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日常ワンカット

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裁きの館編


第一獄。裁きの館。別名ルネハウス。ルネはその日は非番だったので、私室にこもって昼寝をしていた。
ここ数日洒落にならない程多忙な生活を送っており、眠っている時間がほとんどなかったのだ。
ミーノスの代理というと聞こえはいいが、その実態は上司のさぼりのフォローである。
生真面目なルネは仕事と上司に対するストレスで、健康を損なう寸前であった。

「なんだ、ルネは寝てるのか?」
ルネが休みと知ったバレンタインは手土産持参でルネハウスを訪れたが、ルネの部下のマルキーノにやんわりと面会を断られた。
ただいまルネは自室で睡眠中であり、ミーノスの来訪でもない限り取り次げないそうだ。
「…ここのところ、ルネ様はまともに睡眠をとっておられず、お身体の調子も崩され気味で…」
そう語るマルキーノの目は潤んでいる。
ハードとしか言い様がない最近の仕事っぷりを、一番間近で見ている所為であろう。ルネ様お労しや、と涙を拭う。
バレンタインは仕方ないなと小さく溜め息を付くと、手土産の紙袋をマルキーノに渡し踵を返した。
怪訝そうな顔をするマルキーノ。
「これは?」
黒地に金のロゴが入ったなかなか洒落たデザインの紙袋であるが、ほのかに甘い匂いがする。
「チョコレートプリン。疲れた時には、甘いものがいいのでな」
ほんのわずかに笑ってみせたバレンタインは、後ろを振り返らずに独身寮のあるカイーナへ戻った。
疲れている人間の枕元を騒がす程、彼は優しさのない人間ではない。

マルキーノは紙袋を抱えると、裁きの館の一角にあるルネの私室のドアを叩いた。
「誰ですか?」
耳に心地よい静かな声が、マホガニーのドアの向こうから問う。
「マルキーノでございます」
「お入りなさい」
重厚な扉を開くと、ナイトウェア姿のルネがベッドから半身を起こしてマルキーノを待っていた。
先程まで睡眠を取っていたようで、心無しか顔色がよい。
「ルネ様、お体の方は?」
「大事ありません。それよりも、何か用ですか」
「ええ、今し方バレンタイン様がいらっしゃいまして……これを」
ルネのベッドサイドのテーブルに、チョコレートプリンの紙袋をちょこんと置く。
ルネは紙袋から同僚の土産を察したらしく、マルキーノには気付かれない程度に笑った。
この店のチョコレートプリンはルネの大好物であるが、多忙な身分であるためなかなか買いに行けないのである。
「なかなかアジな真似をしますね……」
「何が…ですか?」
マルキーノは袋の中身がわからないから、きょとんとした顔でルネの顔を眺めている。
だがマルキーノから見ると、ルネは何の表情も浮かべていない。マルキーノはルネのその顔が嫌で仕方なかった。
真顔のルネからバルロンの鞭を受け、切り刻まれた過去があるから。
ルネはマルキーノがわずかに身体を強張らせているのに気付き、やや顔つきを和らげる。
「マルキーノ、今日は下がってよろしい。私はまた休みますので」
声に弾かれたようにマルキーノは一礼すると、そそくさと部屋から退出した。
ドアの閉じる乾いた音を確認したルネは、顔を笑み綻ばせると紙袋の封を開ける。
中にはガラス容器に入ったチョコレートプリンが、二つ。
ルネの白い頬が少年のように紅潮している。こんな顔、とてもマルキーノには見せられない。
袋からプリンを取り出すと、幸せな芳香を確認する。カカオの苦さと、バニラエッセンスの甘い香り。
紛れもなくチョコレートプリンだ。
「いただきます」
スプーンを持つ手が、震えた。わずかな量を掬い、静かに口に運ぶ。
久し振りに味わうチョコレートプリンは、例え様もなくうまかった。
作品名:日常ワンカット 作家名:あまみ