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ただし少女はレベル0.09【13】帰郷

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「来週の日曜、宮が大雅と水族館へお出かけになる」
「そうなんだ。仲いいよね、あそこの親子」
「そこではない」
「?」
史郎坊は膝に乗せた私の頭を撫でた。
「二人きりでデートするには、この日がチャンスじゃ」
「あ、そうか」
「どこがよい?どこなと連れて行こう」
私は宿題どころではなくなった。

二人きりでデート。
ものすごく久しぶり。
いろんなデートシーンが頭の中を駆け巡り、前から考えていた場所に思い至った。

「高尾山」
「…は?」
「史郎坊さんって高尾山の天狗なんでしょ?行って見たい」
「なにゆえに」
「ダメ?そっか女人禁制だっけ」
「いや、昨今は登山も滝行も自由じゃ。こだわっとんのは天狗道じゃよ」
「じゃあ、行きたい」
「いやいやいや、今時の乙女が行って楽しいところではないぞ。嬢ちゃんは山ガールでもなかろう」
「だって、史郎坊さんの故郷でしょ?見てみたい」
「いや、故郷とは違うが…よいか。一般人にはただのハイキングルートじゃが、嬢ちゃんは見える人じゃ」
「うん」
「お山には天狗が大勢おる。儂の嫁とあらば物珍しさに集まってくる。見世物にされるぞ」
「いいよ。ていうか、お山の天狗さんなら普通に紹介してくれるよね?」
私は小首を傾げてみせると、史郎坊が眉をしかめた。
「…なるほどのう。湊の時は辛い思いをさせたでな。あいわかった。ちゃんと紹介しよう。」
罪悪感からか、史郎坊は意外とあっさり折れてくれた。


...........................



秋晴れの日曜日。
私は高尾山を舐めていた。
こんな人が集まる観光地だったなんて。

ケーブルカーを降りて、いよいよ山を登る。
史郎坊はすでに修験者姿で錫杖をついていた。
羽根まで生やして。
かっこいい。
うっとり見ていると、翼を広げて私の頬を撫でてくれた。
大好き。

「ねえ、きょうカラス多くない」
「ちょっと気味悪いかも」
登山客達のざわめきを聞きながら、登山道に足を踏み入れる。
と、そこはもう人の世界ではなかった。
遠足で、狸に化かされた時と同じ。
でもあの時よりも空気がピリリと澄み渡っている。

…私は高尾山を舐めていた。
周りの木の枝に、鈴生りの烏天狗。
皆が私を見下ろしてギャアギャアと喚き立てている。

時折私の頭すれすれを飛んでからかうものも。
「お戯れはおやめくだされ」
史郎坊が錫杖を掲げて庇ってくれた。
ちょっと待って。
まだお寺にたどり着いてすらいないのに。
天狗っていうのはもっと山奥に出るものだと思っていた。
山に入った途端に、そんな。

「…私、歓迎されてない?」
「物珍しいだけじゃ。お山に女が来るのは珍しい」
「女人禁制だから?やっぱり来ちゃ駄目だったかな」
「まだ禁足地には至っておらぬ。奴らが面白がって出迎えただけじゃから気にするな」

史郎坊は騒ぐ烏天狗に構わず、岩の上に立つ水干姿の少年に丁寧にお辞儀した。
雀に似た背格好。
ものすごい美人だ。
私も慌てて頭を下げる。

史郎坊が私を抱き上げて翼を広げて飛んだ。
岩の上に降り立つと、烏天狗達が更にやかましく騒ぎ立てる。
何を言っているのかはあまり聞き取れなかったけど、多分からかって笑っている。
感じがわるい。
史郎坊は少年に一礼した。
「嶐慶様、妻の芹香を連れてまいりました」
ものすごく正式に紹介されたのに驚いて、私はもう一度頭を下げた。
水干姿は雀と同じだけど、雰囲気が全然違う。
お姫様みたいだ。

「儂のお師匠様じゃ」
こっちが?
お姫様の後ろで興味なさそうに座っている黒髪長髪黒尽くめで物凄く圧の強いお坊様じゃなくて?
「あ、あの葛葉芹香です。よろしくおねがいします」
驚いているのがばれないように、私は三度目のお辞儀をした。
そうだ。
挨拶しに来たのだった。
思いついて私は枝に止まっている烏天狗達をぐるりと見回して、四度目のお辞儀をした。
「よろしくおねがいします!」
騒いでいた烏天狗がぴたりと黙った。
「…史郎の嫁はいつ来てもやかましいのう」
「やかましいやかましい」
天狗は子供の私が嫁でも驚かないのが嬉しい。
…いつ来ても?

「お久しぶりですね」
嶐慶は穏やかに微笑んだ。
「ええと」
高尾山に登ったのは初めてだけど。
「前世では、よく権現様に詣でていらっしゃいましたよ」
そうなんだ。
私は史郎坊を見上げた。
史郎坊は知らぬ顔。
絶対前世の話はしてくれない。
今を生きるのに邪魔になるからといって。

「出征前に、史郎と一緒に一度。出征後は一人でお百度を踏んでいましたね。史郎が無事帰れるようにと」
「おひゃくど」
「生きて返す事は叶いませんでしたが、史郎には天狗道を往く才があったので、天狗としてあなたの元に連れ帰ることが出来ました」
「え、うそ。あ…ありがとうございます」
私は手を合わせて、今度こそ心から頭を下げた。
私にとっても、とんでもない恩人だった。
やっぱり宗教って大切なんだ。

史郎坊は、話をやめさせたいが師匠に口をはさむわけにはいかず、といった風情で頭を掻いている。

今がチャンスだ。
「あの、お師匠様。教えてください」
「拙に分かる事でしたら」
「私って、本当に史郎坊さんの奥さんの生まれ変わりなんですか?」

「何を今更!」
史郎坊が驚いて、私の肩を掴んだ。
「まさか、信じておらなんだのか!」
「だって証拠がないし」
ずっと知りたかった事だ。
高尾山なら、史郎坊の奥さんを知っている天狗がいるのではないかと思っていた。
これが、どうしても高尾山に行きたかった理由。

「証拠など…一目で分かる!」
「それじゃあ、私が信じられない。物的証拠とかないの?」
「それは…」
史郎坊は何かを言いかけて、口を噤んだ。

「だって史郎坊さんが私を可愛がってくれるのは、私がたまたま前世で奥さんだったからなんでしょ。もし人違いだったらどうするの。本物の奥さんが見つかったら、私の事なんかどうでもよくなるでしょ」
「嬢ちゃんが本物じゃ!嶐慶様も一目で見分けたじゃろうが」
「なんで分かるの」
「魂が同じじゃから」
「物的証拠」
「……」
史郎坊が困りきって、助けを求めるように嶐慶に目をやり、ぎょっとした。
私も驚いた。
嶐慶がはらはらと涙を零している。

「なんと哀れな。それほどまでに思い悩んでいたとは」
「…ええと」
「いいでしょう。及ばずながら拙が力になります」
袂で涙を拭きながら請合ってくれた。
お姫様はどこまでも優しい。
ありがたいというのは、こういう事を言うんだろう。
私は手を合わせて頭を下げた。

嶐慶があらためて私と向き合う。
「芹香さんは九字を切った事がおありですか」
「くじ」
私は首を傾げた。
くじ引き用の紙を切った事ならある。
「史郎の九字を見た事は?」
私が首を振ると、嶐慶は頷いて語りだした。

「貴方は以前、お礼参りに来たことがありました。夫が帰ってきたので礼をしたいと、史郎を伴って登って来たのです」
「お礼参り」
「その時も皆が物珍しさに貴方を取り囲んで。打ち騒がれても貴方は怯まずに、彼らに天狗になる方法を尋ねていました」
私は真っ赤になって俯いた。
賽の河原だけでなく、ここでもやらかしていたのか。