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未来のために 10

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未来のために 10


狭苦しいコックピットに座り、真っ暗な宇宙空間を進む。そして、真っ直ぐに見据えた先に、真っ赤なモビルスーツを見つける。
幾度も剣を交えた仇敵、“赤い彗星のシャア”だ。
初めは全く歯が立たず、対峙する度に恐怖した。しかし、その一方で、戦う度に自身のニュータイプ能力が覚醒していくのを感じた。
シャアのレベルの高い戦闘技術が自分をも高めてくれた様に思う。
戦争終盤には、ガンダムが自身の反射速度についてこられない程だった。
次第に、作戦遂行よりも、シャアと戦う事が自分の目的になっていたような気がする。
もちろん、“死にたくない”、“仲間を守りたい”そういう気持ちはあった。
しかし、シャアと戦う度、心が高揚したのも確かだ。この人に負けたくない、勝ちたいと、そう思った。

けれど、そんな自分を変える、運命的な存在との出逢いを迎える。
サイド6で出逢った少女、ララァ・スン。
彼女は突然、僕の心の中に入り込んできて、強烈な印象を僕に残していった。
そして、彼女とニュータイプ同士の共感をすることにより、ニュータイプという存在の意味を始めて知った。
ニュータイプ能力は戦いの道具では無い。人と人が分かり合える為の物だと。
だからこそ、その能力を、“ララァ”を戦争の道具として使ったシャアが許せなかった。
あの人がララァを戦争に巻き込みさえしなければ、僕はこの手でララァを殺してしまう事はなかった。
そんな怒りを、ア・バオア・クーでシャアにぶつけた。直接剣を交えながら、ままならない自身の想いを、全てシャアにぶつけた。
自分の罪を全部シャアの所為にして…ただ怒りをぶつけた。
けれど、剣が互いの身体を貫いた瞬間、シャアの想いが頭の中に流れ込んできた。
父を失い、故郷を追われた悲しみと、力の無い自分への不甲斐なさ。母を失った絶望。セイラさんを置いてでも復讐に走った激しい怒り。ガルマ・ザビを死に追いやった後の心の葛藤。
そして、唯一愛したララァへの想いと、その彼女を失った深い悲しみ。
けれど、自分の事に精一杯だったその時の自分には、彼に寄り添う余裕が無かった。
だから、“同志になれ”という彼の言葉が理解出来なかった。
みんなをランチに誘導した後、薄れ行く意識の中で、自分はもう死ぬんだと思った。
でも、ララァの元に行けるのならば、それでもいいと思った。そして、ララァに謝りたかった。君の未来を奪ってしまってごめんと…。シャアと離れ離れにしてしまってごめんと…。



眠るアムロの瞳から、涙が零れ落ちる。
最愛の兄を目の前で失い、過去の記憶を一気に取り戻したアムロは、そのショックで意識を失ってしまったのだ。
ハヤトによって医務室へと運ばれたアムロは、ベッドの上で、眠ったまま涙を流し続ける。
「アムロ…」
そんなアムロを見つめながら、ハヤトはそっと涙を拭ってやる。
そこに、戦闘から戻ったシャアとカミーユ、そしてアポリーが姿を現わした。
親友のロベルトを失ったアポリーの瞳には、涙が滲んでいた。
「クワトロ大尉…」
ハヤトは悲痛な表情を浮かべてシャアを見つめる。
「ハヤト艦長…レイは…?」
ハヤトはベッドサイドの椅子から立ち上がると、アムロへと視線を向ける。
「ロベルト中尉を目の前で喪って…かなりショックを受けてしまって…」
「そうだろうな…。ロベルト中尉は…本当に残念な事をした…。レイのショックは計り知れない…」
「ええ…」
すると、ピクリとアムロの瞼が震える。
そして、ゆっくりとその瞼が開かれ、琥珀色の瞳が姿を現わす。
何度か瞬きをして、側にいるハヤトを見つめる。
「…ハヤト?」
「レイ、気が付いたか?」
「…“レイ”?…ハヤト…ここは?ホワイトベースのみんなは無事か?」
アムロの言葉に、その場にいた全員が息を飲む。
「…アムロ…?お前…アムロなのか?」
恐る恐る名を呼ぶハヤトに、アムロが不思議そうな顔をする。
「何を言ってるんだ、ハヤト。ここは何処なんだ?僕は助かったのか?みんなは?みんなは無事に脱出したのか?」
ハヤトは口元に手を当て、言葉を無くす。
そして、横にいるクワトロへと視線を向ける。
「ハヤト?」
アムロはゆっくりと身体を起こすと、ハヤトの視線の先へと目を向ける。
そして、そこに居るはずのない人物を見つけ、驚愕に目を見開く。
「なっ!シャア!!なぜ貴様が!?」
叫んだ瞬間、アムロは激しい頭痛に襲われる。
「あうっ!痛っ」
「大丈夫か!?」
咄嗟に、フラつくアムロを支えようとしたシャアの腕を、アムロは思い切り払いのける。
「触るな!」
そして、頭を抱えながらもシャアを睨みつけるその反応に、その場の皆が驚愕する。
「レイ…」
「レイじゃない…僕はアムロだ…僕は…」
しかし、アムロの脳裏にアクシズに向かうグワダンでの出来事、そして“レイ”のシャアに対する想いが胸に込み上げる。
「な…なんだ…?シャア…違う…クワトロ大尉…?そうだ…俺は…」
気づけば、シャアへの想いで、琥珀色の瞳からはポロポロと涙が零れる。
「なんだ?なんで…涙なんて…。俺は…レイ…・ヴェガ…?違う…アムロ・レイだ…」
混乱するアムロを、その場に居た全員が、ただ、茫然と見つめる。
「落ち着け、アムロ」
ハヤトが落ち着くようにと、アムロの肩を抱く。
「ハヤト…僕は…アムロ・レイ…なのか?それとも…レイ・ヴェガなのか…ロベルト兄さんの弟…」
と、言いかけて、ロベルトの死の瞬間がアムロの脳裏にフラッシュバックする。
「あ…あ、あああ!兄さん…そうだ…兄さん!…兄さんが…」
両手で顔を覆い、アムロがガクガクと身体を震わせる。
「嫌だ!兄さん!俺を置いていかないで!兄さんが居ないと俺は…俺は“レイ”でいられない…!」
「アムロ!」
声を掛けるハヤトに縋り付き、アムロが辛そうに涙を流す。
「ハヤト…俺は…やっぱり“アムロ”なのか…もう…“レイ”ではいられないのか…?」
そんなアムロを、ハヤトは何も言えずに見つめる。
「“アムロ”は…自分が生き残るために…仲間を守る為だって言いながら…いっぱい人を殺したんだ。俺が沈めた戦艦には、きっと何百という人が乗っていた。その人達を、俺は殺したんだ。たった数ヶ月の間に…俺は一体どれだけの人を殺したか分からない。こんな俺が…兄さんの弟でいて良いはずがない!」
「そんな事はない!」
思わず叫んだシャアに、アムロが視線を向ける。
「…シャア…、ララァだって俺が殺した。大切だったのに、唯一俺を理解してくれた人だったのに…俺がこの手でサーベルを突き刺した!」
「あれは…」と、言いかけるシャアの言葉を遮る様に、アムロがシャアの胸ぐらを掴む。
「ララァは貴方を愛してた。貴方の為なら何でも出来るほどに愛してた…」
「アムロ…」
「貴方も…ララァを愛してた筈だ。なのに何故!何故、彼女を戦争に巻き込んだ!彼女は戦争をする人ではなかったのに!貴方が戦争に巻き込まなければ、俺がララァを殺してしまう事だって無かったのに…!」
アムロはシャアの服をギュッと握り、肩を震わせる。
「何で…!」
そんなアムロの瞳からは、ボロボロと涙が零れ落ちる。
作品名:未来のために 10 作家名:koyuho