二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 http://novelist.jp/ | 官能小説 http://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ただし少女はレベル0.09【1.3】九日後

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
私達は完全に油断していた。
すでに終わった話だと忘れ去っていたのだ。


8月20日17時00分。
楽しかったプールからの帰り道。
駅を出て、角のコンビニで楓と別れ、次の信号で市子達と別れて。
一人で家の前まで来た時、それまで晴れていた空が一気に掻き曇り、私は豪雨に襲われた。
前も見えなくなるほどの激しい雨に叩かれて。


気がつくと景色が変わっていた。
びっくりするほど何もない無人駅。
見渡す限りの田んぼ。
イオンまで12kmと書かれた壮絶な看板。
屋根のある、あの、駅前のバス停。
あれは、あの時の。

あの日、兄の下宿先に行く為にバスを待っていて…
私は血の気が引いた。
今日は、8月20日。

豪雨の中、龍王の周りだけが光り輝いていた。

「九日目だ。ワガニエよ」
みずらを結った少年が笑う。

ニエ。
生贄。

「だって」
私はそれしか言えなかった。
雨の音に掻き消されそうな呟きだったが、少年は陰惨な笑みを浮かべて頷いた。
額に角。
「なかった事にしたかったのだな。なんとも愚かで可愛らしい」
「だって糸が」
「約束の証に巻いただけだ。糸があると天狗が騒ぎ立てる」
つまり、糸の有無は約束に関係ないと。
「だって、左手は見つかって、あたらしい神主さんも見つかって、これから沢山の人がお参りに来るんだから」
「余とそなたの約束に、それは何の関係もない。約束が反故になったなどとは一言も言っていない。この先、何千の参拝者が訪れようと、そなたがいなければ意味がない」
「だって、あの時、私の事無視してたじゃん。もう用なしなんでしょ」
「まだ約束の日ではなかったからだ。今世との別れを惜しむ時間も必要だろう」

一言しゃべるごとに龍は一歩進み、私は一歩退いた。
動くことは出来た。
しゃべることも出来る。
だったら、まだ戦える。
震えがとまらないけれど。

「私は約束なんかしてない。あんたが勝手に…」
「余が決めたのだ」
そうですね。
生贄に合意なんか必要ないですよね。

「我が贄よ。おいで。永劫を共に過ごそう」
龍が手を差し伸べた。

よかった。
その場で頭から食べられる系じゃなかった。
これには合意が必要なのか、龍は私の返事を待っている。

「行かない。私は史郎坊さんの彼女になるんだから!」
「やっと呼んだか。探したぞ」
目の前に史郎坊の背中。
大きな背で私を龍から隠してくれる。
来てくれた。
私はほっとして背中にしがみ付いた。
涙も泣き声も、もう我慢せずに思い切り出してしまえる。

「この距離では気配も追えん。生きた心地がせなんだぞ」
「史郎坊さん史郎坊さん史郎坊さん」
「もっと早う呼ばんか」
「だって」
「儂らにも糸が必要かもしれんのう」
「糸」
史郎坊の声を聞いているうちに、ようやく気持ちが落ち着いてきた。


「来たのか。うるさい天狗だ」
龍は虫けらを見るように史郎坊を蔑む。
「これは龍王様。今日は社で祭のはずでは?いかがなさいましたかの」
史郎坊は慇懃に微笑む。
天狗が龍にかなう訳がない。
下手に出る他ないのだ。
ホッとしている場合ではなかった。
慌てて手の甲で涙を拭う。

「余はその娘を連れて行く。邪魔をするな」
「しかし、贄はとらぬとの約束であったはず。神座にお戻りになられたのですから、約束は守っていただかねば」
「…では贄とは呼ばず、嫁と呼ぼうか」
「儂の嫁じゃ」
史郎坊が小さく吐き捨てた。
まだ告白すらされてないのに。

嫁扱い。
子ども扱いからやっと卒業できたのだろうか。

「どうせお前もこの子を攫うつもりであったのだろう。お前がするはずだった事を余が成して何が悪い。同じことだろうが」
「同じじゃないよ!」
私は史郎坊の背中にしがみ付いたまま叫んだ。
足が震えているのは、恐怖からなのか、嬉しいからなのか。
「私は史郎坊さんに攫われたいんだから!」
龍と史郎坊が黙った。

やばい。
これは実質告白なのでは。
史郎坊は振り返らなかったので、どんな顔をしているのか分からなかった。
豪雨が二人を叩く。
史郎坊は何も言わなかった。
見つめていると、史郎坊の背中の筋肉が緊張して、それからゆるんだのがわかった。

史郎坊が振り向いて、私をしっかりと抱きしめる。
胸に顔を押し付けられて、どんな顔をしているのか見ることが出来ない。


「龍王様におかれましては、新たな社も整い、今日は沢山の参拝者を迎えている事でしょうのう。何故今更この娘にこだわるのか。神職の振る舞いに不満でもおありかな。儂が言うて聞かせましょうか」
史郎坊が余裕を取り戻した。
龍はしばし無言だったが、やがて投げやりなため息をついた。
「社にも神職にも不満はない。時代の流れで祀り方がかわるのは致し方のない事。ただ、その子がいないのが不満だ。何故来なかった。今日は余にとって大切な祭であったのに」
なんだか風向きが変わった。
そんな事言われても。
こんな遠い所、気軽に来れる訳がない。

「この娘は龍王様の左手を届け、役目を終えておりまする」
「勝手に終わらせるな!余はまだこの子に礼を言っていない。左手が戻り、美しく祀られた姿を見せて、そなたのおかげだと褒めてやるつもりだったのに」
完全に話が変わっている。
生贄はどうなった。

泣きそうな声で言われて、なんだか申し訳なくなってきた。
しょぼくれた少年を怖がるのは難しい。
「あの…ごめんね?」
「嬢ちゃんはしゃべるでない!」
史郎坊に叱り付けられた。
私の耳元に口を近づけて囁く。
「言質を与えてはいかん。あやつ、恋愛的に攻略出来んと知って母性本能に訴えて来ておるぞ」

ああ、急に余裕が出たのは、自分は恋愛的に攻略出来たと知ったからで。
なんだか悔しい。

「でも、これどうなるの」
「宮待ちじゃ。みずちが連れて向かっておる故、今しばらくかかる」
「それって」
「宮の御稜威をお借りすれば五分で終わる。いかに筑波嶺白太竜王といえど、消去に失敗したデータなぞ、宮が斬って祓えば終わりじゃ」
「だめだよ!そんなのプールの女の子と同じじゃん!」
「情けを掛けておれる立場か!」
史郎坊が怒鳴るけれど、知った事じゃない。
私は龍に向かって叫んだ。
「ごめん!今日は早く帰らないとお母さんが心配するから行けないけど、いつかきっと見に行くから。お嫁さんにはなれないけど、時々会いに行くから」
「言うたな」
龍がすぐ目の前に立った。
史郎坊が私を抱きすくめる。
「よかろう。たがえるな、我が巫女よ」
今度は巫女。
もう何でもいいのか。
「巫女って」
「そなたが余を見つけ出し、そなたが余を元の体に戻した。我が巫女に相応しき働きだ」
「えっとあの、巫女はちょっと。私にはもう神様がいるから」
龍の顔が曇る。
だから泣かないでってば。

「私、一神教ではありませんので別に。そちらの龍王と私を同列に祀るというなら許しましょう」
見上げると、助六が史郎坊の肩の上に乗っていた。
市子に先行して駆けつけてくれたらしい。
「私の大切な信徒に目をつけるとは。独占する気なら喰いちぎってやってもよいのですが。私は心が広いのです」
助六が尊大に見下すと、豪雨が勢いをました。
せっかく収まりかけたのに怒らせて。