敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
迷宮の案内人
「ここにいるおれ達で、その穴に潜るのか」敷井は言った。「で、おれ達で電気を戻す……」
「そうするしかないだろう。他に考えがあるか」
と足立が言う。一同を見渡して、
「どうせここにいても死ぬんだ。逃げても死ぬし、味方に合流しても死ぬ。おれ達が生きる望みはひとつだけだ。他に何か道があるのか」
「そりゃあ」とひとりが言う。「そうかもしれないけど……」
「おれ達しかいないんだ。迷っている時間もない。だからとにかく、おれは行く。一緒に来るかは自分で決めてくれ」
「話はわかるが、この人次第じゃないのか」とまた別のひとりが宇都宮を指して言った。「行けばまっすぐ敵の元に通じてるってもんならいいが、そうでないなら道案内が……」
「そうだ」とまたひとりが言う。「どうなんだ? 勝手を知らない人間には中は迷宮なんじゃないのか?」
「はあ」と宇都宮。「たぶん、そう言っていいんじゃないかと……」
「だろう? そうに決まってる。案内なしに行けるもんと思えないよ」
「って、ぼくにこの中を案内しろと言うんですか」
宇都宮が言った。全員が彼の顔を見た。
「言いにくいが……」ひとりが言いにくそうに言った。「そういうことだ」
「それは……」
「断っておくが、もしおれ達がその穴に飛び込むのによりふさわしいエリート部隊だったとしても、やはりあなたに道案内を頼むと思う。皆が頭にカメラを着けて中に入り、その映像をあなたがクルマの中かどこかで見て道を教えるなんていう話にはたぶんならないはずだ。失敗すればどうせあなたも息ができなくなって死ぬ。中に入って戦って死ぬか、外で死ぬのを待つか、その違いだ」
「それは……話はわかりますが……」
「わかってる。よく考えて答えてくれ。おれはあなたが案内してくれると言うなら行くよ」
とその男は言って足立の顔を見た。それから首を振って言った。
「いや、違うな。たとえそうでなくても行く。おれも行くよ。たとえ何が待っていようと……」
足立が頷いた。そのときに、また近くで砲弾が弾けた。桜の木が砕けて吹っ飛ぶ。
皆あらためて地に伏せた。葉や小枝が降り積もった。頭を上げたときには全員、覚悟を決めた顔をしていた。
「わかった。おれも行くよ!」「ああ!」「そうだな!」
口々に言う。敷井も地を這いながら頷いた。
「行くよ。それしかない」
言って、それから宇都宮を見る。彼はまた一同を見回して、情けなさそうな顔になった。
だが選択の余地はないはずだ。少なくとも穴に入れば、砲弾で今の桜の木のようにバラバラにされることはない。
そんなことを考えたような顔つきになった。宇都宮は言った。
「わかりました。ぼくも行きます」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之