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LIMELIGHT ――白光に眩む7

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LIMELIGHT――白光に眩む 7


□■□Interlude LOST□■□

 コンクリートと雪の上を、ヨロヨロと歩く。
 誰にも気づかれないことを祈る。
 俺の身体を乗っ取ろうとする魔神柱は、カルデアを潰すと言った。だけど、まだ、完全に身体の自由を奪われたわけじゃない。なら、早くここから離れないと……。
 身体はどんどん重くなる。
 魔神柱は、カルデアから遠ざかることを拒んでいるわけだから、遅々として進んでいる気がしないけど、この足を止めるわけにはいかない。
(潰すって言っても……、こいつは、カルデアのどこに向かうつもりでいるんだ……?)
 疑問を浮かべたものの、少し考えれば答えは出た。
(藤丸の、ところ……か……)
 “潰す”ってのは、建物の破壊とか、そういう物を壊すんじゃなく、こいつが言うのは、カルデアの機能の破壊。ということは、カルデアのサーヴァントの要である藤丸を狙うはず。
 それに、魔神柱は藤丸を怨んでいる。だから、まずはそこへ行くはずだ。
(藤丸を殺すのか?)
『すぐに殺しはしない』
 耳が声を拾う。
 さっきまでは頭に響いていたのに、今は音として、きちんと耳に届く。あたりには誰もいない。見えてはいないけど、気配を感じない。ということは、俺がその言葉を発したということ、だけど……、俺に答えた声は、明らかに俺のものとは違う。
 唇が動いたのに、この身体の喉を空気が通ったのに、俺の声じゃない……。
『まずは、そうだな。マシュと同じくデミ・サーヴァントのような存在だな』
 デミ……サーヴァント……。そんなものになって、どうするっていうんだ……。
『いや、デミ・魔神柱か。人間のお前が私の殻となり、私がお前の核となる。そうして、じっくりとカルデアのマスターを縊っていこう。くくくくく……』
 笑えない。
 全然面白くない。
 冗談じゃない。
『お前は私と融合するのだ。仲良くしよう』
 ふざけるな。
 できるわけがない。
 バカも休み休み言え。
『冗談でも、おふざけでもない。お前の身体は私の媒体。ここに現界するための、な』
(やめろ……)
 これ以上、アイツに迷惑を――、
『うまく立ち回ってやろう。あの弓兵が欲しいのだろう?』
(…………違う)
『嘘をつかなくていいぞ、相棒』
(嘘じゃない)
『強がりを』
(強がっていない)
『嘘をつくな。お前は望んでいる。あのエミヤというサーヴァントが欲しくてたまらない、そうだろう?』
(違う!)
『娼婦のように腰を振ってねだっていたというのに、違うわけがないだろう』
(ちが……)
 反論のしようがない。俺は、アーチャーが欲しかった。俺が衛宮士郎であるために、アーチャーに憎悪を向けてもらわないと、って……。
 だけど、俺は……、アーチャーに憎まれることが、苦しくて……、アイツの優しさが、嬉しくて……、抱かれることが気持ち好くて、癖になりそうで、だけど、それを知られるのが恐くて……。
 アイツが抱いてくれるから、勘違いしそうになって、甘えてしまいそうになるのを、必死で我慢して……。
(ああ、俺……、ここに来てから、アイツのことばっかり……)
 俺は、いつの間にアーチャーのことが、こんなにも…………、好きになんて……、なっていたんだろう……。
 膝をついてしまった。
『そろそろ戻るぞ』
 嫌だ。
 立ち上がるもんか。こいつの思惑通りにはならない。
 身体が勝手に向きを変えようとする。抵抗しようとするのに、うまくいかない。四つ這いでも戻ろうとするから、勝手に俺の身体を使おうとするから、頭から倒れてやった。
「っづ……」
『何をする!』
(お前の手に落ちるくらいなら、こんな身体、使えなくしてやる!)
 すぐに身体を起こして、再度、地面に額を落とす。
『貴様!』
 眩暈に襲われながら、三度、額を地面に落とした。
 ぬるい液体が額から流れてくる。ぐらぐらして、ガンガンして……。
「っ……づ……ぅ……」
『どうした、もう終わりか? 人間など所詮その程度。本気で自身を傷つけることなどできないのだ』
「う……ぐ……」
 吐き気がする。
 頭が痛い。
 コイツの言う通りだ。これ以上は無理だ。刃物でも持ってこないと、埒があかない。
『諦めがついたか? では、戻ろうか』
(やめろ!)
 これ以上、アイツに、
「衛宮士郎?」
 ハッとする。
 その声に安心しながら、とてもじゃないけど合わせる顔がない。
「おい? 衛宮士郎?」
 窺うようにかけられる声に、恐る恐る振り向いた。
 よく見えないけど、黒い装甲と赤い外套が、ぼんやりとだけど、あるように思う。
「ぁ…………」
 言葉にならない。何をどう説明すればいいのか。
 いや、そんなことよりも、アーチャーがいるのに、よく見えない。見たいのに、最後にひと目と思うのに……。
「何をし、お、おい! 何をしている!」
 アーチャーが頬に触れたみたいで、痛みに身体が跳ねた。
 たぶん、コンクリートに頭をぶつけようとして頬も当ててしまったんだろう。
「……っ、…………っ……」
 唇が震えるだけで、声に出せない。
(魔神柱がいるんだ、俺の中に。だから、今すぐ俺を消してくれないと、藤丸が、カルデアが……)
 必死に言葉にしようと思うのに、声の出し方を忘れてしまったように音にならない。
『なんでもない。転んだだけだ』
 なのに、魔神柱はあっさりと俺の声を出した。
「そう……なのか?」
(おい、なに勝手なこと話してるんだ!)
『心配性だな、お前』
 魔神柱が俺の声を真似て、俺のフリして……、アーチャーと会話をしている……。
 違う、アーチャー。これは、俺じゃないんだ。魔神柱だ、カルデアにいてはダメな奴なんだ。だから……。
『厨房に行こう。飯の支度があるだろう?』
「何を言っている! 血が出ているのだぞ! すぐに手当てを、」
『平気だよ』
「いや、だが、」
 額を拭い、立ち上がって、アーチャーになんでもないとアピールしている。
 確かに、もう血が止まっている。さっきまでズキズキしていた痛みが消えた。こいつ、傷を塞いだんだ。
『そういえば、藤丸は?』
「あ、ああ、マスターは食堂にいる。マシュやサーヴァントの数人と話し込んでいたからな」
『そうか。なら、早く行こう』
「あ、ああ」
 ダメだ、アーチャー!
「っ、ダメだッ!」
 やっと声が出た。
 左手で、アーチャーの腕を掴むこともできた。
「っ……」
「衛宮士郎? どうした?」
「ダメ、だ……」
「何がだ? やはり、傷の、」
『ちっ……。左目か……』
 また、身体を動かせなくなった。せっかく掴んだアーチャーの腕を放してしまう。
「衛宮士郎? なんだ、いったい? 様子がおかしいぞ?」
『なんでもな――』
「アーチャー! すぐに俺を消せッ!」
「は? 何を言って――」
『いい加減にしろ!』
 なぜだろう?
 俺の手が、俺のろくに見えもしない左目を抉り出してしまった。



■□■19th Bright■□■

「な……」
 エミヤは、呆然と赤い飛沫を見ていた。
 体液と血液と細い筋が球体とともに眼窩から抉り出され、飛んでいったものを目で追う。
(眼……球?)
 咄嗟に身体が動いていた。