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魔王と妃と天界と・3

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教会にて。
「ぅおーい、誰だこんなとこに本出しっ放しにした奴は」
 ちゃんと片付けろよなー、とぶつくさ言いながら、律儀に片付けるのは弟悪魔。
 最早子供達の住居と化した教会内に、物が散乱しているのはよくある事だ。
 私物ならば個々に管理しておかなければ誰に持っていかれても自業自得で済まされてしまうので、この様に散らかしてそのままにされているのは大抵教会の備品扱いの共有物である。
「お、なんだそれ。……絵本?」
 今日の護衛の役である教会内を見回っていた悪魔の一人が、弟悪魔が拾い上げたそれに目を留め、馴染みの無いそれに首を傾げる。
「あー、なんか城の書庫だかにあったのを妃さんが持ってきたらしいぜ?陛下が昔に読み聞かせてもらってたもんだかなんだか……」
「はー、流石陛下は育ち方が違ぇなぁ」
 こんな優雅なもん、触れた事ねえわー、と笑う悪魔に笑い返しながら、なんとはなしにページをめくって。
「他の次元の先から来た連中と戦い、認め合い、和解する、ねえ……。さっすがお優しい陛下様の持ち物らしく、ヌルイ内容だな」
 嘲笑う様にそう言うが、
「だから俺達もここにいられるんだろーが」
 苦笑しながら言う護衛の悪魔にうぐ、と詰まり、弟悪魔も違いない、と苦笑する。
「しっかし、天界、魔界に……人間界に別魔界?超界とか色々あんなぁ。実在してそうなのからあからさまにおかしいのもあるが……なんだこの死界って。ホラーか?」
 ゾンビやら化け物やら、ぶっちゃけなんでもござれな魔界でホラーに分類されるのがどんな物になるのかは知らないが、字面からすればそんな感じだ。主題がそこでは無いのは承知だが、ごった煮すぎて話として成立しているのか疑問な弟悪魔である。
「まぁ、絵本だしな。荒唐無稽なのも醍醐味ってこったろ」
 世界も生態も価値観もそれぞれに違う別世界の住人達。
 それら全てと分かり合うなど、とんだファンタジー、夢物語だ。
 だがそれでいいのだろう。絵本なのだから。大体、天使である妃のチョイスだ。
 なんだかんだと愛が勝つハッピーエンドは彼女の好みとして最適である。それを教会にいる子供達や悪魔達がどう受け取るかはまた別の話だが。
 それでもあの妃は、己の信じる道をひたすら求め続けるに違いない。
「実際、魔界と天界は和解したからな。その内またどっかの世界とこうなるかもしれねーな」
 そう軽く笑う護衛の悪魔に、否定する材料も見付からず。
 弟悪魔も反論を諦め、つられる様にして笑った。





 ──それは、御伽噺。
 愛と優しさを詰め込んだ、綺麗な綺麗な御伽噺。
 光溢れ、そして闇をも光に変える様な。……何かを置き去りにした様な。
 そんな、どこか歪な御伽噺。
 誰かが笑う。ありえないと。
 誰かが言う。つまらないと。
 混沌を形にした様な魔界の住人達は、御伽噺を本気になどせず。
 けれども彼女は笑って言う。
 真っ直ぐに、穏やかに。しかし奥には苛烈な程の熱を持って。
 それでもわたしは、信じています。
 どんなに困難でも、馬鹿にされても、否定されても。
 だってこれが、わたしですから!!
 眩しい程の笑みでそう言い切る彼女──“せんせー”を前に、とけきえてしまいそうだと思ったのは。
『お前はおぞましく穢らわしい闇の塊なのだから』
 ……そういう事だったのだろうか。
 沈む意識の中で、そんな事を考えた。





 前触れは確実にあり、しかしその重要性や危険性に気付く者は極僅かで。
 それでもそれなりに広がっているその情報を、雑談の話題にしているのは街の悪魔達だ。
「別次元?」
「そーそー。今、なんか次元の歪みが出てるらしいじゃん?穴も開きそうとかでさー」
「そっから何か出てきそうだとか言われてるんだよなー」
「この魔界と繋がってる次元って何だ?」
「さー。そういや昔、どっかで聞いた事があるよーな気もするが……」
「次元の穴か……。そこから敵がやってきたとか聞いた事があるな。直に見た訳じゃないから何とも言えんが」
「前魔王様が撃退したって話は聞いたな」
「じゃあ今回もそうなるのか?」
「陛下ならそうそう負けはせんだろうが……」
 そうして。
 如何せん経験が……いや、しかしお強いぞ、などと遣り取りをしていた悪魔達は、唐突に発生した不可解な音を聞き。
 目を向けたその先に、敵を見た。





「資料には大雑把にしか載ってなかったっス……」
「それでもあの膨大な資料の中から見つけ出した俺らすげーっス!!賃金の値上げを要求するっスー!!」
「とにかく報告しに行くっス!!」
 その手に紙の束を持ちながら、プリニー達がわいのわいの騒ぎながら、ラハール達へと報告に走ろうとし。
「……それはちょっと困るっスねぇ……」
 その前に立ち塞がる一匹のプリニーに阻まれた。
「何っスか!?」
「お前も賃金値上げしてほしいっスか!?」
「でもこの資料は俺らが見つけ出したっス!!お前には資格がないっス!!」
 一斉に声を上げるプリニー達に、それを阻んだプリニーはふーっ、とわざとらしい溜息を吐き。
「こんな連中の同類に見られるのは遺憾としか言いようがねえなぁ……っス」
 そう言うプリニーの身体全体から立ち上る黒い影に反応する暇も無く。
 唐突に現れた穴と影に、その場にいたプリニー達は、音もなく飲み込まれた。





 そして、事は急速に動き始める。





「いやー、またザックリやられたなー」
 腕と腹を大きく裂かれながらも、悪魔の一人がけらけらと笑う。
「今回の連中は無駄に手強かったな。おいプリニー共、そいつらの手当て頼まぁ」
 そう言いながら、自身の傷口には自分でぞんざいに包帯を巻く。
「ああ?いらねーよ、そんなん」
 寄ってきたプリニーを他の悪魔の方へ蹴り飛ばしつつ、己の焼け爛れた腕の傷を舐める。
 そして。
「何これツンデレの集まり?」
「きめぇわー」
「まぁ、陛下にやられた時より全然軽傷だしねー」
 呆れた様に零しながら、救急箱を持ち走り回る悪魔の子供達。
「………これは………」
 目の前の光景に、ブルカノが呆然と呟く。
 今日も嫌々魔界に来てみれば。
 人気の無い城内、破壊された街、火の手が上がる教会。
 そして遠くから聞こえる破壊音。
 慌しく走り回るプリニーの一匹を捕まえて聞けば、敵襲っス、との言葉。
 その短い一言の後、治療道具だろうか、大きな荷物を抱えてまた慌しく走っていく。
「………やはり、悪魔など………」
 争い、蹴落とし、己の欲望の為に。
 だが目の前には、他の悪魔達の為に走り回る悪魔達がいる。
 少々混乱してきたブルカノに、声が掛かった。
「あ、ブルカノじゃん!!マデラス見てない!?」
「………………何?」
 教会に住む子供の悪魔だ。なんだかんだとブルカノと顔馴染みになっていて、マデラスの面倒もよく見ている教会内での年長組の一人だった。
 相変わらずの呼び捨てにはムッとするものの、その内容に意識が向く。
「……いないのか?」
作品名:魔王と妃と天界と・3 作家名:柳野 雫