敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
事の成り行き
冥王星のガミラス基地司令室で、オペレーターがシュルツに告げる。
「先ほどの主砲への狙撃ですが、直撃にはならなかったもようです。おそらくたいしたダメージは受けていないでしょう」
「ふむ」とシュルツ。「にも関わらず、あといくつも残っていない衛星をひとつ失ってしまったわけか」
ガンツが言う。「どうするのです。もう一度やつの主砲を狙いますか?」
「さて、どうしたものだろうな。完全に潰す必要はないのだ。あまり〈ヤマト〉を壊したくない。戦闘力を奪えさえすればいいのだから……」
「目的は果たしたものと……それでは後ろについている三番目のやつをやるのは?」
「それもいいが、さてどうかな。〈カガミ〉がまだ充分にあればそうするところだが、残り少ない。となれば、ここはエンジンではないか? やつを逃がしてはならんことを考えたなら……」
「なるほど。メインですか、サブですか?」
「どちらでもいい。狙いやすいやつをやれ。どうせやっぱり手加減をしないわけにはいかんのだ。エンジンでなくノズルだけをブチ抜いて戦闘速度を出せぬようにしてやるくらいがいいのだが……」
「となると、メイン……」
「そうなるか。それはできるか」
シュルツは砲撃オペレーターに聞いた。オペレーターは「やってみましょう」と応えて機器の操作を始める。
そのときだった。レーダーのオペレーターが、
「お待ちください。〈ヤマト〉が進路を変えました。また注意エリアに入ろうとしています」
「なんだと? またか。まさか、〈死角〉に気づかれたと言うのではあるまいな」
「そういうわけでもなさそうですが……」
ガンツが言う。「もし気づいたとしても、〈ヤマト〉で直接乗り込んで行くということはないでしょう。戦闘機隊を差し向けるか、巡航魚雷でも放つはずです」
「確かにそうだが……しかしさっき、妙な通信を傍受したと言ったな」
「はい」と通信オペレーター。「奇妙な暗号らしきものを」
「解読はできたのか」
「いいえ。これは囮の通信かもしれません」
「いや、違うな。こちらが〈カガミ〉を使っているのにいずれやつらは気づくだろう。通信はビームの秘密を伝えたと見るのが妥当だ」
「かもしれませんが……」ガンツが言った。「だからと言って、砲台の位置がやつらにわかるでしょうか。それに〈ヤマト〉が直々(じきじき)に向かうというのは考えにくく思います」
「ふうむ。注意エリアに入られる前に〈ヤマト〉を撃つことはできんのか?」
「無理です」と砲撃オペレーター。「エンジンノズルを狙うとなると、今からでは……」
「ですが指令」とガンツが言う。「『注意エリアに奴が入る』と言うのはつまり、〈カガミ〉で反射させなくても直接に……」
「わかっているが、エンジンを狙えるわけでもあるまい」
「それはそうです。しかし〈ヤマト〉は、またエリアを通り抜けるかもしれません。そのときならば後ろから……」
「なるほど。まっすぐ、やつの尻を突いてやれるな」
「そうでしょう。エンジンさえ潰してやれば、ビーム砲台はどうせ不要になると言うことになりませんか?」
「一考の余地はありそうだ。ガンツが言ったことはやれるか」
砲撃オペレーターに言うと、
「敵の進路次第ですが……いえ、ちょっとお待ちください。〈ヤマト〉がまた針路を変えました。まったく別の方角へ行こうとしているようです」
「なんだと。またか! どうなっとるんだ。やつら、マジメにやる気あるのか。いいかげん、成り行きを見てる連中はイラついてるぞ」
「そう言われましても……」
今、カイパーベルトでは、〈ヤマト〉を〈坐礁〉させたなら波動砲を調べてやろうと待ち構えている者達がジリジリしながら戦況を見守っているはずだった。しかしもちろんそんなこと、〈ヤマト〉が気にかけるはずもない。シュルツが見るスクリーンの中で、〈ヤマト〉は傷つき煙を吹く船体を振って舳先を別の方向へと変えさせていた。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之