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透野サツキ
透野サツキ
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上機嫌なポーカーフェイス

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事務所での打ち合わせといくつかの雑務を終えてトキヤが部屋に帰ると、同室の二人がそろって彼を迎えた。マスターコースで自分の指導役である、先輩アイドルの寿嶺二と、自分と同期で、学園時代からのルームメイトでもある、一十木音也。
「あ、おかえりトキヤ!」
「やあやあトッキー、おつかれちゃん!」
「………」
 意外な光景に、トキヤは目を丸くして二人を見る。鍵が開いていたから、誰かしら部屋にいる事は予測できたが、まさか二人とは思わなかった。すでに人気アイドルとしての地位を築いている嶺二。そして駆け出しではあるが、有難い事に仕事はそれなりに舞い込んでくる、自分と音也。同室とは言えまだ夕方と言う時間帯に、この三人が部屋で顔を合わせるなど、滅多にない事だった。
「…めずらしいですね、こんな時間に二人そろっているなんて」
「次の仕事まで時間が空いてね、帰ってきたら偶然、おとやんがいたんだ」
「せっかくだから、いろいろ話してたとこ。あれ、なんか今日は機嫌良いねトキヤ」
 音也が言うと、嶺二もそろって頷く。
「そうだね、いつもは、ぼくらが一緒にいると迷惑そうに眉間にググッとシワ寄せちゃうくせにねぇ」
 それは誇張し過ぎだとトキヤは思ったが、否定はしない。
 トキヤは決してこの二人を嫌っているわけではない。ただ時折、周りを無視して騒がしくするので、うんざりしてしまうのは確かだった。
「分かっているのなら、少しは配慮して頂けませんか。私は騒々しいのは苦手なので」
「えー、そう言わないでさ、せっかく三人そろったんだし、楽しくやろうよ!」
「悪いけど、ぼく達は賑やかなのが好きなんだよん。多数決でぼくらの勝利!」
 無駄な口をきいてしまったとトキヤは後悔する。こんなやりとりは毎度のことで、音也もそうだが、特にこの先輩アイドルがこの手の言い分を素直に聞いてくれた事など、皆無に近かった。
「ところでトッキー、今日のお昼頃、事務所で後輩ちゃんと一緒にいたでしょう。ぼくちん見ちゃったよーだ」
 ぴくりとトキヤの眉が動く。事務所の中ではキャリアの長い嶺二だが、彼が「後輩ちゃん」と呼ぶ相手は一人。七海春歌。同じシャイニング事務所に所属する作曲家。トキヤの専属であり、プライベートでは、トキヤと学園時代から恋人関係にある。二人の関係を知っているのは、社長のシャイニング早乙女の他、限られたごく一部の人間のみ。ただし、そのわずかな人数の中には、このルームメイトの二人も含まれていた。
「…彼女は、私のパートナーです。一緒にいて何か問題が?」
 平静を保ちながらトキヤは答える。嶺二はふふん、と笑って、
「悪いとは言わないよ。けど廊下で少し話した後、会議室に入って鍵かけたでしょ。なーんかイケナイ事でもしてたんじゃないかって、お兄さんは気になって気になって」
「ええっ! トキヤってば事務所でそんなこと!?」
「してません。勝手な想像をしないで下さい」
 冷たい口調でトキヤが答えると、
「ホントかなぁ? こう見えて、ぼくの勘は結構当たるよ?」
「ちぇ。いいなぁトキヤ。俺も七海みたいな可愛い彼女がいたらなぁ」
 音也は深くため息をつく。
「ダメダメおとやん、アイドルは恋愛禁止が原則だよ!」
 ちちち、と嶺二が人差し指を左右に振ると、音也は不満げに頬を膨らませた。
 トキヤが春歌との交際を容認されているのは特例中の特例で、事務所の方針として恋愛は禁止されている。
「そうだけどさ、れいちゃんだって、心の中ではそう思ってるんじゃないの?」
「そりゃあ確かにね、後輩ちゃんは、可愛いし、礼儀正しくて真面目だし、女の子の中の女の子って感じで、お兄さんは守ってあげたくなっちゃうな!」
「寿さんに守って頂く必要はどこにもありませんから、ご心配なく」
「冷たっ! 後輩ちゃんへの優しさの千分の一でもいいから僕らに分けて欲しいね」
「ね! トキヤってば俺達といる時と七海といる時で全然顔違うもんね」
「…そうでしょうか」
「うん。やっぱり七海には特別優しいよね。大事にしてるなって感じする」
「別に、普段通りに接していますよ。貴方達が私を不機嫌にさせているだけでしょう?」
 トキヤは淡々と答え、持ち帰った鞄から冊子を取り出す。ついさっき事務所で受け取った新しいドラマの台本だった。役作りのため、早めに目を通しておきたい。正直、彼らに構っている暇はないのだが。
「またまたそんな事言っちゃってぇ。余裕ぶってると、その隙をついてお兄さんが横恋慕しちゃうぞ!」
「よこ…? ってどういうこと?」
 嶺二が発した聞き慣れない古風な単語に、音也は疑問符を浮かべた。
「初心だねえ、おとやん。要はトッキーの目を盗んで、ぼくちんが後輩ちゃんに、こっそりアプローチしちゃうぞってコトさ!」
「うっわ、れいちゃん度胸ある!」
「悪趣味ですね…彼女は忙しいんです。悪戯に困らせるのは止めて下さい」
 トキヤは二人に背を向けて机に向かい、ペンを片手にパラパラと台本をめくる。
「おっと。悪戯なんて心外だなぁ。これでもぼくは後輩ちゃんのコト、結構気に入ってるからね。するとしたらその時は本気だよ?」
「へえー。ねえねえ、それじゃあれいちゃんは、もし七海とデートするならどこに行く?」
「っ、音也!」
 トキヤは台本から顔を上げて音也をきつく睨んだ。
「まあまあトキヤ。そんな怖い顔しなくてもいいじゃん、例えばなんだからさ」
 トキヤが咎めるのを音也は軽く受け流し、嶺二は楽しそうに目を輝かせる。
「ふっふっふ、いい質問だね、おとやん。ま、でも基本は、後輩ちゃんの行きたいところに連れてってあげたいな。ドライブデートなんか理想かもね。遠出も自由にできるし、買い物したら荷物も載せられるし、ばっちりエスコートしてあげられるよん!」
 嶺二は誰に向けてのアピールなのか、腰と顎に手を当ててキリッとポーズを決める。
「そっかぁ、れいちゃん、車好きだもんね。いいなぁ、俺も免許欲しい!」
「いいでしょ、いいでしょ! それで、そうやってひとしきり楽しんだ後に、海の近くの夕日が見える公園なんかで、波の音を聞きながら、見つめ合って愛を囁く…なんてシチュエーションならさすがに、後輩ちゃんもクラクラッときちゃったり!」
「しません。どこまで自意識過剰なんですか」
 トキヤの声に苛立ちが混じる。彼らのペースに振り回されてはいけない。台本に集中しなければ。自分に言い聞かせる。
「いやいや、それは実際その場になってみないとわからないんじゃない? 選ぶのは後輩ちゃんなんだし。お兄さんの大人の魅力に後輩ちゃんのハートもズキューン!っと」
「あはは、無理だよ、れいちゃん」
 今度は音也が笑い飛ばした。
「む、何でだい? おとやん」
「だって、七海が好きなのはトキヤなんだもん」
 明るい声で音也が言うと、トキヤの台本をめくっていた手が止まり、嶺二は一瞬固まった後、胸を押さえて、ばたっとソファに倒れこんだ。
「あ痛っ! おとやん、本当の事っていうのは言っていい時と悪い時があるんだよもう! れいちゃん、今の一撃でハートがズタボロだよっ!?」
「ははっ、ゴメンゴメン! けど、いくられいちゃんが相手でも、七海が心変わりなんてあり得ないよ。トキヤだってそう思うでしょ?」