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代打の代打
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はじまりのあの日1 始めましたの六人

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七月早朝。まだ梅雨の蒸し暑さの残る庭先で。洗濯物を干し終えて。高くなっていく空を見つめている。汗がつたう頬を、夏風がくすぐる。思い出す。そう、こんな日だった。彼がやってきた日は



思い出す、記憶の轍(わだち)を追って、彼との、始まり歌を

























「干した干した~」
「ミク姉、今日来るんだよね~新人さん」

洗濯物を干し終えて。まだ、ちびだったわたし、鏡音リンは、踏み台から飛び降りる。隣のミク姉と、そんな言葉を交わす。高くなっていく空。七月の最終日。裏庭の竹林に夏風があたり、さらさらという心地よい音をたてる

「仲良くできるといいな~」
「歓迎会、たのしみだな~」
「ミク~、リン~、おいで~。プロデューサーさんから連絡入った。今、高速に乗ったから、三十分くらいで着くってさ」
「「は~い、カイ兄~」」

兄の招集令に、マンションの中へ駆けてゆく

「到着前に連絡するから。そしたら、コンセプトユニフォームを着て、みんなで集合といしてね~」

そんなプロデューサーの一言で集まったわたし達。それぞれに、プロデューサーのコンセプトがある。願いを込めた、テーマがある

めー姉は 始まりの歌姫(はじまりのうたひめ)

カイ兄は 安らぎの声風(やすらぎのこえかぜ)

ミク姉は すべてに捧ぐ歌娘(すべてにささぐうたむすめ)

わたしとレンは 合わせ鏡の歌声(あわせかがみのうたごえ)

今日来る、六人目の歌い手は、他の事務所からは初参加

「僕の後輩がね、PROJECTに加わらせてくれって言ってきてさ。ついでに、すごい歌声のヤツ、連れて行くって」

とは、PROJECTを立ち上げた第一のプロデューサーの言葉。VOCALOIDPROJECT(ボーカロイドプロジェクト)国境も、思想も越えて『歌声で』誰かを癒す事が出来たら。心の重荷を、外せたら。願いを込めて。一人のプロデューサーが立ち上げたPROJECT。始まりの歌姫から、広まったPROJECT。わたしとレンが、オーディションを受けたのは5歳の時。まだ、参加人数さえ少なかったあの時。やりきった、その自信はあった。それでも緊張して、合格するなんて思えなかった。オーディションが終わったときに

「よろしく、鏡音リン、鏡音レン。これから、たくさんの歌を紡いでもらうよ」

プロデュサーが。微笑みながらわたし達とだけ交わしてくれた握手。合格の証。嬉しかった。以来、生みの親とも離れて暮らす、このタワーマンション。はじまりのプロデューサーが、いつでも歌えるように。PVの撮影ができるように。周囲を気に掛けなくて良いように。苦心をして建ててくれた『我が家』

「これからよろしく、リン。仲良くしましょ、レン」
「かわいい双子さん、たくさん歌おうね」
「わ~い、後輩さん。ミクともいっぱいうたってね~」

初めてやってきたその日、迎えてくれた姉兄(きょうだい)は、一度は見たことある顔ばかり。親族の大集合のとき、見たことのある顔だった。寂しさがなかったといえばウソになる。心細さがなかったと言えば、虚勢になる。でも、共同生活を送る、姉兄は、本当に優しくしてくれた。暖かく接してくれた。それから三年。初めは、ハウスキーパーが居た。身の回りの、最低限の世話をしてくれた。その人も、めー姉が成人する頃、居なくなった

「歌い手で、食っていけるようになって。それが、一流になるってことだから。僕も、君達のために、死ぬ気で、仕事を取ってくるから」

プロデュユーサーの言葉。めー姉は、カイ兄は、バイトしながら。ライブハウスで、笑われながら、けなされながら、褒められながら。歌ってくれた。必死に道を作ってくれた。わたし達を育ててくれた。生みの親より育ての親。そんな言葉が思い浮かぶ。わたし達歌い手は、プロデューサーと方針が合わなければ。生活がイヤなら。いつでも辞めて良い。そういう契約になっている。少なくとも、わたしは辞める気になどなれない。楽しい日々『家族』と苦楽を共にして、歌って生きてゆく。誰かの希望になって生ける。この上ない日々

「だけど初めてね『親族』以外の歌い手さん」
「ある意味、親族だけってほうが、レアだろうけどねぇ」

めー姉が笑い、カイ兄が、もっともなことを言う。さてその、家族以上に、深い縁(えにし)で結ばれる五人。共同生活するには、広すぎるくらいのタワーンション。地下が収録スタジオ、機械室、道具部屋。一階が生活空間、二階が個々の部屋とスタッフルーム。三階がPV撮影スタジオ。周りを竹林が囲む、小高い丘の上。ここが、わたし達の家であり、PROJECTの一大根拠地。そのマンション一階、リビングルーム。わたし達は腰を下ろす。テーブルの上、カイ兄作のビスケット、ポテトチップ

「お金掛けずに、手間かける。余裕ない身だからね」

とは、カイ兄の言葉。住居の心配がないのはありがたい。しかし、衣食は自分たちの稼ぎで賄わなければならない。撮影衣装は別として。節約大切

「いつも思うけど~、リビングじゃなくて、ダンスホールって呼んだほ~がいいよ」
「まあ、確かに。撮影に使うこともあるからね」

ミク姉とカイ兄。そう思う。マンション全体が、ある程度撮影にも使えるよう設計されている。個々の部屋は別として。高い天井、シャンデリア、洋風の内装。板張りの床。くつろぐために置いている、カーペットとわたし達が今、腰掛けているソファをどかせば、社交ダンスの大会だってできるだろう。初めは和やかに会話を交わしていたわたし。ただし、徐々にそれが困難になってきた。なぜなら

「もう一時間だよ~。来ないじゃない、プロデューサー」

あの日、到着は相当に遅れていた。なかなか現れないプロデューサー。しびれを切らしたわたし。駄々をこねそうになったその時だ。来訪者を告げるベルが鳴ったのは

「あ、来たんじゃないの、新人さん」
「めー姉、リン行ってくるー」

廊下に飛び出す。玄関ホールへ駆けてゆく。一刻も早く、会いたくて。一番先に見たくって。どんな人かを知りたくて

「お~、リ~ン。ただいま~」

駆け出たエントランスホールで、プロデューサーの、のんきな声。見慣れた人と、見慣れない人。ベージュのジャケットを着た青年、そして

「ああーっ、あなたが新人さんだねっ。まってたよ」

初めて見る『彼』長身、超美形。艶やかな紫色の長髪を、高い位置で結う。とてつもなくキレイなサムライ。宝探しの宝物を、見つけた気分だったまだ彼の、ひざ上くらいの身長しかなかったわたし。言いながら長身の彼に、思い切り飛びつく

「おっと、元気なのが来た」

抱き留めてくれる。プロデューサー二人曰く、瞳の輝きが、いつもの三倍になっていたそうだ。そのままで、わたしは質問攻めを始める

「みんなで話してたんだよ。どんな声か、どんな人か。わ~かっこいい、それサムライさんでしょ~」
「ああ、そうだ」

肩に、担いでくれる紫の人。目線が、一気に高くなり、わたしの機嫌も急上昇

「どんな歌うたうの~」
「後で歌うよ」
「何でそんなに背が―」
「リ~ン。みんな待ってるから、皆のとこで話そ~ね」

脚を振りながら聞くわたしを、プロデューサーが制止する