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赦される日 - Final Episode 2 -

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 その老人が村から少し離れた森のそばに住みついたのは、もう7年ほど前になるだろうか。その場所はかつて、モスクワに住むどこかの家族のダーチャだったのだが、それが改築されて小さなイズバ風の家になったと思っていたら、いつの間にかその老人が住みついていたのだった。老人とはいっても背が高く、姿勢もよく、年齢の割には贅肉のついていないがっしりとした体躯は、若い頃にかなり鍛えたものと思われた。けれども全体の雰囲気は運動家というより物静かな学者風で、都会風に洗練された物腰からは、どことなく気品が感じられた。そしてそれだけに、辺鄙な田舎には馴染まない風情があり、村人たちからは敬遠されていた。
 噂では、ソ連時代には外交官として長く西ヨーロッパで暮らしていたということだ。生まれてこのかた家族の住む家を離れたことがなく、60kmの距離にあるモスクワにさえ行ったことのない者もいる村では、それは雲の上のエリートの経歴だった。あの老人がそんなエリートなら、わざわざこんな辺鄙な所に住みつくものか、と言う者も中にはいたが、たまにモスクワから黒塗りの車がやってきて、その辺鄙な家の前に止まるという事実もあって、ほとんどの村人は老人の経歴を噂どおりに信じていた。
 老人の名は、アレクサンドル・マクシモヴィチ・ザイコフといった。その名前と顔だけは、村人たちにもよく知られていた。時々、村の郵便局にモスクワからの手紙が届き、それを受け取りに来るからだ。また、自分から手紙を出しに来ることもあれば、そのついでに村の中心にある小さな市場で買い物をしていくこともある。この市場は一種の社交場で、話し好きな人々が集まって来ては買い物のついでに談笑する、というより談笑のついでに買い物をしていくという具合だったが、その老人が姿を見せると皆なんとなく話を中断してしまうのだった。聞かれて困るわけではないが、この老人を談笑の輪に加えようにも共有の話題がなく、どう話しかけたら良いものか分からない。といって、彼を無視して談笑を続けるには、その長身は威圧感があった。それで売り手も買い手もおしゃべりを中断して、とりあえずは老人の買い物を優先させた。そんな人々の雰囲気を察してか、老人の方も必要な買い物だけを済ませると、さっさと村を出てイズバに帰っていくのだった。
「無口で、気難しそうな人だねえ」
「どうも取っつきにくいねえ」
 老人がいなくなると人々はそんなことを言い合い、それからまた、もとの話題に花を咲かせた。

 そんな風にして、いつの間にか「アレクサンドル・マクシモヴィチは気難しい」というイメージだけが定着し、7年もの月日が経過した今も、老人は村で異質な存在のままだった。
作品名:赦される日 - Final Episode 2 - 作家名:Angie