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LIMELIGHT ――白光に眩む2

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LIMELIGHT――白光に眩む 2


□■□4th Bright□■□

 壁を頼りにしてだが、士郎はずいぶん歩くことができるようになった。
 一度の直接供給と、毎夜のエミヤの添い寝で魔術回路の修復が進んでいるからだろう。
「それでも、まだ……」
 万全とは言えない。気を抜くと、蹴躓いて倒れ込みそうになる。油断はまだまだ禁物だった。
「ふー……」
 ようやく目的地まで来て、士郎は息を吐く。
「今日も白いな……」
 カルデアの唯一の窓。
 ガラス窓の向こうは、真っ白に塗り潰されている。
「ここから、空は見えるんだろうか……」
 窓枠に座り、冷たいガラスに身体を預けて瞼を下ろす。
 カルデアがあるのは雪山だと聞いていたが、実際のところ、雪山のどの辺りなのか。
 天辺なのか、中腹なのか、それとも裾野に近いのか。
「空が見られるんなら……」
 どこでもいい。また監禁状態でもかまわないと思う。
 人理の修復がなされて、世界が元に戻った時、士郎の運命は再び闇黒に舞い戻ることは決まっている。
(次は……、どこだろうな……)
 雪山の次は、火山だろうか、沙漠だろうか、それとも海溝なんてこともあるかもしれない。
 震えるのは、なぜか?
 その処遇が恐いと思うのは、どうしてか?
(俺は、受け入れなきゃいけないのに……)
 震える指先を潰したくて拳を握る。
「本当は……」
 どうなのだろう? と自問する。
 己は何を願っているのだろうと思いかけて、やめた。
 過去を変えた上に、何かを願うなどおこがましいと理解している。
「俺には……、与えられるものしか、もう……」
 士郎には受け入れることしか許されていない。そして、拒むことも逃げることもできないと知っている。
 恐がっている自分が情けないばかりだった。



 午後二時過ぎ。
 士郎はたいていこのくらいの時間にエミヤの部屋を出る。向かう先は食堂だ。
 朝、昼、夜。カルデアの食堂が稼動している時間帯はだいたい決まっている。その食事時を外して食堂に来るのは、カルデアのスタッフとエミヤを筆頭とした、数多のサーヴァントを避けるためだ。
 士郎はカルデアの関係者とは距離を取っている。どう接すればいいかわからない、という理由と、今後のことを考えて、馴れ合うことは得策ではないと思えるからだ。
 人理が修復されて、士郎が再び封印指定になった時、思うままにここで過ごしたとすれば、その時間が惜しくなることは目に見えている。
 過去の修正を終えた時と同じく、士郎はでき得る限りの関わりを持たずにいようと努めている。だからといって、邪険にすることや、無視すること、引きこもることはしない。そんなことをすれば、逆にここにいる者たちに迷惑がかかる。
 ただただ士郎は、自身の心を揺らさぬように努めているだけだ。それを表立って見せはしない。エミヤへの対応も同じだ。エミヤの部屋に厄介になっているというだけで、特別一緒にいる、ということでもない。時間をずらすということは、そういう意味でも役立っていた。
 身体の方はというと、包丁も持てないような状態からはずいぶんと動きが良くなり、士郎は自分で食事が作れるまでに回復した。同時に、エミヤには食事の世話を焼かせなくてよくなる。自分でできるからと断りを入れたのは、つい一週間ほど前だった。
 食事時の混雑がおさまり、エミヤが厨房の片づけを終えると、士郎は入れ違いに厨房に入る。
 “午後二時過ぎ”は、エミヤの仕事を取ることなく、邪魔にならないようにと考えてずらした時間帯でもあった。

 食堂に入れば、片づけを終えたエミヤが、ちらり、と士郎に目を向ける。
「借りるぞ」
 一応、ひと言、士郎は断りを入れている。
 エミヤとはいたって変わらない距離感だ。それについて、士郎は何を思うこともない。たとえ、エミヤの温もりが心地好いと知った今でも……。
(余計なことは……、考えない)
 その一念で、士郎は、カルデアの者たちが人理を修復するのを傍観している。
 また、立香と話すことも多くなった。立香に訊かれることには答えられる範囲で答え、邪険にすることはない。慣れ合うまではいかないが、立香が傷つかない程度の距離感で接するように気をつける。
 クー・フーリンに言われたことは、胆に銘じている。
 予防線は張らない。
 けれど、あまり近寄らせない。
 その微妙な塩梅を保つのは疲れるが、カルデアに置いてもらっている以上、立香をないがしろにすることは得策ではないと知っている。面倒でも疲れても、士郎は立香に心を砕いて向き合うようにしている。
 そして、エミヤに対しては、なかなか難しいが、心遣いは忘れないようにしている。避けるようなことはしてない。
 食事は自分で作ることと、エミヤがレイシフトに向かっている間は厨房を預かることをきちんと伝え、了解も取った。
 無理はせず、身体が辛い時は休むようにしている。エミヤが体調を気遣ってきたら、隠すことなく答えている。
(案外、淡々と過ごせているな、俺……)
 自分でも驚きながら、少し遅い昼食を作り、厨房で食べた。



 士郎が目覚めるころにエミヤは部屋を出ていき、士郎もすぐに身仕度を整え、カルデアの一階に向かう。そこで、ぼんやりと白いガラス窓を見て過ごし、食堂が朝食の時間を終えたころに厨房で軽く朝食を済まして、すぐにエミヤの部屋へ戻る。そのくらいの時間になれば、エミヤは昼食の準備のために厨房に入り、士郎とは入れ違いになる。その流れは夜も同じだ。
 淡々と繰り返される日々を続けていることには慣れてきた。士郎にとっては、地下牢にいるのも、カルデアにいるのもさして大きな違いはない。ただ、少しカルデアの方が不自由ではないだけだ。
 壁伝いに食堂の出入り口を入れば、今日は、何やら賑やかだった。
 いつもは人気がない時間帯だというのに、どうしたのだろうか。
(人……、いや、サーヴァントが、まだいる……)
 すぐに踵を返したものの、
「あ! 士郎さん!」
 立香に見つかってしまった。振り返れば、手招きしている。
 仕方なく食堂に入り、駆け寄ってきた立香へ歩み寄る。
「今からお昼ご飯食べるんでしょ? 一緒に食べようよ。おれは今からおやつにしようかなーって思って、食べるところー」
「あー……っと……」
 どう断ろうか、と士郎は思案するものの、立香の、断られることなど全く予想もしていない笑顔に、小さく嘆息して頷いた。
「今日は、えらく賑やかだな」
「うん。ちょっと、ね」
 側の椅子に腰かけ、立香はエミヤが用意していただろうシフォンケーキをつつきながら答える。
「ちょっと?」
「うん。新しいサーヴァントを迎えたんだ。やっと来てくれたんだよ」
「やっと?」
「うん! レアなサーヴァントだよ!」
「…………サーヴァントにレアとか、そういうのがあるのか?」
「うん、残念ながら、ね。おれはレアとかそうじゃないとか、関係ないと思ってるよ。一緒に戦ってくれるサーヴァントは、どんな人だってうれしい。けどさ、カルデアで召喚して維持できるサーヴァントは、無尽蔵じゃないし、魔力にも限りがあるし……。それに、ランクみたいなのもあってさ……」