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グリモア Pararel-Record EP2:西の街

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「ここを嗅ぎ付けられるのもすぐだわ。準備を済ませて、早く脱出しないと……」

翔子は、父の隠れアジトの物品庫にいた。

「今回はナイフと催涙スプレー、携帯保存食ぐらいでいいかしらね。
 さすがに、手榴弾やM-60アサルトライフルは長期間携行するにはきついわね」
 
翔子はひときしり準備を終えると、逃走先を考えた。

「北へ向かうか、西へ向かうか……。
 北は今、 東北守備軍特殊魔法隊がいるから共生派の私にとっては危険区域。
 西は西で、共生派内の裏間ヶ岾一派が追っ手を差し向ける危険がある。
 しかし一度やつらの網から抜けてしまえば……。危険を冒す覚悟で西かしらね……」
 
行先が決まり次第、翔子はアジトを後にし、なるべく人の目につかない獣道を探しては
西へと逃走を始めた。
幾度となく獣や霧の魔物に襲われたが、5歳の頃には教わっていた護身術などを駆使し、命からがら逃走を続けていた――
2週間後、翔子は大阪にたどり着いた。
持ってきた食糧も尽き、すっかり疲労困憊であった。
とりあえず人気のない路地裏に入り、方策を練ることにした。

「護り手は世界中にいるけど……。まだあいつの影響力のある勢力は日本の関東に集中しているはず。
 今のうちに、潜伏できる場所を探さないと……」

そのとき、翔子のお腹の虫が、ぐうっと鳴きはじめた。

(……そういえば、ここ2日は何も食べていないわね。
 日銭もすっかり使い果たしたし)

そんなときであった。
美味しそうなソースの香りが、翔子の鼻を横切った

「みすぼらしい格好した嬢ちゃんがここに入っていくのが見えたから、つい来てもうたわ
 その腹の音、しばらく何も食うとらんやろ?」

目の前に、たこ焼きを持った男が立っていた。
翔子は、餌をぶら下げられながらも、まずは男を警戒してみせた。

「嬢ちゃん、心配あらへんで。この辺でたこ焼き売っとるだけの、ただのたこ焼き屋や
 腹ァ減っとんやろ?これはおごりや」

翔子は、警戒はしつつもたこ焼きを奪い取り、そしてみるみるうちに平らげた。
その味は、またとない絶品であった。
たこ焼きのおかげでその男につい心をゆるし、翔子の重い口は開いた。

「ありがとう、いいたこ焼きだったわ。
 ねえあなた、ここで人目を掻い潜りおながら寝泊まりできる場所ってないかしら?」

男は答えた。

「なんなら、うちに泊まらへん?
 ちぃとワケありで、そう簡単に見つからん場所に住んでるんや」

翔子は、冷めた目で返した。

「言っておくけど、期待するようなことは起きないわよ?
 私、ただの一般的な女の子じゃないから」

男は、にこっとした顔で言った。

「かまへんよ。ワイかて本当はただのたこ焼き屋あらへんからな
 同じ脛に傷を持つ者同士、仲良くやろうや」

翔子は、相手がいわゆる一般人じゃないことを察したうえで、
利用できるうちは利用しようと考えた。

「なら、泊めてもらっちゃおうかしら。
 しばらく軍資金も稼がないといけないし」
 
男は、返事を聞いて上機嫌になった。
 
「交渉成立やな。ワイは則兼 省吾(のりかね しょうご)言うんや。
 あんさんの名前は?」
 
翔子は、万が一のことも考えて偽名を名乗った。
 
「 山生賀 麻子 (さんしょうが まこ)よ。
 これからお世話になるわ」

その日の営業を終えた後、麻子は省吾に自室を案内された。
6畳間に万年床の布団、脱ぎ散らかされた衣類、そして麻子には早すぎる本――。
誰もが想像する、男の部屋そのものであった。

「立地は繁華街の奥の奥で見つかりづらいのはいいけど……。
 まずこの部屋なんとかしなさいよ」

省吾は苦笑いで言った。

「いやあ、女の子も呼ばないような部屋だからどーしてもこうなってまうねん。
 とりあえず今片づけるから、待っとってな?」

そういい、省吾が手を動かし始めると、麻子が言った。

「私もやるわ。しばらく厄介になるんだもの。
 ……それにそのエッチな本、出されっぱなしでも困るしね」

省吾は年甲斐もなく顔を赤くして言った。

「そこに置いてあるの、バレとったんか!?」

麻子は呆れた様子で言い放った。

「ええ、バレバレよ。この様子だと、押し入れの中も……」

押し入れを空けると、やっぱり卑猥なものが。
……と同時に、普通の男性が持っていないような、ドスのようなものが姿を現した。

「言葉から察していたけど……。あなた、極道だったのね」

省吾は、ドスを見られ、少し気が動転した様子である。

「……だったらなんじゃ。ワイの家来るのいい言うたのはそっちやで」

麻子は、こう返した。

「ヤクザにやられるほどヤワじゃないわ。だから利用しようと思ったのよ」

省吾は、己の尊厳にくる言葉を浴びせかけられ、ついに激昂した。

「ああ、そうかい……。なら、試してみるかアマァ!?」

その瞬間、省吾の首には既にナイフが当てられていた。

「言ったでしょ。私も脛に傷を持つ存在……訓練を受けたテロリストなのよ」

省吾はその早業に驚き、言葉を改めた。

「血ィ上って失礼かましてしもうたわ。
 嬢ちゃんは本物や、ワイの部屋、しばらく自由に使ってええで」

麻子は、省吾に感謝の言葉を述べた

「ありがとう、私のような危険人物を匿ってくれて。
 顔が割れるといけないからたこ焼き屋は手伝えるかわからないけど、何かお礼がしたいわ」

省吾は、照れくさそうに言った。

「じゃ、じゃあ麻子ちゃんの体で」

麻子は、省吾の頬にキスをひとつして。

「それは、これから次第かな。私が気に入るような男になったら考えてもいいわ」

こうして、テロリストと極道の不思議な同棲生活が始まった――。