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MIDNIGHT ――闇黒にもがく3

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MIDNIGHT――闇黒にもがく 3


□■□Six night□■□

(声……、人の…………、何人……か…………、室内……、なのか?)
 慌ただしく動く人の気配がする。
 バチッ、とショートしたような刺激が全身に走り、痛みを堪えていれば、不意に魔力が流れてくるのを感じた。
(これは……?)
『稼働に十分な電力が溜まりました。動きそうです』
『よし、行くよ。では、オープン、ザ、』
『どしたの、ダ・ヴィンチちゃん?』
『ん? んー…………なんだろう?』
(騒がしい。いったいなんだ?)
 人がすぐ近くに三、四人、少し離れたところに十人、いや、もっとたくさんいるだろうか?
(どうする……)
 敵か味方かわからない。いや、自身の境遇から鑑みて、敵である可能性はあるが、味方の可能性は皆無だろう。
 ブシュ、という音とともに気圧が変わる。
 つん、と耳が痛くなり、眉間にシワを寄せた……、つもりだが、自分の身体を動かすことはできない。
 時空を超えるときと同じようなポッドに座っているが、少し後ろに傾いているようにも感じる。
(あの中は、いつまで経っても慣れなかったな……)
 そんなことを思っていると、隙間から人工の光が射し込んでいるのを感じた。
 少しすれば、ばくん、と勢いよく蓋が開く。
「あ……」
「え……?」
「おやおや……」
 耳に音が届いた。
 ずいぶん久しぶりに思うその感覚に、耳のあたりがゾワゾワとした。
 ――誰だ?
 口を動かしたつもりだが、ぴくりともせず、声にもならなかった。
 瞼は上がらない。だが、誰かが、いや、いくつもの目が自分を見ているのがわかる。
(ここは、いったい……、どこ、だ……?)
 耳鳴りがしてきて、ざわざわとさざめくような人の声がよく聞き取れない。
「とにもかくにも、ようこそ、カルデアへ」
 ひと際澄んだ声が発した言葉は、どうにか聞き取ることができた。
(カル……デア……?)
 聞いたことのない名だ。
(俺は、どこに、連れてこられたんだ……)
 意識が霞んでいく。
 慌ただしい人の気配がする。
(俺は……いったい、どこに……)
 そのまま闇に意識は沈んだ。



***

「すぐに医務室へ! ストレッチャー急いで!」
 慌ただしく動き出したカルデアのスタッフを後目に、エミヤは蓋を開けた物体に近づく。
「……衛宮……士郎…………」
 その物体の内部は、人一人が入れるようになっている何かの乗り物のようだ。一人掛けのシートに納まる衛宮士郎は、満身創痍のまま、ぴくり、とも動かない。意識はないようで、閉じた瞼は左だけ不自然に窪んでいた。
 あのとき、エミヤが最後に見た姿のままだった。
「こんな……」
 治療すら施されず、血を流したままでこの中に入れられ、彼はいったいどういう扱いを受けたのか、想像に難くない。
(これが、封印指定だというのか?)
 こんな扱いが、とエミヤは憤ってしまう。
 彼と最後に会ったときは、まさに、そういう状況だった。自由はなく、明日にも処刑かもしれないと士郎は淡々と説明していた。
 何がどうして、そういうことになったのかなど、エミヤには訊く間も余裕もなかったが、それが、こんな扱いに繋がるのであれば、やはり、魔術協会は人道的に問題のある組織だと思わざるを得ない。
 肩、脇腹、腕、脚、そして、左目。
 皮膚や衣服に血糊がこびり付き、傷だらけのようではあるが、その表情に苦しげだとか、痛そうだとか、そういうものは表れていない。
 それにしても、記憶通りの傷がいまだに生々しい。つい先ほどまで斬り合っていたように見える。
 それでも流血がおさまっているのは魔力のおかげなのか、傷は徐々にではあるが快方へと向かっているように見て取れる。
 どういう仕組みか、と、その大きくはない内部を見渡し、シートの脇を垣間見れば、そこには筋を引いた血痕があった。シートから流れ落ちた血がそのまま固まり、こびり付いている。
「っ……」
 舌打ちをこぼしはしなかったが、胸くそ悪さがわだかまる。
(あのまま、ここに? いや、また、時空を超えたのか? それとも、これは、また別の、衛宮士郎なのか?)
 別物である線はないとエミヤにはわかる。自身が斬りつけた箇所に傷がある。あの地下洞穴で斬り合った衛宮士郎に間違いない。
「…………」
 惨憺たる状態からどうにか目を逸らし、少し冷静さを引き戻した。疑問は尽きないものの、今は、とにかくここから士郎を出して適切な治療をしなければならない。
「エミヤ、引き出せるかい?」
 ダ・ヴィンチに訊かれ、
「問題ない」
 エミヤは頷き、すぐに物体の底面に足をかけ、乗り込んだ。そっと頭を起こし、左腕を通して肩を抱き、膝の裏へ右腕を差し込んで士郎の身体を持ち上げようとしたが、ぴん、と張った細い管に手を止める。
「待て、これは……」
 介添えに回ったスタッフを止め、ダ・ヴィンチを呼ぶ。
「なんだい? どうし――」
「これを……」
 エミヤが視線で示唆する。
「む……」
 黙り込んだダ・ヴィンチは眉根を寄せた。
 士郎の顔や腕、胴や脚に、先端が四角いシール状になった細い管が貼りついている。それが容易に外れないことにエミヤは手を止めたのだ。
 ダ・ヴィンチは険しい表情のままエミヤを見る。
「……一つ、取ってみてくれるかい?」
「ああ」
「そっとだよ」
 何か確信があるらしいダ・ヴィンチに頷き、エミヤが頬に張り付いたシールをめくれば、
「な……」
 長くはないが、細い針が四角いシールから突き出ている。一センチ角に十本ほどの針が取り付けられていて、剥がした途端に士郎の皮膚は血を滲ませた。
「これは……、どういったものなんだろうね……? 点滴でもない、何か、信号を送るような……」
 ブツブツと独り言をこぼしながら、細い管を辿って物体の内壁に辿り着いたダ・ヴィンチは、小さく嘆息した。
「何かわかったのか?」
「……おそらく、感覚を共有するものだと思うよ」
「感覚を、共有? いったい何と、」
「これだよ」
 ダ・ヴィンチの指すものは、この球形の物体。
 士郎が納まっている、今、エミヤが乗り上げている、カルデアのスタッフたちが解体しようとしている……。
「な……ん……」
「みんな、ストーップ!」
 ダ・ヴィンチが声を張り上げた。
「なに、ダ・ヴィンチちゃん? これ、片すんじゃないの?」
 解体作業を手伝っていた立香が訊けば、
「今はだめだよ」
 ピシャリと言い切ったダ・ヴィンチに、立香は首を捻りながらだが、素直に従った。
「みんな、この乗り物……、いや、ポッドとでも呼ぼうか、これに触れずに、離れて!」
 ダ・ヴィンチの厳しい口調とその表情に、みなすぐに手を止めて離れた。
「エミヤ、君も、」
 言われる前にエミヤは士郎の身体を元に戻し、ポッドを下りている。
「ダ・ヴィンチちゃん、どうしたの?」
 立香が不思議そうにして訊いた。
「このポッド、彼と繋がっているんだよ」
「え?」
「感覚を共有している可能性がある。あの管を外さないことには、解体作業はできない」
「え? もし、そのまま解体とかしたら?」
「彼はショック死するだろうね」
 青くなった立香に、ダ・ヴィンチは小さく笑む。