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透野サツキ
透野サツキ
novelistID. 61512
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上機嫌なポーカーフェイス

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「…当然です」
「ほらね」
 音也は肩をすくめた。嶺二はすっかり意気消沈して、
「はぁ…ぼくちんも、もう少し遅く生まれてれば、早乙女学園で後輩ちゃんとロマンチックでドキドキな出会いが出来たかもしれないのに。れいちゃん、がっくし…」
「ちぇ、俺も七海と同じクラスでパートナーになれてたらなぁ…ってトキヤ怖っ! そんな、にらまなくても! もしもの話だってば!」
「もしもなどと…そんな無意味な話はしても仕方がないでしょう?」
 トキヤは冷たく言い放つ。
年の離れた嶺二はともかくとして、音也と春歌がパートナーだったら…ほんの一瞬想像しただけでも不愉快だった。性格的に真逆で自分にないものを持っている音也は、時にまぶしく映る。そんな男が春歌とパートナーを組むなど、考えたくもなかった。
 自分と彼女は出逢うべくして出会い、結ばれ、今ここにいる。そのすべてに感謝している。ただ彼女とともにこの先を歩んでいければ、それでいい。他の可能性など必要ないのだ。
「二人とも、もっと有意義な事に頭と時間を使ったらどうですか。これでは何のためのマスターコースなのか…おや」
 不意にトキヤの携帯が鳴る。
 トキヤは相手の名前を確認して、指先で画面を操作し、通話に切り替える。
「すみません、すぐにかけ直します…ああ、いえ、そう言う事ではなく…場所を変えるので少し待っていて下さい」
 トキヤは小声で言うと、すぐに電話を切った。
「おっ、後輩ちゃんからかな?」
「えっ! そうなのトキヤ?!」
「…貴方たちに関係ないでしょう」
「えーケチ。そのくらい教えてよ」
「野暮な事訊かないの。否定しないって事はそう言う事だよ、おとやん」
「…少し、出かけてきます」
 トキヤは台本を置いて、ハンガーに掛けた上着をまた羽織ると、そのまま外へ向かう。
「あっ、待ってトッキー」
「まだ何か?」
 嶺二の声に振り返るトキヤ。また先程の悪ふざけの延長かと思って冷たい視線を送る。
すると、意外にも嶺二は穏やかに微笑んでいた。
「つい面白がっていろいろ言っちゃったけど、ぼくは応援してるからね、二人の事」
 そう言ってウインクを飛ばす。
 その隣では音也が、屈託のない笑顔をトキヤに向けていた。
「俺もね、七海とトキヤが二人とも幸せでいてくれたら嬉しいよ!」
 二人からの思いがけない言葉に、トキヤは目を見張る。
 そんな、普段はなかなか見られない後輩の表情に、嶺二は笑う。
「だからさ、ぼくらの分も後輩ちゃんを大事にしてあげてよね。なぁんて、トッキーには余計なお世話だったかな?」
 トキヤは、やれやれとため息をつく。
 …まったく、この人と来たら。
 騒々しくて他人の話をまったく聞かないで、ふざけた事ばかり言っているかと思えば急に大人びた様な態度を取って。
 音也だって本当は彼女を気に入っているくせに、必要以上に関わる事はしない。一歩引いて、適切な距離を保っている様に見える。
 口では何を言っていても、二人とも、自分に対して好意と信頼を寄せてくれている。それが分からないトキヤではなかった。以前はこうではなかった。慣れ合うのを嫌い、周囲に壁を作っていた。互いに認め合い、支え合う。他人とそんな関係を築ける様になったのは、春歌と、そして彼らのお陰だろう。
「…一応、気に留めておきますよ」
 そう言ってトキヤは静かにドアを閉めた。
少し意外な反応に思った嶺二と音也は、顔を見合わせて笑った。

  *    *

 部屋の外に出るとトキヤは、着信履歴から電話を掛け直した。
「先程はすみません。ああ、先日貸した本の事でしょう? 君は本当に律儀ですね。私はとうに読み終えているのでいつでも良かったのですが…まあ、君の顔が見られるなら、それも悪くありませんね。どこへ向かえば…そうですか、部屋にいるのなら、今から行きますよ」
 すると電話の向こうから、明るい返事と、くすくすという笑い声が聞こえる。
「どうかしましたか。え…機嫌が良い? 私がですか…? 先程も別の相手に同じことを言われましたが…気のせいでは? ええ、まあ。そうです。あまり釈然としませんが…いつもに比べたら悪くない時間だったかもしれませんね。…いいえ。問題ありません。優先順位で君の勝ちです。今向かいますから、そのまま待っていて下さいね」
 通話を切り、携帯を上着のポケットに入れる。ふと正面の窓ガラスに映った自分の表情が緩んでいるのに気づいて、いくら何でも浮かれ過ぎだと自嘲する。
トキヤは辺りを見回して誰もいない事を確認すると、ひとつ大きく深呼吸した。再び顔を上げると、そこにはいつものポーカーフェイス。

 もっともこれから向かう先と、待っている相手の事を思えば、再びそれが崩れるのもまた時間の問題だった。