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D.C.2 SS 寒い日はホットミルクでも

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雪と桜の花びらの自己主張。夜なのだから、もっと仲良くできないのか……なんて、今の私は言えないよね。本当は私が悪かっただけ。それなのに、怒って家を飛び出してしまった。お姉ちゃんに見つかったら何て言われるかな?

「……うぅ……寒い」

 お風呂に入った後だから、ほんのり髪の毛が湿っている。加えて上着も羽織らずに外へ出てしまったし、体が冷えやすくなっているのも相まってとても寒い。手を擦り合わせ、息を吐き、何とかならないかと試してみるも焼け石に水。手が温かくなるだけで根本的な解決にはならない。一番の解決策は家に帰って、兄さんにごめんね、と一言。たったそれだけでいい。

 でも、変な意地が私を思いとどまらせる。誰だってあるじゃない? 自分が悪かったとしても、決して引けない時って。あぁ、また思い出したらむかむかしてきた。

 それはついさっきのこと。私が小学生の頃に兄さんに買って貰った、もうボロボロになったカップを眺めていた時だった。

「何だそれ?」

 この一言が私の逆鱗に触れた。だってこれは、兄さんが初めてプレゼントしてくれたものだったから。それもお小遣いをもらって、ではない。おじいちゃんのお手伝いを何回もこなして、少しずつ貯めたお金で、丸一日かけて選んでくれた物だったから。

 もうボロボロで使えないから仕舞い込んでいたけれど、大晦日の掃除を(かったるいながらも)ほどほどにやっていたら出てきた。あの時はカップを選ぶのに疲れちゃってて、ちゃんと「ありがとう」って言えなかった。そう思って、わざと見せびらかすようにして。

「お、懐かしいな。まだ持ってたのか?」

 これくらいの一言を期待していたのに。
 結局寒さに負けて家の前まで戻って来た。でも居間に電気が付いているし、きっと兄さんは起きているだろう。明日にしようか、なんて。

「あれ、由夢ちゃん。何か忘れ物?」

 今まさにUターンしようとしていたら扉が開いて、さくらさんがひょこっと顔を出した。半纏を着て、目がしょぼしょぼしているところを見ると、これから眠るところなのだろう。それなのに出てきたということは、それだけ目立っていたということ。そう考えると恥ずかしくなってしまい、

「へ? や……えっと……ま、まぁ、そんなところです」

 そんなことを口走ってしまった。

「あー、やっぱり。義之くんは居間にいるから、どうぞー。ボクは寝るから、お休みー」

 何で兄さん? と思ったけれど、あくびをしながら階段を上って行くさくらさんを引き留めることができなかった。いつも忙しそうに働いているさくらさんだから、ゆっくり休んで欲しい。

 入ってしまったものは仕方ない、ということで、開き直って居間を覗いてみると……兄さんがコタツに突っ伏して眠っていた。

「は……はぁぁぁ……」

 なぜか全身の力が抜けていく。苦悩した時間を返して欲しい。兄さんときたら、私の気も知らないで気持ちよさそうな寝顔だし。悪戯でもしてやろうか、と思って屈むと、兄さんの顔の下に何かあった。

「あれ……これ、アルバム?」

 古いアルバムが開いたままになっていたのだ。兄さんがアルバムを見るなんて珍しい。気持ちよさそうに寝ているのは、教科書と同じような催眠効果でもあったからだろうか。私はそんなことないが。

汚れたら嫌だったし、ちょっと意地悪する気持ちで強引に引っ張り出してみる。顔がコタツにぶつかって音がしたけれど、これでおあいことしておこう。

アルバムを見るといつ撮ったのか覚えていないが、食卓の風景の写真が入っていた。並んでいる食器や箸から、私が小学生くらいの頃の物だ。

 そして、テーブルの上にはお気に入りのカップ。昔の私がそれを大切そうに抱えていた。昔はこのカップしか使わなかったんだよね。

「……久しぶりに、このカップを使おうかな」

 大切過ぎて、使い過ぎて、最後には仕舞い込んでしまったカップ。昔はお茶やジュースを飲んでいたけれど、今日はちょっと大人にミルクにしてみよう。寒かったから、ホットで。

「……由夢、忘れて悪かったな」

 兄さんがうつ伏せのまま、そんなことを言った。やっぱり起きていたのだろう。アルバムに催眠効果なんてあるはずがない。それも、あんなベストページでなんて、今度こそ許さないんだから。

「……兄さんも飲みますか? ホットミルクですけど」
「あぁ、頼む」

 どうやら、お礼を言うのはまた今度になりそうだ。