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永遠にともに〈グリプス編〉8

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section 11 決意

アクシズとの同盟を結ぶ為、ハマーン・カーン率いる先遣部隊に接触したものの、交渉が決裂に終わったエゥーゴのウォン・リーはその原因の一旦であるクワトロ・バジーナ大尉に怒りの視線を向けながら大きく溜め息を吐く。
「全く、クワトロ大尉の暴走で同盟を結ぶ事が出来なかった!」
そのウォンを宥めるようにブライトがクワトロ大尉との間に入る。
「しかし、ウォンさん。いくらエゥーゴの戦力を上げる為とはいえ、ザビ家の再興を手助けする事は流石に出来ません。」
「しかしブライト艦長。これでアクシズがティターンズと手を組めばエゥーゴは戦力でかなり劣る事になる。」
「それはそうですが…。」
「大体クワトロ大尉、いや、キャスバル・ダイクンとお呼びすべきか?君はザビ家では無いにせよジオンを再興させるつもりなのじゃないかね?」
そのウォン・リーの言葉に艦橋内が騒めくと、皆の視線を浴びたクワトロは腕を組み、無言で静かな怒りを漂わせスクリーングラス越しにウォン・リーを睨み付ける。その迫力にウォンが一瞬たじろぐと、それを見兼ねたブライトがウォンを諌めた。
「ウォンさん!」
「ふんっ、だってそうだろう?ジオン公国の創始者ジオン・ダイクンの子がジオンを再興させようと思うのは自然な流れだ!」
「ウォンさん!!」
尚も言い募るウォンにブライトが声を荒げる。
と、そこへシャワーを浴び、制服に着替えたアムロが入って来た。
アムロは艦橋内の不穏な雰囲気に一瞬たじろぐと、視線をブライトに向け状況を確認する。
「ブライトさん…、一体何事…?」
「アムロ…」
「これはアムロ中尉!君にも聞きたい事がある。君とハマーン・カーンはどういう関係なんだ?」
ウォンの矛先がアムロ向かい、グワダンでの出来事を問いただす。
「どういうって…。」
「まさか恋人同士なのかね?」
「違います!!」
「ではなぜハマーン・カーンが君に口付けをする?」
ウォンの言葉に艦橋内がまた騒めく。
「あれは…!」
「あれは?」
ウォンの問いにアムロは何と答えれば良いかな分からず口籠もる。ハマーンがどういうつもりであんな事をしたのか正直よく分からない。恋愛感情があるかと聞かれればおそらくNoだ、親愛の情か、それともニュータイプ同士共鳴した相手を求めているからなのか…。
「よく…分かりません…。」
アムロは口に手を当て、視線を伏せながらボソリと呟く。
「それで?君はあの後ハマーン・カーンと2人きりになって同盟の話し合いが出来たのか?」
ウォン・リーのその言葉に、アムロはあの時のハマーンの悲しい決意を思い出す。

『アムロ、私たちの道は違えた。私はミネバ様を中心にザビ家を再興し、ジオン公国を復興する。その為にエゥーゴが障害となるのならばシャア大佐やアムロを敵に回す事になろうとも戦って勝利を勝ち取る!』

アムロはそっと首を横に振ると視線をシャアに向ける。シャアからはさっきからずっと怒りのプレッシャーを掛けられている。

「ふんっ!上手くハマーン・カーンをタラし込んで同盟を結んでくれればいいものを!!」
「ウォンさん!!」
ウォンの勝手なもの言いいにブライトが怒りを露わにするとアムロもウォンを睨み付ける。
「オレとハマーン様はそんな関係じゃない!彼女の事をよく知りもせず、勝手な事を言ってハマーン様を侮辱しないで下さい!」
「なっ」
珍しく声を荒げるアムロに艦橋内は騒めき、ウォンも喉を詰める。
アムロは小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせるとウォンとブライトに視線を向ける。
「アクシズはミネバ・ザビを中心にザビ家を再興し、ジオン公国を復興しようとしています。その為ならば戦闘も厭わないそうです。」
そして、アムロはシャアに視線を移す。
「ハマーン様は貴方やオレを敵に回す事になろうとも戦って勝利を手にすると言っていました。」
アムロの真っ直ぐな瞳に、シャアは怒りを少し鎮めその瞳に魅入る。
「アムロ…」
「ただ…、おそらくザビ家の再興をティターンズが認めるならばティターンズと同盟を結ぶ可能性も十分あり得ます。」
アムロの言葉にブライトは溜め息を漏らし、ウォンに視線を移す。
「ウォンさん、いずれにせよ我々は一旦体制を立て直し、ティターンズの攻撃に備えましょう。」
未だ苛立ちを隠せないウォンはブツブツと文句を並べている。そんなウォンにアムロは溜め息を漏らす。
「ウォンさん…。確かにアクシズの戦力を味方に出来なかったのは残念です。キュベレイをはじめとしてアクシズのモビルスーツの性能はかなり高い。」
ウォンは少しムッとしてアムロを睨み付ける。
「アナハイムの技術より上だと言いたいのかね?アムロ中尉」
アムロは小さく肩を竦める。
「モビルスーツの開発はジオンの方が進んでいる事は確かです。そして、ニュータイプ研究についても…。ニュータイプ専用機に搭載されているサイコミュを使った武器はかなり厄介です。」
「1年戦争の“とんがり帽子”みたいな奴か?」
ブライトの問いにアムロが頷く。
ララァ・スンが操るニュータイプ専用機“エルメス”のサイコミュ攻撃で数多くの連邦モビルスーツが撃墜された。無数に飛び交うビットからの攻撃は普通のパイロットには躱せない。
「地球でオレが乗ったティターンズのニュータイプ専用機“サイコガンダム”は威力はありましたが、パイロットへの負担が大きすぎた。強化人間では精神が保たない程に…。正直、ジオンとは性能がまるで違う。」
強化人間という言葉に、艦橋に上がって来ていたカミーユの瞳が曇る。
「ジオンのモビルスーツはパイロットへの負担も少なく、攻撃力も絶大です。」
それにウォンが顔を顰める。
「そんな戦力が敵に回ったらエゥーゴはどう立ち向かう?」
「ええ、かなり状況は悪いですね。でも、アクシズの問題は機体性能に対してパイロットが皆新兵同然だという事です。」
「なに!?」
ブライトが顔を上げ、アムロを見つめる。
アムロがそっとシャアに視線を向けると、腕を組んだまま沈黙を続けていたシャアが溜め息まじりに口を開く。
「ハマーン・カーンをはじめ、数人の精鋭はいるが他は実戦経験の無いものばかりだ。だからこそ、グワダンからも易々と脱出が出来た。」
ブライトもそれは少し感じていた。
グワダン内の兵士は統率は取れているものの、何処となく動きが悪かった。まるで新兵や現地徴用の素人ばかりだったかつてのホワイトベースの様に…。
「それに、ハマーンがもしティターンズと同盟を結んだとしても、それは一時的なものに過ぎないだろう。アクシズの目的はあくまでジオンの再興であって、この戦争の勝敗ではないからな。もちろんエゥーゴと同盟を結んだとしても同様だ。」
シャアの言葉にブライトも頷く。
「いずれにせよアクシズもティターンズ同様警戒すべき相手という事か。」
「そういう事だ。ブライト艦長」
艦橋での話し合いは結局そんな言葉で幕を閉じた。皆が持ち場に戻る為艦橋を後にする中、シャアがアムロの腕を掴む。
「アムロ、私から君への話はまだ終わっていないぞ。」
アムロは気まずそうな表情を浮かべながら小さく溜め息を吐くと「分かってます。」と頷き、シャアの私室へと共に向かった。