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逆行物語 第六部~護衛騎士~

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ダームエル~幸運な男~



 私に領主候補生の護衛の話が来たのは、丁度、同じ騎士であるシキコーザの葬儀に参加した直後の事だ。
 シキコーザは眠っている間に魔力が固まる、原因不明の突然死だった。毒物の反応も無い事から、病死と判断された。母親の嘆きは大層なモノで、同情を誘う。
 非番の騎士は全員参加だった為、騎士団長であるカルステッド様も葬儀に居られた。
 その時に声を掛けられ、驚いた事にカルステッド様のお宅で、夕食に参加させて頂いた。…その料理は味わった事の無い美味で、私はとても感動した。

 食後、人払いされた中、私は盗聴防止の魔術具を使い、話を聞く。
「噂は耳にしているやも知れぬが、アウブには平民の中で育てた御息女がいる。今、神殿の中で、フェルディナンド様より貴族の教育を受けている娘だ。お名前はローゼマイン様、今度の夏で洗礼式を迎える。」
 無論、私の様な下級貴族には関係が薄い話で、何故、態々私にその話をするのかと疑問を覚える。
「その前の春の洗礼式にご長男であるヴィルフリート様が洗礼式を迎えられる。」
 その話も知っている。
「ヴィルフリート様の洗礼式にて、正式に発令されるが、これより領主候補生は神殿業務に携わる事が決定される。ヴィルフリート様は神殿長になられる。」
「!!?」
 余りに驚きに絶句している間も、カルステッド様はお続けになる。
「更に夏の洗礼式ではローゼマイン様が孤児院長に任命される手筈だ。」
 一旦、此処で言葉をお切りになった。
「つまり城から神殿に向かう間、そして神殿にいる間の護衛騎士がいる。」
 まさか、と思う。
「解っているだろうが、神殿は聞こえが良くない。城にそれを引き受けたいと言う者はおらぬ。
 そこで我々の方で話し合い、街の騎士団から新たな護衛騎士を選ぶ事になった。」
 ごくり、と知らず、咽がなる。
「ダームエル、其方にヴィルフリート様、及びローゼマイン様の護衛を任せたい。」
「畏まりました。」
 命令に否やない。神殿、と言う汚点はあれど、私の様な下級貴族にはまず回って来ない、高収入な任務である。頷いた私に後日、中級貴族のブリギッテが引き合わされ、彼女と任務に携わる事になる。
 ヴィルフリート様もローゼマイン様も素晴らしい主だった。フェルディナンド様がご教育されている為か、影響を受けている印象がある。
 ある時、お2人とフェルディナンド様に新しい魔力圧縮についてのお話をされた。ローゼマイン様が考案された、四段階圧縮方法と言うものらしい。貴族院にも行っておらぬローゼマイン様がどうして、とも思ったが、洗礼式時のアウブからの説明を直ぐに思い出した。無意識に自力で圧縮して、魔力を増やしていた、と言う話だ。
「私はこの魔力圧縮でエーレンフェスト全体の魔力量を上げたいと思っていますし、儲けたいとも思っています。」
「も、儲ける!!?」
 領主一族とは思えない発想だった。平民育ち故の考え方なのか…。
 この時の私はまだ知らなかった。我が兄が身食い契約をしている少女とローゼマイン様のご関係を…。
 相当な自信がある様で、契約魔術、それもユルゲンシュミット全体に有効な高価なモノを使う事を考えておられた。確かにその為には解りやすい結果が必要だろう。
 成長期を終えた元が低い下級騎士の魔力量が何処まで増加するのか、これは1つの指針となる。
 …とは言え、私が元婚約者と破談にならず、結婚していたら流石に自分の一存だけでは決めれなかっただろうが。
 …ユーゲライゼは存じていたのだろうか。
 まあ、それはともかく。私はローゼマイン様から圧縮方法の説明を受け、早速、試す事にしたのだ。
 その後、ブリギッテに懸想した私は中級貴族である彼女と釣り合う為に、もっと魔力を上げたいと願った事をあっさり見抜かれ、指輪を外しての圧縮に切り替えた。
 更に畏れ多い事に、それを知ったヴィルフリート様が、私の願いが叶う事を神にお祈りになられた。
 
 …全属性の祝福は美しかった。

 その後、ローゼマイン様の魔力圧縮はお望み通り、エーレンフェストの魔力量を上げる事に貢献した。

 余談だが、同じ頃、カルステッド様はカツラだとか言う噂が流れていた………、ぶぶっ!!