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天に昇る気持ち(コレットは死ぬことにした)

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愛しさが溢れて、思わずキスをしそうになった。

寸でのところで我に返り、
そこでディオが来たものだから
おそらくうまく誤魔化せたのではないか…
と思うのだが。

それからコレットと会っていない。

もしかしたら、今まで築き上げた信頼関係の全てを、
私の衝動的な行動で壊してしまったのではないか、
そう気が気でならない。

「はぁ...」

ハデスは冷えた部屋で独り、
また1つため息をついては
気持ちを暗くさせていた。


「オイ、ハデス様のご様子がおかしい。」

「昼食もお召し上がりにならないぞ。」

「また何か病ではないのか?」

「コレットのヤツ、最近姿を見せないが、
職務怠慢だ。冥府の薬師と言っておきながら
ハデス様の様子も見に来ないではないか!」


家来のガイコツたちが、口々に不満を漏らす。


そんなコソコソ話をよそに、
ハデスはまた一つため息をつき、
憂いの表情を浮かべた。


「のう。憂えるハデス様も美しいな?」

「お前もそう思っておったか。ワシもじゃ。」

「ハデス様には申し訳ないが、
たまのアンニュイなお姿が拝めるのは
家来の特権じゃの?」

「それじゃ」


ご主人様大好きな家来達は
コソコソと主人の美しい憂い顔に
うっとりしていた。


「でも元気がないのはやっぱり心配でし。
 ハデスしゃまとコレットしゃん、
ケンカでもしたんでしかね?」


いろいろな事情で最近冥府の家来となった、
カワウソのコツメは、姿を見せないコレットと
主の関係を案じていた。


「ハデスしゃま、コレットしゃんに会えないのは
 寂しいでしよ?」


「「「「.....!!!!」」」」


「もしかするとハデス様...恋わずらいとか
言うやつじゃなかろうの?」

「恋わっ!? 言うな!!」

「あんな小娘を想ってため息を漏らすなど
冥府の王ともあろうお方が...有り得ん!」


ガイコツたちは、大好きな主人であり
孤高の存在であった冥王ハデスが、
人間というちっぽけな生き物のコレットを
気に入り、そばに置くのが気に入らなかった。


ハデスの頭の中に、自分たちよりコレットの存在が
大きくなっていくのを感じてはいたが、
認めたくなかったのだ。


「でもでも...コレットしゃんが来ると
ハデスしゃまは元気になると思うでし。」


「むぅぅ」


認めたくはないが、コツメの言うとおり、
コレットそのものがハデスの処方箋であることは
事実なのである。


「だいたいあやつはいつも来るのが気まぐれすぎる」

「あれだけ毎日押しかけてきおったのに、
急にパタッと来なくなるのは何故じゃ。」

「それもアイツの作戦じゃなかろうの?
ほら...恋の駆け引きとかいう...」


「恋とか言うなと言っておろうが!
そもそもコレットは猪みたいなヤツじゃ。
そんな駆け引きができるわけなかろう。」

「それもそうじゃの。」


あまりの言いようではあるが、
なんだかんだでガイコツたちも
コレットのことが嫌いなわけではないらしい。


「こんなところにいたいた。
 コレットから手紙預かってきましたよ?」

宅配の用事で冥府にきたヘルメスは、
コレットの手紙をハデスに渡した。


「コレットから手紙?!」

ガイコツ達は、噂をしていたところだったので
ドキッとした。

「コレットめ、姿を見せんと手紙とは横着な。」


それでもコレットの名を聞くやいなや、
さっきまでの憂いた顔に光が差し、
ハデスの目が輝いたのを
ガイコツは見逃さなかった。

(く、くやしい~)

ハデスは服の裾で顔を隠し、
手紙を受け取った。

受け取ったまま、しばらく固まった。


何が書かれているのだろう。

ハデスは少し怖かった。

キスをしそうになったことを嫌に思い、
「もう冥府には行かない」などと書かれていたら。

そんな想像が頭をよぎり、ゴクリと唾を呑んだ。

「情けない」

冥府の王である自分が、
若い人間の女の言葉にそんなに怯えるとは。

そう思うと、思わず呟いた。

「おもしろいものが入っていますよ」

ヘルメスにそう言われて、

「おもしろいもの?」

と、首をかしげつつ、ゆっくり手紙の封を切ると、
中からコロン、と、小さな黒い猫の
置物が出てきた。

『ハデス様そっくりの猫を見つけたので
 贈ります。』

たわいもないこと。

でもいつか、
「お前は地上に帰るとお前の中から私がいなくなる」
と、思わず不満をコレットに漏らしたことがあった。

でもこうやって、会えなくても、地上で忙しくても
自分がコレットの中に存在している。

それがハデスは嬉しかった。

と共に、あのキス未遂事件が、
自分たちの関係を壊したのではないと思っていいのだろうか、
これだけでは決定打に欠け、
期待したものかどうか迷った。

(壊してしまっていない...と思っていいだろうか)


そう心の中でつぶやき、ほほを染め、黒猫を眺めた。

(おーおーおー、ハデス様とあろうお方が)

その様子を見ていたヘルメスは、

「じゃあ、確かに渡したんで!」

と地上に戻ろうとした。


「わざわざすまなかった。」

ハデスはヘルメスに礼を言った。

コレットはどうしているか、と尋ねたかったが、
それもどうかと思い、言葉を飲んだ。