冒険の書をあなたに
四人が集まった頃を見計らったかのように天空城がゆっくりと浮上を始め、アンジェリークの驚いた声が響く。
「わっ、動いた!」
少しよろけたアンジェリークを咄嗟に抱きかかえてルヴァが心配そうに見つめた。
「アンジェ、転ばないように気をつけて下さいね。ほら、私に掴まっていて下さい」
言われるがままにルヴァの腕にしがみつきながら、徐々に遠ざかる地上を眺めた。
肌に触れる風がどんどん冷たくなっていく。
天候から気圧まで何もかも調整されていた飛空都市よりも、城一つのほうが規模は小さい。だが体感があるのとないのとでは受ける印象がまるで違う。
「飛空都市も浮いていたけど、こういう眺めじゃなかったものね……迫力が全然桁違いだわ」
ポピーはその話を聞きたそうなそぶりで身を乗り出している。
「アンジェ様の世界にも、こういう浮いてるお城があるんですか?」
「ええ、お城じゃないけど似た感じのはあるわ。わたしはそこで女王を決める試験をしていたのよ」
「いいなあ、いつかそちらの世界へ行ってみたいです。アンジェ様が女王様してるとこ、見てみたいなあ」
この優しい天使と賢者がこのまま留まってくれたらいいのに、とポピーは内心思っていたが、言ってもきっと困らせてしまうだけだろうからとそれを口にすることはなかった。
「ふふ、あなたたちだったらきっと他の守護聖たちも気に入るわね。それにルヴァのお仕事してる姿、とってもかっこいいのよ? 指先からね、こう光がぱーっと出てね、凄く綺麗なの!」
身振り手振りでルヴァのサクリアを出す真似をするアンジェリークに子供たちの目が一斉に輝いて、二人同時に叫んだ。
「みたーい!!」
ルヴァは頬に血が上っている感覚がして、居心地が悪そうに片手で顔を覆った。
「あ、アンジェ……。あーその、なんと言いますか……恥ずかしいですよ……」
それでもアンジェリークに褒められるのはとても嬉しくて、これが子供たちの前でなければすかさず口付けてしまうところだった。
「あああのっ、ええとっ、ほ、ほら空! 結構高く昇ってきたと思いませんか!?」
無理やり話を変えたルヴァの様子に全員苦笑しながら、ゆっくりと移動を続ける天空城からの景色を堪能していた。
すぐ目の前を濃い霧のような雲が現れては千切れ行く。
冷たい風は更に強さを増して、千切った雲を霧散させている。
青空を落とし込んだかのように床石の青がより一層美しく映え、小さな粒が光をきらきらと反射させていた。
もう地上は雲の切れ間からちらほらと垣間見えているだけだ。どれだけ高価な絵の具でも絵に表せないほどの鮮やかな青い青い海が眼下に広がっている。
二人はその景色を記憶に焼き付けるために、暫し黙ったまま眺めていた。
旅の終わりが少しずつ見え始めていた。