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文シリ短文詰め

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太芥で甘甘な創作するならお題は/①不意打ちの雨で雨宿り/②少しずつ距離を近づけよう/③一緒ならどこだって楽園になる です http://shindanmaker.com/154485


【不意打ちの雨で雨宿り】

天国でも雨は降る。
「参ったなあ…」
飛び込んだ店の軒先で、空を見上げた人の、線の細い横顔をつい盗むように横目で見る。激しい雨が地面を叩いて、昼下がりの通りには誰もいなかった。彼のこめかみから一すじ、雨のしずくが降りて行く。
ふとその顔が、気遣わしげにこちらを向いて、目が合った。
「これはとてもちょっと走って…というわけにもいかないね。太宰くんは時間大丈夫?」
「は、はい。編集との待ち合わせにはまだありますので…」
見つめていたのが分かってしまったかと僕は決まりが悪くなり、視線が泳いだ。
けれどもそれきりで、僕らは黙って並んで降りしきる雨を見つめていた。
世界に僕とあなただけが存在するこの時間がずっと続けばいいと願っても、きっと通り雨などすぐに止んでしまうだろう。



【少しずつ距離を近づけよう】

初めて会ったのは出版社の人間の紹介で、以来何度か彼の訪問を受けている。
「甘いものがお好きだと聞きましたので……あの、お口に合いますか」
「ああうん、おいしいよ。ありがとう」
「良かった!」
手土産が気に入ってもらえたかなんてこと、生き死にに関わるような顔で気にして、たった一言で表情が一気に崩れて心底嬉しそうな顔になる。なので僕はどうにも尻の座りが悪い。
有難いことに彼は僕の熱心な読者でいてくれていたらしいのだが、彼の僕に対する態度があまりに熱烈過ぎるので、戸惑うこともしばしばだ。
「えーと、太宰くん」
「はい!!何ですか!!」
もしも彼にに尻尾があったら、確実にちぎれんばかりに振っている(僕は犬は大嫌いだが)。彼自身のことだって聞きたいのだし、もう少し落ち着いて欲しいと思わないでもない。まあ時間だけならいっぱいあるから、少しずつ距離を近づけていければいいだろう。
こっちに来てからの僕は、生前のあれこれから新しい人間関係はどちらかというと避けていて、そういえばこんな風に思うのは初めてだなと気が付くのはもう少し後だった。



【一緒ならどこだって楽園になる】

人なんてそうそう変わりゃあしないんだ。馬鹿は死ななきゃ直らない?いいや性格は死んでも直らない。天国に来てから身に染みている。僕が人生について(人生は終わったというのに!)悩み煩うのは相変わらずだし、中原のなめくじ野郎はなめくじ野郎、先だって不本意にも再会した某老害作家と来た日には空気の読めなさが生前よりも悪化しており、今日も今日とて作家は締め切りに追われる生き物だ。
全くこれでは死んだ意味があるのか。天国なんてやって来ても、ここは全然天国じゃない。
――などと、その日も生前からの過去のことまで掘り返し、とりとめのないことを考えながら、僕は作家のことなど分かっちゃいない編集者との打ち合わせを終え、出版社の建物を出た。
だが今日は何という幸運であろう!僕ははるか道の先にあの人の姿を発見した。
「芥川先生!!」
全力で走って来る僕に気付き、あの人が立ち止まる。

ああしかし生きている時は考えられもしなかった。
この瞬間、彼の人が僕という存在を認識してくれている。言葉を交わす為に彼の元へ走って行ける。
今や天国は楽園なんかじゃなくたって全くかまわないのだ。
あなたと同じ場所に在ることが出来るのならそこが。

作品名:文シリ短文詰め 作家名:あお