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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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ピカドン



3、2、1……と秒を読むパネルの数字が《0》に変わってそこで止まった。そのときだった。暗黒であったトンネルの中が、背後からの強烈な光によって照らされた。

一瞬のことだ。すぐに光は消える。〈ゼロ〉は元の深淵の中を進むことになった。

「やったな」

と古代が言うと、山本の声が『ええ』と返ってくる。あの光が見えたと言うのは、つまり、成功したわけだ。

今の光は核の閃光。敵の動力炉にブチ込んだ核ミサイルが起爆して、それが放った光がトンネルの壁にハネ返りハネ返りして、既にそこから二百キロも遠ざかって星の丸みの陰に入った古代と山本の〈ゼロ〉を後ろから照らしたのだ。

だが、それ以外感じない。その昔に日本に落ちた原爆は、爆心から数キロ離れた場所ではピカッと言う光が見えてしばらくしてからドーンと衝撃が来たために〈ピカドン〉と呼ばれたと言うが、同じ理屈だ。ブースターによる加速をやめてトンネルの中を進む〈ゼロ〉に光は瞬時に届いても、衝撃が追いつくのには時間がかかる。

だが、やったのだ、と古代は思った。あの光がその証拠だ。火器管制装置が表すカウントダウンの数字を見ても、多弾頭で襲ってきた迎撃ミサイルを躱して目標に核をブチ込めたのか自信が持てないでいた。

だが、やったのだ。最後のときに、炉にミサイルを命中させた。そこで敵のミサイルも無くなり、後は時限信管が確かに核を起爆させてくれるのを信じてこのトンネルを飛ぶだけ――。

それに二十秒。そして、やった。やったのだ。〈ピカッ〉と来たら、その後に、〈ドーン〉がやって来るだろう。今、敵の炉は火葬場となってすべてが灰になり、上の地面を丸く陥没させている。地を揺るがす衝撃が波紋となって広がっていき、十万度のプラズマが行き場を求めてこのトンネルに雪崩(なだ)れ込む。おれと山本が元来た方にも今行く方にもプラズマが奔流となって突き進み、天井を崩し遊星加速装置を壊してすべて埋もれさせるのだ。

それが〈ドーン〉だ。〈ピカッ〉が見えたら、それがやって来ると言うこと。このトンネルを凄い速さで、〈ゼロ〉の後を追ってやって来ると言うこと。

たぶん……と思った。秒速何十キロと言う速度で。

トンネルは北の出口まで千キロほど残っている。

「山本」

と言った。どうなのだろう。あの加速をもう一度やらなきゃいかんと言うことなのかな。〈ドーン〉が一体どのくらいの速さで〈ゼロ〉を追いかけてくるか予想がつけられない。ひょっとして加速などしないで充分逃げられるかもしれないし、ブースターの加速力を超える勢いで追いかけてきて、どう逃げても呑まれてしまうかもしれない。

さて、どっちなのだろう。『このトンネルを完全に塞ぐことができるなら後は死んでも構わない』、とおれはさっき思った。思ったけれど、あれはさっきだ。おれではなくて、過去のおれが考えたことだ。三十秒前、おれはなんて未熟で愚かだったのだろう。

今は違うぞ。死にたくない。こんなところで死にたくない! それが当たり前だろうが。どうする、どうすればいい?

またもう一度加速を掛ける? だが今度こそ壁にぶつかるかもしれない。さっきよりも長い距離を飛ばすことにすらなるだろう。別にそんなことしなくても抜けられるかもしれないのに……。

迷ううちにも〈ゼロ〉は一秒で20キロ進む。さっきの加速のために今それだけの速さになっているのだ。今のまま千キロ駆け抜け出口を出るのに五十秒しかかからない。

だからその間、〈ドーン〉が〈ゼロ〉に追いついてくれさえしなけりゃそれでいいこと――だよなと思った。うん、そうだ。後ろに追いかけてくる光が見えなきゃ大丈夫だろう。

そう思った。そのときに後ろにこちらを追いかけてくるものらしい光が見えた。

トンネルのずっと後ろだ。振り返ると小さな暗いほのかな光がぼおっとして見えたと思うと、それがすぐに明るさを増し、トンネルを照らすほどになる。

で、見えた。強烈な光を放つプラズマが火の玉となってやって来るのを。

〈ドーン〉だ。それは直径百メートルのトンネルに百メートルの白い火球を転がしたような光景だった。そいつがドドドーンと、古代と山本を凄い勢いで追いかけてくるのだ!

「ぎゃーっ!」叫んだ。「山本、行くぞ!」

ブースターのスイッチを入れる。〈ゼロ〉はまた、弾かれるように加速した。

途端、体に再びかかる強烈なG。

出口までは一分足らず。果たして火球に追いつかれずにそこまで辿り着けるのか。途中で壁にぶつからず、Gに体が耐えることもできるのか。

それに、もうひとつ懸念があった。山本がそれを口にした。

『タイガー隊は〈蓋〉を壊してくれているんでしょうね?』

「聞くな! おれが知るわけないだろ!」