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逆行物語 裏五部~愛と死のロンド~

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ジルヴェスター視点~独白~



 …弟が出来た時、私は確かに喜んだ。
 姉上に憎まれ、嫌われ、疎まれ…、輪姦されて、その和解が出来ぬまま別れた故に、私は姉上がどうにも苦手になってしまい、好きだった気持ちを塗り替えてしまった。
 それでも嫌いになれなくて、故に絶対に弟と仲良くしたい、と思ったものだ。

 それだけだったのに。

 アダルジーザの実。母上に嫌われ、居場所を無くしているフェルディナンドを案じた私が、父上に進言した時、教えられた事実。私とフェルディナンドの間に血の繋がりはない。真実を偽って、エーレンフェストに連れて来たのは、ゲオルギーネの代わりに、私を補佐する領主候補生が欲しかった為。
「派閥を考えると、迂闊に第二夫人を娶れぬし、ヴェローニカにもう1人産めと言うのもな…。
 だからこそ連れてきたのだが…、ヴェローニカに嫌われるとは面倒な…。
 カーオサイファに魅入られるヴェローニカも困るが、今の処、フェルディナンドより余程役立つしな…。仕方無い、捨て置くか。現段階では暗殺されても支障は無いしな。
 全く…、能力があったとしても、エーレンフェストに合わせられぬのなら、引き取った意味が無いであろうに。」
 余り記憶力が良い訳では無いが、この父上の言葉を忘れた事は無い。父上はフェルディナンドと言う個人を我が子と見ていない。愛していない。
 そして多分、母上が約束を守ってくれる人と思っていた事、それが裏切られたと感じている事も知らない。
 私は母上に真実を告げられなかった。どう転ぶか分からなかったから。
 只、父上に感謝していると告げる弟が、父上を愛し、愛されていると信じている事が不憫で、せめて真実に気付かせまいと、私は必死だった。
 幸い、私には愛情を注いでくれたので、私からの願いと言う形で、フェルディナンドを誉めて貰った、讃えて貰った、贈り物をして貰った。
「私にはフェルディナンドが必要なのです。次期アウブが必要としているのだから、エーレンフェストに必要なのですよ。」
 そうしなければ、父上自ら暗殺に向かうかも知れない。それが怖かった。
 フェルディナンドがダンケルフェルガーに婿入りするとなった時、父上が壊そうとしていた事があった。私が必要だと言ったからだ。
「フェルディナンドが必要ですが、フェルディナンドの幸せを壊したくありません。神の采配に任せましょう。」
 そう言って父上を止めたが、結局、全く別方向から壊れてしまった。

 フェルディナンドはそのまま、エーレンフェストに留まった。そして母上の嫌がらせは留まらない。父上も高みに昇った。フェルディナンドを守るには、神殿に行かせるしかなかった。
 あのままフェルディナンドを騎士団長に置いていれば、どんな騒ぎが起こったか分からぬ。
 情けないが、母上の力を借りなければ、まだまだアウブとして遣っていけない私が、フェルディナンドを庇うには無理があったのだ。
 愛しい光の女神を守る為、人質に出した息子さえ取り戻せぬ状態ではとても手が回らない。
 ハイデマリーが高みに昇り、エックハルトが憔悴していても、フロレンツィアを支える手を弛めなかったエルヴィーラの存在が、有り難かった。
 
 母上とヴィルフリートを切り捨てて、態勢を整える。漸くフェルディナンドを呼び戻せる派閥状況となった。
 もっと別の手が無かったか、と思わぬ訳では無かった。何も思い付かない訳では無かった。だが私は、絶対にその方策を使わない。

 例え、フェルディナンドを切り捨てていれば、フロレンツィアと母上が反目する事は無く、ヴィルフリートの養育も教育も、妻が行ったであろうと解っていても。

 例え、もっと簡単にエーレンフェストを掌握出来ていたとしても。

 この未来を予測していたなら、私が切り捨てていたのは……、父上だった。
 母上もヴィルフリートもフェルディナンドも、切り捨てぬ道を選んでた。絶体にフェルディナンドを切り捨てなかった。
 そう思う事が間違いだと言うのか。嫌だ、認められない。

 ――――認めたくない。