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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 そして女官長に連れられてきたグランバニア城のある一室で、ドレスに着替えさせられたアンジェリーク。
 この世界へ来たときに着ていたドレスは綺麗に手直しをされ、ハイネックの美しいノーブルなドレスへと生まれ変わっていた。
 後ろ身頃にあった染みの箇所は大胆にカットされて腰の辺りまでレース生地が宛がわれ、神鳥の刺繍が入ったデコルテラインや袖もこちらの季節に合わせて通気性のいいレースの長袖に変えられていた。前身頃中央を縦断していた黄金の生地部分も取り外されて、代わりに繊細なボビンレースが惜しげもなく使われている。
 元のマーメイドラインを活かしながら膝下辺りから切り替えでふんわりと広がる裾────王道クラシカルなウェディングドレス。元々のドレスにある気品を損なわずして豪奢に変身を遂げたデザインは、アンジェリークが持つ女王の気高さをより一層高貴に見せた。

 女王として人に傅かれる生活も長くなったお陰でここでもさほど動じることなく使用人たちに囲まれていた。
 ドレスに粉が飛ばないように覆いをかけられて丁寧に化粧を施され、髪は綺麗に編み込まれていく。
 このとき使用人たちにはある命令がリュカから出されていた──「敢えてアンジェリークの意見は訊かぬ様に」と。
 グランバニア国王であるリュカの力ならば、ここで花嫁の意向を全て叶えることもできる。だが何の準備も時間もない中で、ありていに言えば「間に合わせの式」でしかないのだ。
 二人とも想い合っている今が一番若く美しいとは言っても、本来なら彼ら二人で決めるべきことに口を出すつもりはない。これはあくまでもリュカとビアンカからのサプライズである────それが彼なりの気遣いだった。花嫁であるアンジェリークの夢や希望を叶えるのは自分の役目ではない。そう考えたからこそ、自分たちの我侭に付き合わせる形を取ったのだ。

 最後にシルクのヴェールをそっと下ろされたアンジェリークが部屋を出ると、そこにはスライムナイトのピエールが跪き控えていた。
 久し振りに逢った騎士の姿に、アンジェリークは嬉しそうに目を細めた。
「あら……あなた確か、ピエールさん?」
 ここでリュカの右腕を配置した理由、それは護衛の意味も為していた────アンジェリークであれば魔物たちの言葉を理解し、意思の疎通が図れる。
 グランバニアは慶事の際に二度も魔物の襲撃を受けている。その為万が一を考えて先導役には彼が特に信頼し、礼節を重んじるピエールを抜擢したのだ。
 アンジェリークの声に少しだけ顔を上げ、ピエールが姿勢を正す。
「この度は誠におめでとうございます。我が主より先導するようにと申し付かりました。ここから教会までは距離がありますので、どうぞ足元にお気をつけ下さい」
 ドレスの裾は使用人が持っていたが、ここグランバニアの人々は魔物が近くにいても本当に顔色ひとつ変えない。リュカの仲間であり家族でもあることをよく理解している。
 一段一段、ゆっくりと歩を進めて階段を下りていく。視界の先には小さくジャンプをしながら下りていくピエールの姿がある。
 今朝からの突然の話に頭の中では未だ混乱が続いていたものの、アンジェリークは段々と胸が高鳴っていくのを感じていた。

 祭壇の手前にある階段前で、ようやく愛しい人の姿を見つけた。
 ターバンの生地色に合わせたオフホワイトのフロックコート姿のルヴァは、アンジェリークを見て僅かに目を見開き、それから照れ臭そうにはにかんだ。
 こちらの世界でもローブ系の服が比較的多いこともあり、着丈が長く落ち着いた────敢えて言い換えれば多少古風な印象のフロックコートがまだ主流のようだ。
 フロックコートの襟や袖口にターバンと雰囲気を合わせた刺繍のモチーフが所々縫い付けられて、その色味も相まってルヴァの端正な顔立ちを引き立たせ、彼の持つ穏やかな雰囲気にとても良く合っていた。そして全体的に細めに作りこまれているので彼本来のスタイルの良さが際立っている。

 ピエールに先導されてきたアンジェリークがルヴァの隣に並んだ。ピエールは鎧の音が出ないよう、スライムに這うように動けと合図を出して静かに下がっていく。
 ルヴァは手に持っていたブーケをアンジェリークに手渡す。見覚えのある星の形のような五枚の花びらと馴染み深い香りに、そっとブーケを顔に近づける。
「……これって」
 ジャスミンのブーケだ、とアンジェリークは目を丸くした。
 どうして、どこで────そう言いかけたアンジェリークを、ルヴァはまなざしだけで制止してから囁いた。
「質問はあとで。さ、行きましょう」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち