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鳥籠の番(つがい) 7

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鳥籠の番 7



ブライトとカミーユが艦橋に上がると、モニターにネオ・ジオンの女性士官が映っていた。
「お待たせしました。地球連邦軍 外郭新興部隊ロンド・ベル ラー・カイラム艦長 ブライト・ノアです」
《私はネオ・ジオンのニュータイプ研究所で所長をしております、ナナイ・ミゲルと申します》
ニュータイプ研究所と言う言葉に、ブライトの眉がピクリと上がる。
《先日、そちらに捕虜として囚われました、アムロ・レイ大尉の件でご連絡しました》
「アムロは元々連邦の軍人だが?」
《ええ、そうでしたね。しかし数年前にシャイアン基地を脱走したアムロ・レイが脱走罪で連邦に拘束されていたのを我々が“保護”し、現在は我々の組織に所属しております》
「保護?」
《ええ、その辺りはブライト艦長の方がお詳しいのでは?》
「っ!」
ブライトは言葉に詰まり、顔を顰める。
《先ずはアムロ・レイ大尉の状況について確認をしたいのですが、銃による傷と落馬による怪我は大丈夫ですか?》
淡々としながらも、アムロを心配する思惟がナナイから伝わってきて、カミーユはこの人には教えても良いと、ブライトに頷いて合図を送る。
「銃の傷は掠っただけでしたので大した事はありません。落馬による怪我も、打ち身はありますが、心配していた頭部の怪我や骨折などもありませんでした。現在は歩行も出来ています」
《…そうですか…》
ホッとした表情を浮かべるナナイに、ブライトはアムロがネオ・ジオンでそれなりに大切に扱われていたのだと知り、少し安堵する。
「それで、アムロをどうするつもりですか?」
《早急に解放して頂きたいのです》
「そう簡単に解放する訳にはいきません。彼にはまだ聞くことがある」
《彼は決して何も話しません。尋問するだけ無駄です》
「何故そう言い切れる?」
《彼は“そう”マインドコントロールされています》
「マインドコントロール?」
その言葉に艦橋のクルーが騒つく。
《誤解しないで下さい。我々が保護した時には既に連邦のニュータイプ研究所で処置を受けた後でした》
「…!」
カイの情報通り、アムロは連邦のニュータイプ研究所で処置を受けていたと知り、ブライトは唇を噛み締める。
《その様子では、アムロ・レイについてある程度の情報は得ているようですね》
ブライトの様子に、ナナイはブライトがアムロの事をおおよそ把握していると確信する。
「それとアムロの解放とは話が別だ」
《別ではありません。お気付きかと思いますが、アムロ・レイはシャア・アズナブルをマスターとする処置を受けております。その為、長時間マスターから引き離されると精神的に不安定になります。また、記憶操作で過去の事は覚えていませんが、もし万が一記憶が戻るような事があった場合も、精神に異常をきたす恐れがあります》
「しかし、アムロを解放すれば、こちらの戦況が不利になる」
前回の戦闘で、アムロのパイロットとしての技量を改めて見せ付けられた。
味方である時はあんなにも心強かったが、敵となれば最大の脅威となる。
《では、取引をしましょう》
「取引?」
《はい、アムロ・レイを解放して頂けるならば、そちらの欲しい情報を一つ提供しましょう》
「情報を?」
《はい。如何ですか?》
ブライトは副官のトゥースとカミーユに視線を送り、どうすべきか思案する。
「…少し…時間を頂けますか?」
《分かりました。それでは明日、またご連絡致します》
そう言うと、ナナイは通信を終了させた。
真っ暗になったモニターを見て、ブライトが大きく息を吐く。
「艦長!どうするんですか!?まさかアムロさんを解放するつもりですか!」
カミーユの問いに、ブライトは顎に指を当てて考え込む。
「……」
出来ることならばアムロをこのまま保護したい。しかし、ナナイの言う通り、マスターであるシャアと引き離す事で、アムロの精神状態が不安定になると思うと迷いが生じる。
それに、今後のネオ・ジオンの動向についての情報を得る事が出来れば、最悪の事態を回避できるかもしれない。
「アムロと話がしたい。結論はそれからだ」
ブライトはそう告げると、尋問室へ向かった。



「先程、ネオ・ジオンのナナイ・ミゲルという女性士官から通信が入った」
ブライトはアムロの向かい側の椅子に座り、真っ直ぐとアムロを見据える。
「ナナイ大尉から!?」
今までずっと黙秘を続けていたアムロが、ナナイの名前に反応して口を開く。
「ああ、お前を解放しろと言ってきた」
「俺を解放?それよりも、大佐は無事なのか?」
「大佐?」
「シャア・アズナブル大佐だ」
身体を前のめりにして、必死に聞いてくるアムロに、複雑な想いが込み上げる。
「さぁな。ナナイ大尉は何も言っていなかった。しかし、今回の通信はシャアの指示だろう」
情報を提供するなど、そんな権限は総帥であるシャアにしかないだろう。
「そうか…」
アムロはホッとした表情を浮かべ、椅子へと座り込む。
「お前が…シャアから離れると精神が不安定になると言うのは本当か?」
「ナナイ大尉が言ったのか?」
「ああ」
「……そうだな…確かに…不安定には…なるかもしれない…」
アムロは手錠で繋がれた手をギュッと握り、無意識に身体の震えを抑えていた。
おそらく既に症状は出ているのだろう。
どこか落ち着かない様子のアムロに、ブライトが眉をひそめる。
「過去の記憶が無いそうだが、どの辺りから覚えている?」
「え…?」
アムロは顔を上げてブライト見た後、視線を彷徨わせながら記憶を辿る。
「…多分…始めは連邦の研究所にいたと思う…意識が朦朧としていたからよく覚えていないが…気付いたらネオ・ジオンの研究所にいた」
「そこでシャアをマスターとすると処置を受けたのか?」
「…処置?…よく分からない…でも…大佐の命令は絶対だ…俺は…大佐の為に生きている…」
そう呟くアムロの瞳はどこかガラス玉のようで、そこにアムロ本人の意思があるとは思えなかった。
そんなアムロを見つめ、ブライトは溜め息を吐く。
「シャアの元に帰りたいか?」
ブライトの言葉にアムロが思い切り顔を上げる。
「…帰りたい…!あの人の…そばに居たい…」
縋るようにブライトを見つめるアムロに、ブライトは少し驚きながら顔を顰める。
本来の“アムロ”からそんな言葉が出るとは思えない。グリプス戦役時に共闘していたとは言え、二人には何処か一線を引いた所があった。
過去にあれだけの戦いを繰り広げたのだ、そう簡単に割り切れるものでは無い。
だから、こんな風にシャアに依存する姿が信じられない。
マインドコントロールによって、ここまで人格は変えられてしまうのかと驚愕すると共に、グリプス戦役時のロザミア・バダムの事を思い出す。
彼女もまた、マインドコントロールによって記憶を操作され、カミーユを兄と思わされていた。
よもや、かつての戦友であるアムロがそんな状態になるとは思ってもおらず、ブライトは更に大きな溜め息を吐く。
「分かった。しかし、そう簡単にお前をネオ・ジオンに返す訳にはいかない。明日、ナナイ大尉と交渉をする」
「……」
捕虜となった自分が、そう簡単に解放されるとは、アムロとて思ってはいない。
作品名:鳥籠の番(つがい) 7 作家名:koyuho