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グリモア Pararel-Record EP3:通じぬ思い

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「もはや、鶏が先か卵が先かっちゅう、そんな次元やな。
 麻子ちゃんには悪いけど、どっちが先に仕掛けたのか確かめないと、
 どっちが正しいかなんかわからへんわ」

麻子は、ひとつため息をついて、

「そうね……。もっと昔のこと、知りたくなってきたかも。
 そう思っただけでも、勉強になったわ」

省吾はキョトンとした顔で、

「あ、ああそうかい」

と相槌を打った。
その時、省吾のケータイに連絡が入った。

内容は、街に『霧の魔物』が現れたとのこと。
麻子は言った。

「霧の魔物!
 ……第7次侵攻からというものの、
 出現パターンが予測できなくなってきたわね」

省吾は、心配そうに彼女に言った。

「麻子ちゃんは残っていたほうがいい。
 これから、組のモンと共同作戦で討伐に当たる。
 ワイらはワイらの信念で、奴らを斬る。
 そんなところを……、『霧の護り手』の麻子ちゃんに
 見せるわけにいかない」
 
麻子は、待って、と彼を引き留めた。

「いいえ、私も行くわ。
 たとえ街中に出現する霧の魔物でさえ、極道といえども魔法使いではない
 あなた達だけでは危険よ。
 それに……試してみたいのよ。
 言葉で訴えかけて、霧の魔物と対話できるかを!」

省吾は、睨みつけるようにして言った。

「駄目なもんは駄目や。
 ここだけは譲らへんで!
 麻子ちゃんの安全確保もせんといけんし、
 麻子ちゃんの考えてるほど魔物さんは大人しゅうしてくれへんで!」

麻子は、素早く玄関に回るとナイフを省吾に渡した。

「……わかったわ。
 なら守ってもらうのはここまでね。
 どうしても連れていけないというなら、
 私を無かったものにしてから行きなさい」

省吾は、頭をくしゃくしゃをかくと

「まったく、めんどくさいやっちゃの。
 麻子ちゃん、逃走を続けてるのに自分で死んでどうするんや?
 ……しゃーないからついてきいや。
 けどな、万が一のことがあったら自分の身は自分で守るんやで?」

そして二人は、霧の魔物の発生現場へと向かった。
現場では、既に警察と極道が霧の魔物と応戦している。
様子を見る限り、魔法使いはまだ到着していないようだ。

省吾は言った。

「まだ北海道のほうで忙しいんかいな。
 魔法使い、一人もおらへんがな」

その時であった。
麻子は、駆け足で魔物に近寄って行った。
それに気がついた省吾も追う。

「あ、麻子ちゃん!
 気ィ付けろって言っとるのに!」

麻子は、魔物の前に出ると、大の字に体を広げて言った。

「言葉が通じるかはわかりませんが、お願いします!
 どうか矛を収めて、この場から離れてください!」
 
「我々も自衛しているだけなのです!
 ここは人間が住む地域です!
 人里離れた土地へ、どうか移動をお願いします!」

それに、周囲が反応し始めた。

「あのお嬢ちゃん、いきなり何を言うてんねん?」
「さて……?」
「ぼさっとしてる場合かい!殺されるで!」

麻子は、警官や極道たちにも訴えかけはじめた。

「あなたたちも、攻撃をやめてください!
 この子たちも、攻撃するから襲いかかってくるんです!」

しかし、その隙に!
魔物の一体が、麻子へと攻撃を仕掛けてきた。

「危ねぇっ!!」

省吾は、無防備な麻子を跳ね除けると魔物の攻撃を
ダイレクトに受けてしまった。
場所は心臓部……。
出血がひどく、誰が見ても助からないであろう状態であった。

「あ……」

麻子は、省吾の姿を見て唖然としていた。
自分のやったことで、居場所を与えてくれた恩人が今、死にかけている……。

「第7次の時は……魔法使いが来るまで粘って……。
 なのによぉ……あっさりな……終わり方やな……。」

麻子は我に返り、必死に声をかけた

「省吾さん!……私の……せいで。
 お願い!気をしっかり!!」

省吾は、最後の気を絞りながら伝えた。

「いいか……麻子ちゃん。
 夢想もいいけどよ……目の前はちゃあんとみとき。
 鶏が先か卵が先かはわかんねぇ……。
 けど、考えるのは襲われてからじゃ遅いんだよ……。
 降りかかる火の粉だけは……払え……」

省吾は、最後ににこりと笑うと、そのまま動かなくなった。
その瞬間、麻子には新たな感情が芽生えていた。

「こんなの……こんなのって!!
 おいたがすぎるよ、『霧の魔物』ッ!!」

麻子は、ナイフを片手に省吾を殺した魔物を急襲。
弱点を的確に狙い、一匹仕留め上げた。

「私はやる……。
 いつか話せるときが来ると信じてるけど
 『今は、目の前の火の粉を払うッ!!』」

――それからしばし。
魔法使いが到着し、この一件は事がついた。

それから麻子は、省吾の属する組へ直接呼出しを受けた。
「……分かっているやろな?」

麻子は、目線を逸らさず答えた。
「はい、承知しています。
 私『霧の護り手』の脱走犯がここに居ては、街の平穏も守れないでしょう。
 今晩を以て、この街を出発いたします。
 その……省吾さんには、大変お世話になりました」
 
組長は答えた。
「省吾の墓に、いい花を添えてくれたっちゅうらしいな。
 天国で、ごっつう喜んどるだろうなぁ。
 ……これからはどこ行く?」

麻子は、これからの予定を組長へ伝えた。
「まだ、私は逃げる時と考えています。
 ……そうですね、さらに西の方向へ向かうとします。
 彼らの日本支部は、関東の勢いが強い。
 なら、西へ逃げるのが得策かと。」

組長は、麻子のの話を聞くと
「なら四国に行くがええわ。
 フェリーのチケットを出したる。
 あと怪しいのが居んか、フェリーに乗るまでは
 若いの何人かに見張らせておくで」

麻子は、深々と頭を下げた
「これまで、本当にお世話になりました。
 自由に動けるようになったら、省吾さんの命日には必ず伺います」

麻子の目には、涙が光っていた。
自分の甘さによる、恩人の死。
それが悔しくて、葬儀を終えた今も涙が絶えない。
そして、そこには今まで力を貸してくれたこの街の極道たちへの、
感謝の涙も含まれていた――。

「では……これにて出発いたします。」
「ほな、おおきにな。
 おい、フェリー乗り場まで車出したれ!」

こうして大阪を離れることになった間ヶ岾翔子の、新たな旅が始まった――。