冒険の書をあなたに
支度を整えて朝食を済ませた後、リュカが食後のミントティーを口にしながら唸っていた。
「皆に質問です。人間の城や街以外で、大きな書庫がある場所と言えば?」
ポピーがまず一番に手を挙げた。
「ハイ! 妖精の城ー!」
続いてティミーも負けずに手を挙げて答える。
「ハイハーイ! 天空城!」
ミントティーに砂糖をザラザラと入れながら──実は相当な甘党のようだ──ビアンカも答えた。
「あとは……これから行く魔界のどこか、とか?」
リュカはうーんと更に唸って眉間に皺がよった。
「その中で行きやすいのは……やっぱり天空城かなあ」
ルヴァとアンジェリークは吐きそうなほど甘ったるいお茶を少しずつ飲み下しながら、一家の話の流れを聞いていた。
ティミーが二人のほうを見ながら話を補足してくれた。
「天空城にはね、竜の神様マスタードラゴンがいるんだよ。でっかい竜なんだ!」
マスタードラゴンの住まう城。
ルヴァの視線がちらりとリュカのほうへ向けられ、彼の言葉が続いた。
「じゃあ、まず天空城へ行ってみましょうか。そこで手掛かりがないようなら、妖精の城って流れかな」
出発前にルヴァはもう一度改めてテルパドールの風景を眺めた。
風が作り出した規則的で美しい砂紋。白く輝く太陽に照らされた砂丘。
そして薄青の空に舞う羽根のように軽やかな雲────偶然訪れたこの世界は何処もかしこも全てがそれぞれに美しいと、ルヴァは感慨に浸った。