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しょうきち
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冒険の書をあなたに

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序章 異世界へ〜邂逅



 それは澄み渡る空の下、うきうきと外出をしたくなるほど穏やかなある日のこと。
 女王アンジェリークは軽やかな足取りで地の守護聖の執務室へと向かっていた。

 アンジェリークが執務室の扉を二回叩くと少しの間を置いてそっと扉が開き、中から待ち構えていたかのように喜びを頬に浮かべた地の守護聖ルヴァが顔を出した。
「いらっしゃい、お待ちしていましたよ。さあどうぞ」
 アンジェリークを執務室に招き入れ、後ろ手に扉を閉めた途端に相好を崩す。
「会いたかったですよ、アンジェ」
 今日は愛しい恋人との久し振りの逢瀬となり、ルヴァは雀躍していた。
 普段はルヴァが女王の居住スペースへ出向くことのほうが割合多かったが、たまには外出したいという彼女のささやかな願いで昔のようにアンジェリークからの訪問を待っていたのだ。
 陽射しが余り入らないこの部屋はいつも少しひんやりとして心地良いのだが、喜びに満ちたルヴァの体は暑ささえ感じるほどだ。
「ええ、わたしも会いたかったわ。ちょっと遅くなってごめんなさいね、刺繍の仕上げに時間がかかっちゃったの。これ、試作品なんだけどちょっと巻いてみて」
 そう言って手渡されたのは、白地をベースに端へ行くにつれ緩やかに青碧色へと染め上げられた細長いターバン。その裾には神鳥の紋章が美しく刺繍されている。
「いい手触りの布ですねぇ。仕上げということは……この刺繍はまさか、あなたが?」
 アンジェリークは幸福感に全身が浮かび上がっているかのような様子でこくりと頷く。
「いまね、ロザリアと一緒に刺繍をしているの。ちょっとした合間にできるからいい気分転換になるのよ」
 手軽なハンカチなどの小物ではなく敢えて人目につくターバンに刺繍を施したのは、宇宙の次に愛しているのは彼だけだという、女王の密やか且つ堂々とした宣言。
「ターバンだったら、身につけてるのルヴァだけだから……」
 少し恥ずかしそうに頬を染めるアンジェリークから告げられた言葉の中にひたむきな想いを感じ取り、ルヴァは心を打たれずにはいられない。
 すかさず自分の頭に手を伸ばし、きっちりと巻かれたターバンを解き始めた。
 アンジェリークは実際のところこの瞬間を見るのが好きだったが、余り毎回ジロジロと見るのも不躾だから、と視線を逸らす。
 そして眼前でするすると解かれていく見慣れた布地の向こう、執務机の上に不思議な表紙の本を見つけた。
「新しい本でも読み始めたんですか?」
 近付いておもむろに手に取ると、本の表紙にしては珍しい酷くしっとりとした感触で、薄茶色でうろこ状の模様をしていた。
「こんな表紙は初めて見ました……どこの星の本なんですか?」
 書いてある文字らしきものは見たこともない形をしていた。
 解き終わったターバンを軽くまとめながら、ルヴァがアンジェリークへと視線を投げた。
「珍しいでしょう。書架の隅にあったものを昨日見つけましてねー、ここにある本はほぼ読み尽くしたと思っていたんですけど、この本はどうにも見覚えがなくて」
 ルヴァはまとめたターバンを小脇に抱え、試作品だという刺繍入りのターバンを慣れた仕草で頭に巻きつけ始める。
「実は私にも読めない言語で書かれているので、先代の残していった本かと思うんですがね……はい、巻いてみましたよー。似合いますか?」
 新たに巻かれたターバンを指差して、期待を込めたまなざしで訊いてみた。
 内心、アンジェリークが丹精込めて施した刺繍入りの逸品が似合わない筈がないと思ってはいたが、ここは彼女からの賞賛が欲しかった。
 そんなルヴァの様子に微笑みつつ、アンジェリークは青碧色に淡くグラデーションを描いていく布地の先に、豪奢な──この刺繍だけで二ヶ月費やしている──紋章の刺繍がかすかに揺れるのを眺めた。
「なんだか自画自賛してるみたいで恥ずかしいけど……素敵よ」
 くすぐったいような気持ちに駆られて、アンジェリークは落ち着かない様子で思わず手に取ったままの本へと視線を落として表紙をめくり、あることに気がついた。
「……あら? ここ……神鳥の紋章が入っていますよ、ほら。それなのにルヴァが読めないだなんて……」
 本の中表紙にはっきりと印刷された、神鳥の紋章。
 そしてその下に書かれた一行の文章とおぼしき文字列。
 この神鳥宇宙のどこかで書かれた書物なら、ルヴァが読めないということ自体が既にかなり珍しい。
 何故ならば星から星へと人々が移動すれば言語はそのまま、或いは複雑に交じり合い受け継がれ、新たな人類が誕生した場合でも、その星独自の言語にもある一定のパターンが生まれるからだ。
 そしてこの聖地の生き字引、歩く百科事典の異名を持つ彼ならば、新たなパターンをも類推しつつ解読するのはそう難しいことではない。
「そうなんですよー、私も見たことがない言語なのに、この紋章……一体どういうことなのかと」

 ルヴァがアンジェリークの背後から彼女の手の中にある本を覗き込んだ刹那、本から視野を塞ぐほどのおびただしい光が放たれた。
「きゃあっ!」
「アンジェリークッ!!」
 驚いたアンジェリークの悲鳴に、ルヴァは咄嗟にその華奢な体を抱き締めた。
 目を開けていられないくらいの強烈な光が辺りを包み、そこで二人の意識は途切れた。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち