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ただし少女はレベル0.09【14】たまには喧嘩もしたりする

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失敗した。
まさかあんなくだらぬ事で喧嘩になるとは。
芹香がここまで怒るのは初めてだった。


自分が書痴であるが故に、芹香の部屋に来るたびに、つい書棚を気にしてしまう。
彼女は本よりも音楽やドラマが好きらしく、書棚は充実しているとはいえなかった。
市子は伊勢を出てから書棚は持たず、もっぱら学校の図書室を利用しているのだが、芹香は図書室に立ち入った事もない。
書棚に並んでいるのは子供の頃の絵本と、小学校の課題図書、あとは少女マンガのコミックスぐらいだ。
残りの空間は彼女の信奉するバンドのCDや音楽雑誌で埋められていた。
バンドの方は横須賀でチェック済みだ。
何が良いのかさっぱりわからんが、まあ爆音と退廃的な歌詞に惹かれる年頃なのだろう。
今、史郎坊が気になっているのは、少女マンガの方だった。
こちらは数があるわけではなく、一シリーズのみ。
十巻以上続いているので人気があるのかと、一話だけネカフェでチェックしてみたのだが…


今夜もメールで呼び出された。
宿題がわからぬと。
呼ばれた時だけと決めているので呼び出しは嬉しい。
毎晩呼び出しが続くのも、それほど恋しいのかと可愛らしく感じる。

芹香の部屋に顕現したところで、勉強机の上の新刊が目に留まった。
「なんじゃ、また買うたのか」
机の前に立って、表紙を覗き込む。
「うん、好きだから」
振り向くと、ラグの上に座った芹香が両手を差し伸べて待っていた。
本当にいじらしい。
抱き上げて、膝の上に乗せる。
テーブルの上にはワークが広げてあるが、どうせ口実なので気になる漫画の件を先にすませる事にした。

「好きと言うわりには、漫画はあれだけではないか」
「ドキカレは特別なの。他はアプリでポイント貯めて読んでる」
「儂には何が良いのかわからん」
「読んだの?」
「さわりだけの」
「史郎坊さんて少女マンガ読むんだ」
「竹宮恵子などの名作は押さえておるが、最近のはあまり読まん。嬢ちゃんが後生大事にしておるから、内容を確認したまでで」
「面白いでしょ」
「……」
自分が本好きであるからこそ、書物の好みに口は出したくない。
手当たり次第に読もうとする市子を止めるのは教育上良くないと判断しただからだ。
今回も、そう、教育上良くない。

「嬢ちゃんは、あのような底意地の悪い男が好みなのか」
「杉崎君のこと? いじわるだよね!」
芹香はクスクス笑った。
漫画の内容は、ツンデレ男子に振り回される女子が主人公の話で。
「漫画だから許されておるのかもしれんが、ああいう男を許してはならんぞ。少年マンガの主人公が硬派を気取るならともかく、少女マンガでなぜあんな横暴な言動が受けるんじゃ。意味がわからん」
ようやく好きな漫画をけなされていると気づいて、芹香の顔色が変わった。
「いいじゃん。杉崎君は唯子が好きなんだから」
「前にも言うたじゃろう。好きだからいじめてもいいなどと考えてはならん。自分の価値を貶めるぞ。儂はそれが心配なんじゃ」
「前にも言ったけどさあ。史郎坊さんだっていじわるだからね!」
芹香が声を荒げる。
「いや、じゃからあれは芹香嬢の為を思うて」
「なんでドキカレ好きだからって説教されなきゃいけないの」
「嬢ちゃんの価値観が歪んでは、男にいいように利用されるぞ」
「言っとくけど!史郎坊さんて杉崎君そっくりだから!」
「…は?一緒にされるとは心外じゃ。儂は壁ドンなど野蛮な真似はせん」
「今してんじゃん」
…確かに言い合いに夢中になるうちに、壁に手をついて芹香を追い詰めてはいたが。
「壁を叩いてはおらぬ」
「そういう問題じゃないし。…もういい、出てって!」
言われた瞬間に姿を消した。
ここで食い下がっても仕方がない。

そっくりとは。
心外だ。
ツンデレで女を落とそうとした事など一度もない。

史郎坊は根城にしている秋葉原のネカフェに戻った。
普段は利用しない漫画コーナーでドキカレを探す。
芹香が何をもって史郎坊をツンデレ男子そっくりと評したのか確かめる必要がある。

三巻でギクリと手を止めた。
『甘えてんじゃねえよ』
『なんで俺がお前を助けなきゃいけねえんだよ』
割と似た事を芹香に言った気がする。
『宮と仲直りする手助けをして欲しいと?』
『甘えるでないわ』
言った。
同じ事を言った。

しかもこのツンデレは、意地悪を言いながらも、その後彼女に気づかれないよう助けてやっている。
史郎坊も確かに悪漢から芹香を救いはしたが、市子との仲直りについては全く手を貸さなかった。
市子の空気を読まない行動でうやむやになっただけだ。
…もしかして自分はツンデレ男子以下なのでは。

五巻で史郎坊はついに読むのをやめてしまった。
他の男子と楽しそうに話す主人公を無理やり屋上に連れ出して、壁ドンで脅し始めたのだ。
『よそ見してんじゃねーよ!俺の事が好きなんじゃねえのかよ!』
はい、やりました。
クラスの男子といい感じになっているのを後ろから羽交い絞めにして連れ去りました。
その上、説教までかましました。

これは言い逃れ出来ない。
この憎たらしいツンデレ男子と同じだと。
…それが芹香の好みだと。
喜んでいいのか、落ち込んでいいのかわからない。
つまり今、芹香が史郎坊のいいなりなのは、まさしくこの漫画の影響という可能性もある訳で。

『ジジイ! なにやってんだ。はやく来い!』
脳内に直接怒鳴り声が響いた。
「雀か、どうした」
『外見てねえのかよ!いいから来いって!』
言うだけ言って、一方的に通信は途切れた。

「外?」
ネカフェ上空に顕現する。
遠くに雷雲が見えた。

「…龍か!」
再び瞬間移動で葛葉邸上空へ。
町内だけが豪雨に見舞われていた。

雨の中に芹香が浮かんでいる。
生霊だった。
白い龍が巻きついている。

「ジジイどういう事だ説明しろ!」
同じく空に浮かんだ雀が詰め寄る。
彼ではどうする事も出来なかったのだろう。

「どうと言われても…少々言い争いをした程度じゃ」
史郎坊は呆然と芹香を見つめた。
芹香は目を開けてはいるが、ぼんやりと中空を見つめ意識はないように見えた。

龍だけではない。
芹香の肩の上に助六が乗っている。
「狐。おい狐」
「助六です。あなたが名付けたのです」
「どうなっておるんじゃ」
「それは私が聞きたい。早く芹香嬢をなだめないことには、宮のお住まいまで浸水してしまいます」
助六はすまして答えた。
助六でもどうにも出来ないらしい。

しかし、なだめるといっても意識がなくては。
史郎坊はしかたなく龍を見上げた。
「白太竜王様。いかがなされましたか」
慇懃に尋ねる。
「我が巫女を泣かせたな」
龍は史郎坊を虫けらのように見下ろした。

「木っ端天狗などに巫女を任せたのが間違いであった。お前はもう用済みだ。失せろ。やはり芹香は我が嫁とする」
「な…!」
「それは困ります」
助六が後ろ足で耳の後ろを掻いた。
「なにしろ私、芹香嬢に龍王と同等に祀ると約束させておりますから、龍の嫁になるのであれば私の嫁でもあるという事に。私、心に決めた女性がおりますのでそれはちょっと」

「好き勝手言いおって! 芹香嬢は儂の嫁じゃ! 少々機嫌を損ねた程度で湧いて出るでないわ!」