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スイートギフト

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「ど、どうですか?」
オーブンの中を覗いていたラピスが、シルヴィを振り返った。
シルヴィが頷きながら笑顔で答える。
「初めてなら上出来です。取り出したら、冷めるまで待って詰めましょう」

ラピスとシルヴィは朝から宿屋の台所を借りてクッキーを作っていた。料理は人並みに嗜むものの、菓子作りの経験はないラピスが、シルヴィに教えてもらう形だ。
二人が鉄板から冷ます為の網にクッキーを移していると、通りかかったニコが台所の入口から顔を覗かせた。
「あれ~何かいい匂いがするよ」
「あ、ニコさん、おはようございます」
「ねえねえ、二人とも何やってるの…あ!」
テーブルの上のものを発見すると、二人の答えを待たずにニコは目をきらきらさせながらクッキーの乗ったテーブルに寄ってきた。
「わ、クッキーだ!おいしそう!これラピスが作ったの?」
言うが早いかクッキーをつまんで口に持っていく。
「いただきまーす」
「あっ!だめです、ニコさん!」
「えっ」
叫んだシルヴィの声に驚き、ニコがつまんだクッキーを落とした。
「ごめんなさい。ラピスさんの作ったこれは上げられないんです」
「ええ~、これ食べちゃダメなのー」
ニコが指を咥えながら、未練がましく並んだクッキーを見つめた。しゅんと耳を垂らして残念がっているニコにシルヴィが苦笑いする。
「ニコさんには私が焼いた分を差し上げますから、後でお茶にしましょう」
「うん!」
一転して嬉しそうな顔になったニコが、その後不思議そうにラピスを見た。
「でも何でラピスが焼いた分はだめなの?」
「そ、それは~…」
ラピスは人指しゆびを突き合わせてもじもじしている。

きっかけは三日前の会話である。
シルヴィと同室のラピスは、寝るまでの時間をよく二人でとりとめのない話をして過ごす。内容はその日の出来事、趣味や食べ物のこと、互いの悩み、いろいろだが、その時はたまたま恋愛の話になった。
恋愛観や憧れのシチュエーションとかそんな感じのことで盛り上がっていた最中、シルヴィがふと口をつぐみ、ラピスの顔をじっと見つめた。
「実は前から伺いたかったのですが、ラピスさんはファングさんを好いていらっしゃるのですよね?」
「ふぇっ!?」
いきなりそんなことを聞かれて、ラピスは焦ってどもりながらぶんぶんと両手を振った。
「ファングをす、す、好きとかっ、そんな…あのっ…違」
「あらっ、違うのですか?私てっきり」
「違うっていうか、違わないけど……ううんっ、何でもない!」
真っ赤になって動揺するラピスを見れば答えは明白だった。
シルヴィはがしっとラピスの手を両手で包んだ。心なしか顔が楽しそうにツヤツヤしている。
「安心なさって!私、ラピスさんの恋応援します!」
その後、別にラピスの方にその気はなかったのだが恋愛相談に発展し、ファングとなかなか話せないと言うラピスにだったら何かきっかけがあればいいんです!と何故か本人を差し置いてヒートアップしたシルヴィがこんなことを言い出した。
「バレンタイン、してみませんか」
「バレン…タイン…?」
きょとんとしているラピスにシルヴィが説明する。
「私、前に本で読んだのですけど、昔この世界にニンゲンがいた頃、彼らには恋人や片思いの相手に菓子をプレゼントする日があったそうです。現在と暦は違いますけど、確か今ぐらいの季節だと書いてあった気がします。ここは古人に倣ってみてはどうでしょう」
「?」
「つまりファングさんにお菓子を作ってプレゼントするんです!」
「えっ、でも私、お菓子なんて作ったことないし…」
「私がお教えします」
まかせて下さいとばかりに胸を叩くシルヴィ。
「バレンタインとはカカオという豆を使った菓子が正式らしいんですが、ちょっと入手困難ですし、まあ真似事ですからそこにはこだわらず、初心者でも作りやすいクッキーなんかどうでしょう?」
「クッキーかあ…」
「まあ渡すかどうかは今決めなくても、作るだけは作ってみませんか」
ちょっとテンションを落ち着けて優しく促す言い方に、迷っていたラピスもうんと頷いた。

ということがあったのだが。
「あの…内緒」
「分かった!これはファングにあげるんだね」
「!?」
「ラピスさん分かりやすいですからね」
後ろでシルヴィがくすくすと笑っている。
ニコも、こちらはラピスに向かってちょっと悪戯っぽく笑った。
「ボクねえ、ラピスがくれるものならファングはとっても喜ぶと思うな!」
「……? う、うん、そうだといいけど…」
急にこの後渡しに行くのだとの実感がわき、ラピスは冷めるのを待つクッキーに胸がドキドキし始めた。
作品名:スイートギフト 作家名:あお