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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 一方ルヴァはティミーに連れられるままに歩き続けていた。
「あーあの、ティミー? 一体どこまで行くんですかー。あんまり遠くに行くと危険ですよ」
「あのね、砂漠の薔薇を一緒に探して欲しいんだ。昨日見せたのはお父さんが見つけたものだから、ぼく自分のが欲しいんだ」
「ああ、そうでしたかー。そういうことなら私もお手伝いしますよ」
「ありがと、お兄ちゃん。前に見つけた辺りまで行ってみよう」
 そうして二人で少しずつ砂丘を上っては下り、ルヴァの目には平地と分かる場所に辿り着いた。そしてそれから小一時間辺りを探し回ってみるものの、なかなか見つからない。
「ねえ、お兄ちゃんは兄弟とかいるの? ぼくはポピーがいるけど、双子だからあんまりきょうだいって感じしないんだよね」
 足元の砂に埋もれていないか、目を皿にしてくまなく探しながらティミーがそんな質問をしてきた。
「私にはね、弟が一人いたんです。小さくてやんちゃでね……とっても可愛い弟でしたよー」
「へえー。ほんとにお兄ちゃんだったんだね! その子はぼくより小さいの? ……あれ、でももうその人も大人だよね? お兄ちゃんはお父さんと同じくらいの大人だもんね。今その人どうしてるの」
 子供の視点は鋭いものだと感心しながら、いまだに振り切ることさえ叶わない、底知れぬ寂しさが胸に再び去来していた。
「……弟がまだ小さい頃にね、お別れをしたんです。それからもうずっと会っていませんが、どんな大人になったのかなーって時々思いますよ……」
「なんでお別れしちゃったの?」
 ルヴァはそこでとうとう言葉に詰まってしまった。これ以上話せば泣いてしまいそうだった。
「……話せば長くなってしまいますからねぇ……また今度お話しましょうね」
 ルヴァは咄嗟に嘘をついた。
 背を向けてそっと目頭を押さえる後ろ姿をティミーがじっと見つめていた。
「うん、それより今は薔薇探しだよね!」
 昔のことを訊いたときにお父さんも時々ああやって誤魔化すことがある、とティミーには覚えがあった。大人になると話せないことも出てくるのだと思っていた。
「うーん、前にここら辺に落っこちてたんだけどなー。ねえお兄ちゃん、あれってなんで花の形になってるのかなあ」
 何事もなかったかのように別の話題へと変わっていった。
「あれはですねー、水の中に色んな成分が溶け出て結晶になるんですけどね、どうしてあのような形になっていくのかはまだ解明されてはいないんですよ」
 ふうん、とティミーが割とどうでも良さそうに返事をしたとき、ルヴァの視界に何かが埋もれているのが見えた。
「ティミー、そっちにね、ちょっと埋まってるみたいですよー。見て御覧なさい」
「え、どこどこ?」
 指差された場所へとすぐに駆け出して、砂を手で掻き分けるティミー。
「……ほんとだ、あった! しかも結構大きいよ、こぶみたいにいっぱいくっついてる!」
 そっと掘り出したそれは大小様々な大きさの丸い薔薇状の石が塊になっていた。
「これなら幾つかに分けても大丈夫かなあ……」
 ティミーはそう言うと背負っていた剣をすらりと引き抜いて、切っ先を砂漠の薔薇へと宛がった。
「おや、割ってしまうんですか?」
「そう。ぼくの分と、皆にあげる分に分けちゃう。柔らかいからすぐ割れるしね」
 緑色が鮮やかな竜の翼を象った天空の剣は、大柄の魔物の骨ですらすっぱりと切断できるほどの切れ味だ。ティミーの言葉通りに柔らかな石膏の塊など容易く分断されていった。
「よし、この一番大きいのをぼくのにする。小さいけど綺麗な薔薇模様のは、お姉ちゃんとポピーにあげよう。あとこのちょっと大きめのはお母さんのとー、はい!」
 ティミーのより少し小ぶりの塊がルヴァの手に乗せられた。
「私が貰ってもいいんですかー?」
 誇らしげににっこりと笑って大きく頷くティミー。
「うん。一緒に探してくれてありがと、お兄ちゃん。薔薇は見つかったしそろそろ戻ろうよ、陽が傾いてきたし」

 ティミーがルヴァの指先をきゅっと掴んだ瞬間に、ルヴァの目が見開かれ、眉が僅かに寄せられた。
 その小さくて柔らかい手の感触に思わず涙が滲んだ。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち