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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 朝食には遅いが、昼食には早い時間にアップルパイが完成した。オーブンから取り出し、テーブルの上に出された熱々のパイは生地が小麦色に焼けて甘い匂いを昇らせてくる。
「美味しそうデビーっ!」
 リリンが円形のアップルパイの横に立って両手を上げる。
「ばんざ〜い、ばんざ〜い」とラナも何度か両手を上げた。
 小百合がアップルパイをきれいに八等分にして、アップルティーと共に遅い朝食が始まる。リリンは一切れ、ラナは三切れ、小百合は二切れのアップルパイを食べて楽しいひと時を過ごした。小百合は残り二切れのアップルパイをフレーザーに入れた。フレーザーとは魔法界の食糧保管庫で、冷蔵庫を木製にしたような姿をしている。もっとわかりやすく言えば冷蔵庫ならぬ鮮蔵庫で、魔法の力で鮮度を100年も保管しておけるという、ナシマホウ界の人間からしたら夢のようなアイテムであった。
「闇の結晶、いっぱい見つかるといいね!」
 食事がひと段落してラナが言うと、小百合は視線を泳がせて珍しく煮え切らない態度で言った。
「すごく大切な用事を思い出したから、闇の結晶探しは明日からにしましょう」
「へぇ? 探さなくていいのぉ?」
「今日はゆっくり休んでなさい、明日から大変になるからね」
「いやったぁ〜っ!」
 小百合はラナを喜ばせたいわけではなく、ある意味では闇の結晶探しよりも重大な要件があるのであった。
 家にラナを置いて小百合が向かったのは、すぐ近くのエリーの家だった。リンゴ畑の方には姿が見えなかったので家まで来た。若い女性の一人住まいで小さな家だ。みためはリンゴそのもの。形は普通の小屋だが色彩がリンゴそのものなのである。ただ赤いだけではなく、屋根から下に行くにつれて緑が混じってきて、完全に熟れる前に若々しいリンゴを思わせる。小百合がリンゴの飾りが付いているドアをノックすると、すぐに開いてエリーが姿を見せる。
「こんにちは、突然訪ねてすみません」
「小百合ちゃんが一人で来るなんて珍しいわね」
「どうしてもエリーさんにお願いしたいことがあって……」
「わたしに出来ることなら何でも言って」
 小百合はエリーが目をそらして、右や左を見て迷っているような仕草を見せる。エリーは今まではっきりと物を言う小百合の姿しか見たことがなかったので、すぐに何かあるなと思った。
「困っていることがあるのね」
「ええ、実はそうなんです……」
 小百合は迷っていても仕方ないと、いつものはっきりとした態度にもどって頭を下げる。
「お願いします、わたしに箒の乗り方を教えてください!」
「あらあら! 小百合ちゃんが箒に乗れないなんて以外ね」
 小百合が顔を起こすと、エリーは少し前に小百合がリズに初心者用の箒がいいと言った時と同じような顔をしていた。小百合はかっと顔が熱くなるのを感じた。
「お安い御用よ」
 エリーが快諾してくれて小百合は胸が軽くなるが、まだ負い目がある。
「あの、ラナに習った方が早いって思ってますか?」
「ラナちゃんに習ったら逆効果よ。あの子は最初から箒が出来すぎて、箒に乗れない人の気持ちは分からないでしょうから」
「そうなんです! その通りなんです!」
 小百合はエリーが全部わかってくれてる事に感動して思わず大きな声を出してしまった。

 その日の放課後にリコは単身で校長室へと足を運んだ。待ち受けていた校長とリコは差し向かいで話をする。
「小百合とラナが学校にきていませんでした。二人はもう学校にはこないと思います。そして闇の結晶の収拾に集中するでしょう。このままでは差を付けられてしまいます。だからわたしたちも授業を返上して闇の結晶を探したいんです。校長先生の許可が頂ければですけど……」
 考え込む校長にリコは力を込めた言葉で言った。
「二人でしっかり勉強して遅れは必ず取り戻します!」
「そこについては何も心配はしておらぬよ。心配なのはあの子たちと君たちが衝突する可能性が高くなることだ」
「校長先生に言われたことは必ず守ります」
「……うむ、許可しよう。だが、くれぐれも無理はせぬようにな」
「ありがとうございます!」
 リコが頭を下げてから姿を消すと、校長は表情を変えずにまた考える。その顔からは分からないが、リコやみらいの身を案じていることは間違いなかった。

 小百合は夕方ごろになって帰ってきた。ラナはベッドの上で寝てはいなかったが、脱力して十分に体を休めているようだ。小百合も疲れていてそうしたい気分だったが、今は停滞(ていたい)している暇などないと自分に鞭を打った。
「小百合、お帰り〜」
 ラナは寝た状態で頭だけを小百合に向けて言った。その自堕落さに小百合は一言いってやりたい気分になるが、自分が休んでいいと言っているのでそれは出来ない。代わりに小百合は別の言葉でラナを起こした。
「ラナ、今まで集めた闇の結晶をフレイア様に届けるわよ」
「うん、わかった!」
 ラナは起き上って元気よく返事した。学校も行かずに一日休んで上機嫌だった。
 小百合はリリンを抱いてラナと一緒に外に出ていく。そしてラナのポシェットから以前バッティにもらった不気味なタリスマンを引っ張り出した。
「これを上にかざせば神殿に行けるって言っていたわね」
 小百合がラナと手を繋いでバッティから聞いたとおりにやってみると、瞬間に辺りが薄暗くなって心を蕩(とろ)かすような遠く甘やかな歌声が聞こえてくる。二人は神殿の奥に転送されていた。少し先の方にフレイアたちの姿が見える。二人が前に進み、小百合は闇の女神に一礼して言った。
「フレイア様、闇の結晶をお持ちいたしました」
 フレイアが笑顔のまま頷くと、ラナがポシェットから小さな袋を出した。その中に闇の結晶が詰まっていた。袋が小さいのでそれ程の数ではないが、フレイアは感謝して言った。
「二人とも、ご苦労様です」
 フレイアが赤いチューリップの輝石が先端になっている錫杖を上げると、その前に闇色の月と星の六芒星が現れ、ラナの持っている袋の口が自然に開いて複数の闇の結晶が浮遊し、フレイアが出現させた魔法陣に吸い込まれていった。闇の結晶の献上が終わると小百合が言った。
「あの、フレイア様、聞いてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「ロキとは何者なのでしょうか? 教えて頂くことはできませんか?」
 小百合が言うのに乗じてフレイアの側にいるバッティもその場にひざをついて口を開く。
「恐れながら、わたしからもお願い申し上げます。あの男は闇の魔法を使っていました。同じ闇の魔法を扱う者として、奴の正体を知っておきたいのです」
 前にロキが現れた時のフレイアの様子から、この質問を切り出すのは勇気がいった。フレイアは穏やかな微笑みのままに話し始める。
「そうですね、あなた達には話しておかなければなりませんね、あの男のことを」
 フレイアがしばし黙る。小百合の目にはその微笑を浮かべる顔に薄闇がはったように見えた。
「あの男のことを語るには、魔法界の成り立ちから話す必要があります。魔法界とナシマホウ界は元々は一つの世界だったのです」
「魔法界とナシマホウ界が元は一つだった?」
「ふえ!? そうだったんだね、びっくりだね!」