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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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群衆



地下東京の中心にある市民野球場は今、群衆に埋め尽くされていた。

人数は二十万にも達しているかもしれない。五万人が収容できるスタンドにさらにギュウギュウに人が入っているだけでなく、グラウンドに十万にもなりそうな人が立っているからだ。

グラウンドはしばらく前まで軍によるタッドポールの駐機所となっていたが、今はそれらは飛び立って、代わりに市民に解放されていた。『ヤマト、ヤマト』と叫ぶ人が雪崩れ打って入り込み、スタンドで同じように叫ぶ者達が拳を振って出迎える。人々は皆、正面の大スクリーンを見上げていた。

球場の周りも幾万の市民が囲み、さらに続々と押し寄せてくる。

とは言え電光掲示板ならば街の至るところにあり、情報が知りたければそれで知れる。事実、どの掲示板の前にも多くの市民が立って、次の報せを待っている。すべての市民が球場目指して行進しているわけではない。

だが、〈ヤマト〉を応援し、〈ヤマト〉の勝利を祈る者らが今この街で集まろうとする場所と言えばそれは、他のどこより市民球場なのだった。街が出来てすぐの頃に人々が言った場所だった。『この地下でも我々はまだ野球ができる。野球ができるうちは大丈夫だ』と言った場所。

それが市民球場だ。いま人々は、かつて『これが希望の砦』と呼んだ場所にまた集まって、待っている。ヤマト・コールは今は鳴り止み、二十万がスクリーンを見上げて黙り込んでいた。

そこにはただ、こう書かれているばかり。

《次の情報が入り次第お伝えします》

「どうなったんだろう……」

といった小さなつぶやきがあちらこちらで漏れている。さらにまた遠くから、

「嘘だ、そんなのは嘘だーっ!」

そのように叫ぶ声も聞こえる。あの映像はデッチ上げだ。〈ヤマト〉なんかいるもんか。いてもガミラスに勝てるもんか。冥王星で波動砲を使わず勝つって? バッカじゃねえのか、そんなの信じてどうすんだよーっ!

まだ残っているガミラス教徒や降伏論者だ。球場にいる誰もが『言わせておけばいいさ』とばかりに聞こえぬ顔をしているが、その一方で不安にも思い始めてきたようだった。

確かなものが何もないのだ。冥王星で核が二回爆発した。〈ヤマト〉が敵の船を倒した映像が送られてきた。と言う、それだけで、なんの説明があるわけでも、どんな証拠があるでもない。ニセの情報に惑わされてるだけなのかもしれないゾ、と言われたら、『違う』と言い切ることができない。

ゆえに不安が広がり出したようだった。これは本当にガセかもしれない。いや、ガセではないとしても、〈ヤマト〉は結局、冥王星で敗けてしまったなんてことも――。

ないとは言えない。そうだ。だから人々は祈る思いで待つしかないのだ。〈ヤマト〉が敵に勝ったと言う確証の付いた次の報せを。

――と、スクリーンの表示が変わった。今まで出ていた文字に替わって、マイクに向かう人物の映像。

軍の広報官らしい。興奮した表情で言う。

『新たな情報が入りました。冥王星の周辺にあった敵の通信妨害がたった今なくなったとのことです』

群衆がざわめいた。「え?」「なんだ?」「どういうこと?」と言う声があちこちでする。

『冥王星の状況がリアルタイムでわかるようになったのです。これまでは像の乱れや五分程度のタイムラグがあったのですが、いま解消されました』

「え? と言うことは……」

『そうです! 詳しい戦況をお伝えできるようになったのです。冥王星でまた大きな爆発と思(おぼ)しきものがありました。まずこの画像をご覧ください!』

映った。冥王星の画(え)が。球場のスクリーンに大映しとなる。一見するとなんの変哲(へんてつ)もない茶色の星だが、

『皆様、どうか〈ハートマーク〉の縁の辺りをご覧ください! ここです! おわかりになれますでしょうか。地面から何か噴き出しているようなのですが……』

その部分が拡大される。広報官は続けて言った。

『これはどうやら遊星の投擲装置で、〈ヤマト〉によって破壊されたと思われます。〈ヤマト〉から地球のわたし達に向けて入電がありました。読みます――』

ひとつ大きく息を吸い込む。それから言った。

『「我れ、冥王星ガミラス基地を殲滅せり。これよりイスカンダルに旅立たん」』

同じ文句がテロップで映し出される。一瞬、群衆が静まった。次いでどよめきが広まった。それは歓喜の叫びとなって、地を揺るがして天井に響き、轟(とどろ)きを渡らせていった。