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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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あめのした

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牧の端に、沢が出来ていた。
最近の長雨が溜まったのだろう。秋晴れを鏡のように映す水面に手を浸す。期待したほど冷たくはない。
水に溺れた秣は腐る。どこかから水を抜かねば、と立ち上がり首を巡らせると、沢の対岸に人影があることに初めて気が付いた。一瞬ぎょっとして、すぐに苦さが口に広がる。
対岸の男の口元に浮かぶ、冷笑が見えたからだ。
「馬糞掃除も随分と様になっているな。目を開けたまま寝ているのかと思うほど、牧歌的だ」
「薄気味悪いかかしがいると思ったら、おまえか、公孫勝」
憎まれ口を鼻で笑い、公孫勝は水を手で掬い顔に浴びた。よく見れば公孫勝の服はやたらと泥に汚れている。公孫勝の肩からはらりと木の葉が落ち、水面に浮かんだ。
「随分と薄汚れているな。高廉にでも振り回されたか」
「ただの調練だ。致死軍の調練は、騎馬隊のそれほど甘くないのでな」
いつも通りの皮肉だった。公孫勝はこちらを向きもせず、顔を洗う。上掛けを脱いだ公孫勝が、軽く顔を拭った。汚れの落ちた白い顔は、ことさら白く見えた。
「まだ汚れが付いているか?」
林冲の視線に気が付いた公孫勝が問うてくる。
「見えるか」
「ならなぜ、いつまでもそこで惚けている」
公孫勝の口の端が、皮肉っぽく上がる。その頬に、きらりと光るものが落ちたのが見えた。
「おまえも、水に濡れるのかと意外だった」
林冲の言葉に返されたのは、秋風だけだった。水面の木の葉が、逆さの公孫勝の姿をかき混ぜながらこちらに近付いて来る。
「馬鹿か、おまえは?」
呆れ果てたのか、もはや感心のような響きを含んで公孫勝はやっとそう言った。
「おまえが梁山泊に入ってすぐの頃、晁蓋殿から聞いた。大嵐の中を、濡れずに集合場所まで来たと。なんとなく、おまえは水に濡れないのだと思っていた」
嘘ではなかった。だが、馬鹿正直に言う必要もないことだった。
暫く奇特の眼差しで林冲を眺めていた公孫勝が、喉の奥で笑い始めた。秋晴れにまるで似合わない、不快な笑い声だった。胸が悪くなる。
「雨が私を避ければ、どうということもない話だ」
「からかうな」
「私は汚れすぎている。雨とて私を雪ぎたくはないのだろう」
皮肉めいた笑みを崩さずに、公孫勝が言う。
「冗談にしてもどこが面白いのだ。趣味の悪い自虐にしか聞こえぬ」
「馬鹿には分からぬか」
「おまえ以外の全てがおまえを避けるのなら、何がおまえを雪いでくれるというのだ」
「つまらぬ問答だ」
「おまえの冗談よりはましだ」
水面が風でさざなみ立つ。いつの間にか、木の葉が林冲の側に流れ着いていた。
「私は私しか雪げぬ。他の誰を助けることはできても、救うことは私にしかできないし、私も私を救うことしかできぬ。結局、救いなど自分の心の持ちようなのだ」
公孫勝の額から垂れた雫が、目の切れ込みへ流れ込む。公孫勝は鬱陶しそうに瞬きをした。濡れた目と顎を結ぶ水のあとが、余りに似合わなくて、いっそ作り物じみて見えた。
「おまえの涙がおまえを雪ぐと言うのか。涙など持ち合わせておらんくせに」
林冲が吐き棄てると、公孫勝が肩を震わせて笑った。
「林冲のくせに、私のことを分かっているような口を利く」
林冲を値踏みするように、薄い瞳が見つめる。唇に当てた指の端から、はみ出た口角が釣り上がっているのが見えた。
忌々しい秋晴れが投げかけた光が、水面に反射して、公孫勝の濡れた頬を照らしている。

やはり公孫勝に涙は、不気味なほどに似合わなくて、居た堪れないほどの気分の悪さに空を仰ぐ。
風は乾いて涼しい。公孫勝の頬もすぐに乾くのだろうと思った。