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ただし少女はレベル0.031 依童

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ホテルの一室で儀式が始まった。
大雅は白い着物と白い袴、みずはに白い布で目隠しされて太鼓の前に座る。
市子は白い着物に緋袴。
向かい合って座り、互いに一礼した。

みずちが太鼓を叩き、みずはが神楽鈴を振る。
単調なリズムが眠りを誘って…
「寝てはならん」
隣に座る史郎坊が私の頬を軽くつねった。
「霊媒を催眠状態にするためのものじゃ」
「霊媒」
大雅のことだ。
市子が大雅に、このホテルに憑いた悪霊を降ろす。

市子はゆっくりとお経を唱えだした。
聞いていると気が遠くなりそう。
「声明じゃ。耳に優しゅうてよう眠れそうじゃろ?」
「私は寝ちゃだめなんだよね?」
「気をしっかり持て」
「私、夕べほぼ徹夜だったんだけど」
絶望的だ。
後頭部がゆったりと痛くなる。
睡眠物質が脳に回り始めた。
史郎坊がもう一度頬をつねってくれるけれど、もう無理。
私はがくりと睡魔に身をゆだねた。

「嬢ちゃん!」
史郎坊の声が遠くで聞こえた。


...................



「嬢ちゃん!」
がくりとうなだれた芹香がゆっくりと顔を上げた。
空ろな表情。
「…嬢ちゃん?」
「あたし…たなか…ゆりこ…ごさい」
芹香の声ではない。
甘ったるい幼女の声だった。

しまった。
大雅が優秀な霊媒ゆえ油断していた。
まさか芹香の方に憑依するとは。
「芹香嬢から出て行け!」
まだ間に合うはず。
芹香を揺さぶる手を市子が止めた。

「タナカユリコ。お前がこの辺りの悪霊の頭領か」
「宮!」
史郎坊が芹香を抱きしめて叫ぶ。
「少しの間なら大丈夫だ。芹香には本来見鬼の才がないから、深く憑く事は出来ないだろう」
「しかし!」
「とうりょう…? いちばん…えらいのは…たい…さん」
悪霊は芹香の口を借りて、大尉とやらの企みを訥々と話し始めた。
その声が徐々に怒りと恨みで上擦り…

「宮、そろそろ限界では」
史郎坊の声をさえぎって芹香が叫んだ。
「みんなしんじゃえばいいんだ!あたしみたいに!」
芹香はげらげら笑いながら、市子に掴みかかろうと腕を伸ばした。
抱きかかえていた史郎坊が市子から引き離して、畳に押さえつける。
「はなして!みんなしんじゃえ!」
「待て雀!サブレもじゃ!」
史郎坊は銃を構える雀と、矢をつがえたサブレを制した。
「そなたらは宮を頼む。大雅も部屋から出せ。そちらに移る危険がある」
皆が部屋を出て行くのを確認してから、史郎坊は芹香に跨って起き上がり、煙管を取り出した。
煙草入れも取り出して、ゆっくりと煙管に詰める。
「霊媒は酒で彼岸に渡り、煙草の煙で此岸に帰る」
足の下で芹香が暴れているが、気にせずに煙管を深く吸った。

本来、史郎坊に現実に干渉する力はない。
人を押さえつける事など出来ないはず。
史郎坊が市子を連れて飛べるのは、市子が史郎坊を使役しているから。
史郎坊が芹香を抱いて跳べるのは、芹香が史郎坊に身をゆだねているからだ。
芹香が史郎坊に支配されたいと望んでいるから。
それは悪霊に憑依された今さえも。

史郎坊は芹香の顎を掴んで、叫び続ける彼女の口を己の口で塞いだ。
喉の奥に煙草の煙を吹き込む。
飯綱権現由来の煙草はただの煙草ではなく、木の皮を焼いた甘い香りがする。

芹香は激しく咳き込んで、不意に動かなくなった。


................




目を開けると、見知らぬ天井だった。
そうだ、今日はホテルに泊まって…大尉さんが。
私は飛び起きた。
激しい頭痛に襲われて、枕の上に倒れる。
「頭が痛むか」
心配そうな声。
再び目を開けると、史郎坊が私を覗き込んでいた。

「私…?」
「すまなんだ。どんな理由があろうとも、嬢ちゃんを同席させるべきではなかった」
「何があったの?」
「悪霊が大雅ではなく嬢ちゃんに降りてしもうた。すぐ追い出して大事にはいたらんだが…どこまで覚えておる」
「…大尉さんがここにいろって…後はわかんない」
「そうか。怖かったじゃろう。可哀想に」
「わかんないけど…史郎坊さんの匂いがする」
私の体の中から。
私は両手で口を覆った。
なんだかわからないけど、私の体の中が史郎坊の匂いで一杯になって…なんだか…
私は史郎坊にしがみついた。
体がザワザワして、しがみついていないと心臓が破裂してしまいそうで。

「悪霊を追い出すのに煙草の煙を使うたでな。苦しいか。もう少し寝ておれ」
史郎坊が私の背中を撫でてくれた。

史郎坊の匂いは煙草の匂い。
普通の煙草じゃなくて、木の皮が燃える甘い香り。
私は居ても立ってもいられなくて、史郎坊の背に手を回してぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「人体に害はないんじゃが…少し酔うてしまう事もある」
史郎坊がつぶやいた。
これって酔っているのだろうか。
寂しくて、すごく寂しくて。
ぴったりくっついているのに、もっと傍に行きたくて。

史郎坊は私を抱いたまま、布団の上に横になった。
間近に史郎坊の顔。
「霊障は軽いはずじゃ。もうしばらく眠れば治るじゃろう」
「行かないで」
私は必死に史郎坊にしがみついた。
「どこにも行きはせん」
史郎坊はしっかりと抱きしめてくれた。

口の中いっぱいに史郎坊の匂い。
教えて。
あれは、夢?

そんなこと聞ける訳も無くて。
「史郎坊さん」
ようやく搾り出した声は思ったよりもかすれていた。
途端に史郎坊の腕の力が強くなった。
ぎりぎりと締め上げられて、胸が苦しいくらい。
これって。



end