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逆行物語 第六部~護衛騎士~

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ブリギッテ~忍耐の光~



 イルクナーの為に生きていた私に、領主候補生の神殿用護衛の話が来た。イルクナーに新しい産業である印刷を任せる為、私に護衛を命じたと言う。これ程嬉しい事は無い。
 私はダームエルと共に、ヴィルフリート様とローゼマイン様の護衛を任じられた。
 ローゼマイン様にイルクナーの話をしていると、ローゼマイン様は仰られた。
「私…、ブリギッテが幸せな結婚生活を送れる様に祈りますね。まずはピッタリな殿方探しですわ。ブリギッテに似合うドレスを作らせましょう。」
 キラキラとした可愛らしい笑顔の言葉に私は御礼を申し上げたものの、本気にはしていなかった。まさか新しい流行りを作るドレスを頂けるなんて、思っても見なかった。
 正直、自分だけ優遇される事で、ダームエルに申し訳無いと思っていたが、彼は彼で本来なら高いお金を払わねばならないモノを下げ渡されている様だった。リンシャンや料理レシピ等がそうだ。
 そして一番は魔力圧縮…。これによりダームエルの魔力は、私と釣り合う程度に、私を超える量となった。
 私に一目惚れしてくれた彼を夫として考える様になっていた。そんなある時、私は兄に呼び出された。
「ブリギッテ、下級貴族になる覚悟はあるのかい?」
 兄に聞かれた事に、私は目を見開く。
「ダームエルは魔力量が増えたが、中級になれる訳ではない。下級貴族に嫁ぐのだから、下級貴族になるだろう?」
 その驚きを不思議そうに見ながら、兄はそう言った。
「私はイルクナーに戻るつもりで…、ダームエルも解ってくれる筈です。」
 ダームエルはこのイルクナーで気に入ってくれている。きっとイルクナーに婿入りしてくれる筈だ。しかし兄は首を振った。
「それは領主一族の護衛騎士ではない。」
 ガツン、と衝撃を受けた。
「領主一族は城で生活している。ローゼマイン様はまだともかく、ヴィルフリート様は次期アウブだ。当然、側近は貴族街で生活する。
 結婚で家庭に入る女性と、妻子を養う為にも役目を果たす男性を同一視する事は間違っている。
 側仕えや文官ならば出産後の女性が再び支える事もあるが、騎士ならばそれは無い。尚更、ダームエルは側近を辞任する等、考えていない筈だよ。
 只でさえ後任等、そう簡単に決められない上に、神殿や平民との関わりを含む、領地の利益を産む新産業の諸事情を考慮しなければならないのだからね。
 今1度、彼と話し合いなさい。主への報告はその後で良いだろう。」
 兄の言葉は当たっていて、ユーゲライゼの袖が――、

 「ダームエルとブリギッテはエーレンフェストに出張するのです!! イルクナーの為に!! ブリギッテに子が出来たら、ダームエルだけ単身赴任すれば良いのです!! 幸い、ブリギッテの後任だけなら当てが出来ました!!」

 吹っ飛びました。

 こうして中級貴族となった、ダームエル・イルクナーと、私、妻・ブリギッテにとって、ローゼマイン様はフォルスエルンテになりました。ええ、収穫の女神らしく、ラッフェルをもぎ取られていきました。