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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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凱旋



〈ヤマト〉の周りに集まったタイガー隊がクルクルと曲技飛行を演じてみせる。左右両舷の展望室の窓にクルーが群がって、彼らに手を振っていた。誰もが歓喜の表情だ。

クルーの目を楽しますのは着艦の順番待ちの者達である。若い順番を割り当てられた者から一機また一機とクレーンアームで引っ張られ、〈ヤマト〉艦内に呑み込まれていく。格納庫にもクルーが大勢待ち構えており、〈タイガー〉に乗るパイロットらを歓声を上げて迎えるのだった。

その多くが黄色や青や緑コードの要員だ。彼らはそれでいいのだが、そうはしてられない者もまだ多かった。第一艦橋では相原が〈アルファー・ワン〉の古代を呼んで話している。

「急いでくれ。既に敵に追われている。君達を収容してすぐに離脱だ」

『了解。こちらでも確認している』

重巡艦が十二隻。それが今、〈ヤマト〉を追いかけてくる敵だ。〈ヤマト〉としては戦わずになんとか逃げてしまいたい。

「重巡だけなら余裕で逃げられそうだけどな」

島が言うと、新見が応えて、

「ええ。どうやら戦闘機は追いかけて来ないようだし……あれは星から離れると戦えないようですね」

〈ゼロ〉と〈タイガー〉に向かってきていた〈ゴンズイ〉どもは、古代達が離脱すると後を追ってこなかった。冥王星の重力に反して飛ぶように造られた反重力戦闘機であるために、あの星から遠のくと力を失ってしまうのは、見てすぐ分析できることでもある。

だから今、あれに邪魔される心配なしに航空隊を収容できているのだが、

「しかしおそらく、敵は空母を行く手にワープさせてくる……そうなると厄介です。こちらは……」

その後を徳川が言った。「航空隊を見捨てて逃げなきゃならなくなる」

「そうです」

と言った。空母に前に出てこられたら、〈ヤマト〉は重巡艦隊に追いつかれてしまうだろう。重巡そのものは〈ヤマト〉にとってそれほど怖い敵ではないが、戦いながら〈ゼロ〉と〈タイガー〉の収容などできるわけがない。

そこで空母に攻撃機を何十と出され、空襲を掛けられたならもう無理だ。〈ゼロ〉と〈タイガー〉を置き去りにして〈ヤマト〉は逃げるしかなくなってしまう。わかりきった話だから、なんとか空母が来る前に航空隊を収容してしまいたいのだ。

そしてまた、ここまでやれば今日はもう充分だろう、これ以上は勘弁してほしいと言うのが皆の本音でもあるようだった。もう戦闘は次の機会と致しましょうよ。

何よりこれ以上ケガ人が出ると手当できない状況は続いていることでもあるし……と言うわけで今は逃げる。逃げの一手あるのみだ、と言うのが皆の一致した考えなのだ。

エレベーターの扉が開いてアナライザーが出てくる。艦橋クルーの皆が歓呼で迎えた。そこで相原が言った。

「地球から入電です。『ありがとう』。これに動画が付いています」

「ほう。なんだ」

と沖田が言う。相原はメインスクリーンに映してみせた。

表れた画(え)は、野球場だ。そこに集(つど)い、〈ヤマト〉の勝利に沸く群衆を撮影したものとわかった。

ひとつではなく、パッパッパッと切り替えられて次から次に。世界中の地下都市で中心にある野球場にそれぞれ十万を超える市民が溢れている光景。

それを写したものとわかった。皆が息を呑みそれを見上げた。

「これ……みんな、〈ヤマト〉の名を呼んでいるのか……」

と太田が言った。しかし元々この男が自分で言ったことのはずだ。冥王星で敵に勝てば人は希望を取り戻し〈ヤマト〉の帰りを信じて待つようになるだろう、自分の病気の親もまた、と。しかしこれほどの光景は想像していなかったようだ。

レーダー手席で森が嗚咽(おえつ)し涙をこぼした。旅立ちのときにそうしたように。

四週間前に彼女はここで、野球場の映像を見た。〈ヤマト〉のエンジン始動のために暗くされた観客席で『バカ野郎ーっ!』と叫んでいた人々を見て、どうしてなのかと言って泣いた。あと一年で女が子を産めなくなる。わたし達がそれを止めに行くことがあの球場にいる者達にはわからないのかと言って泣いた。

しかし、そのとき人々は、〈ヤマト〉を信じていなかったのだ。彼女もまたそのときに古代を信じていなかったように。

彼女の眼前のレーダー画面には《A1》の印の付いた指標もまた映っている。〈アルファー・ワン〉。古代進。

その機体は〈ヤマト〉の前方、艦橋窓から眺めて艦首フェアリーダーのすぐ上にいま浮いている。まるで我こそはフェアリーダー、『船を正しい方向へ導く者』だとでも言うように。

「ふむ」と沖田は動画を見終えて、「いいだろう。全艦に流してやれ」

「はい」

と相原が言う。さらに沖田は、

「わしはこれから……」

言って立ち上がった。いや、立とうとしたのだが、しかし立てずによろめいた。沖田は椅子から転がり落ちて床に倒れた。