈蓮花〉はもはや枯れ花のようにして、〈茎〉をクニャクニャと折り曲げながら火と煙を吹き上げて〈池〉に倒れ込んでいった。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之