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Paper Cuts 【番外編】

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Paper Cuts 【番外編】


Paper Cuts ラストの続きです。

「兄さん‼︎一体貴方は何を考えているの⁉︎」
アムロの病室にセイラの怒声が響き渡る。
漸く目覚めたアムロを前に、欲を出した所為でアムロの傷が悪化してしまったのだ。
「すまない…」
肩を落として反省するシャアに、セイラの怒りはまだ収まらない。
「アムロには安静が必要だと言ったでしょう⁉︎暫く兄さんは面会禁止よ!」
「アルテイシア!それは勘弁してくれ!」
「お黙りなさい!」
「セ、セイラさん、俺からもそれは…」
「アムロ!貴方も兄さんを甘やかさない!」
「は、はい!すみません」
セイラの勢いに、アムロも思わす「はい」と答え、頭を下げる。
「ああ!もうっ!信じられないわ!」
少し二人だけにしてあげようと気を遣ったつもりが、欲望に駆られた兄の行動でアムロの傷が悪化してしまった。
漸く回復してきたと喜んだ矢先の出来事に、セイラはショックと怒りが抑えられなかった。
と、そこにドアを控えめにノックする音がする。
振り向けば、ドアの隙間から子供が顔を覗かせていた。
「ああ、アッシュ!ごめんなさい。待たせてしまったわね。良いわよ、入っていらっしゃい」
セイラに促され、病室に入ってきた男の子は、アムロの笑顔が目に入った途端、走り出した。
「アムロ!」
そんな子供をアムロも自由の利く手を広げて迎え入れる。
「アッシュ」
「アムロ!」
「あ!お待ちなさい、アッシュ」
セイラが引き留めるのも聞かず、そのままの勢いで子供はアムロに飛びついた。
「アッシュ…と、痛ったたたた」
勢いよく抱きついてしまった為、傷に響いて思わずアムロが悲鳴を上げる。
「わあぁ!ごめんなさい」
驚いてアムロから飛び退く子供に、セイラが思わず額に手を当て溜め息を漏らす。
「ああ…、この親子はまったく…」
セイラに視線を向けられたシャアは、気まずさに思わず「すまない」と呟く。
「アムロ、ごめん!痛かった⁉︎」
「ははは、大丈夫だよ。アッシュ」
「でも…」
涙目になる子供の、柔らかな金髪をアムロが優しく撫ぜる。
「それよりも、もっと顔をちゃんと見せてくれよ」
「うん…」
アムロはそっと子供の頬に手を寄せ、優しく微笑む。
「ちょっと見ない間に、また大きくなったな」
「ふふ、でしょう?」
頬に触れるアムロの手を、小さな両手が包み込む。
今年七歳になった子供は、一般的な子供に比べれば小柄で、病弱ではあるが心配された障害も無く元気に育っていた。
「元気そうで良かった…。ごめんな、全然逢いに行けなくて…」
「ううん、アムロが絶対に迎えに来てくれるって言ってくれたから、ちょっと不安だったけど待てたよ!」
「そうか…」
笑顔を浮かべるアムロの瞳から、涙がハラリと零れ落ちる。
「アムロ…」
「ははは、なんか安心したら…泣けてきた…」
そんなアムロを見つめる子供の琥珀色の瞳からも涙が溢れる。
「アムロぉ」
「アッシュ…」
しがみつく子供の頭を抱き寄せ、アムロはその柔らかな髪に頬を埋める。
暫くそうした後、アッシュの金髪を梳きながら、アムロがふふっと笑う。
「お前の髪…父親と一緒だな。キラキラしてて、柔らかい…」
チラリとアムロがシャアに視線を向けると、シャアがベットへと近付き、同じようにアッシュの髪を撫ぜる。
「そうだな…しかし、瞳は君と同じ琥珀色だ」
二人から優しく撫でられ、アッシュがシャアへと視線を向ける。
「アムロ、この人が…僕のお父さんなんだよね?」
アッシュの問いに、アムロがコクリと頷く。
「ああ、そうだよ。俺が寝てる間、二人で話したりはしなかったのか?」
アムロが眠り続けていた一ヶ月、おそらく顔を合わせていただろう二人に問えば、アッシュが「うーん」と首を捻る。
「あれ?時間はいっぱいあったろ?」
思わずシャアを見上げれば、こちらも微妙な表情。
「シャア?」
「いや、お互い解ってはいたのだが、どう切り出せばいいのか分からなくてな…」
「何だよそれ」
同じ様な表情を浮かべ、アムロを見つめる二人に、思わず笑いが込み上げる。
「あははは!似た者親子!」
「アムロ…」
「見た目はどっちかって言うと俺に似てるけど、性格は貴方そっくりだな」
「ふふ、本当ね」
セイラもそれに同意する。
アムロの言葉に、シャアとアッシュが同時に複雑な表情を浮かべる。
そんな二人に、セイラとアムロは更に笑いが込み上げる。
「ふふふ」
「あははは…っと痛たたた」
「ああ、ほら。アムロそんなに笑ってはダメよ」
「うう…すみません…」
「さぁ、これ以上はアムロの身体に障るから、続きはまた明日ね。アムロもまだまだ安静にしていないと」
セイラに促され、シャアとアッシュが病室を出て行く。
それを見送り、一人になった病室でアムロは小さく息を吐いた。
「なんとか…上手く収まった…のかな…?」
シャアが起こした叛乱、想定外に降下を始めてしまったアクシズ後方部の落下回避、そしてアッシュの救出。
窓から差し込む穏やかな陽射しに目を細め、アムロはホッとした表情を浮かべてシーツに背を預ける。
「流石に…疲れたな…」
シャアの元にスパイとして入り込み、シャアの番いとなった。
その後は連邦に戻り、シャアと連携を取りつつもロンド・ベルをまとめ上げ、戦いに臨んだ。
その間、何度かニュータイプ研究所に足を運んでアッシュとは面会出来ていたが、最後に宇宙に上がってから半年程は会えていなかった。
「この半年で…また大きくなってたな…、よくここまで育ってくれた…」
超未熟児で生まれたアッシュ。
双子の片割れは死産であったが、アッシュはなんとか命を繋いでくれた。
生まれてからずっと、研究対象として、そしてアムロに対する人質として研究所の中で育った。
身体があまり丈夫でなかった事と、アムロの連邦への交渉によって、アムロが受けた様な人体実験は受けなかったが、そこから出る事は出来なかった。
全てが終わり、今ようやく鳥籠から抜け出して共にいる事が出来るようになった。
「…やっと…」
アムロの瞳から涙が零れ落ちる。


「…アムロ…?」
不意に声を掛けられて視線を向ければ、心配気な表情を浮かべたアッシュが扉の隙間から顔を覗かせていた。
「アッシュ…」
「えっと…ごめん。アムロが泣いてる気がして…こっそり戻って来ちゃった…」
セイラに黙って来たのだろう。アッシュがすまなそうにアムロを見つめる。
「良いよ、おいで」
手を伸ばして呼び寄せれば、アッシュが嬉しそうにアムロに駆け寄る。
「アムロ!」
そして、頬を流れるアムロの涙をそっと指で拭う。
「痛いの?」
「違うよ…、なんて言うか…嬉しくて…また泣けてきたんだ…」
「嬉しい?」
「ああ、ようやくお前とこうして一緒にいられるんだなぁって思ったら嬉しくてさ」
優しくアッシュの髪を撫で、アムロが微笑む。
「うん!僕も嬉しい」
「まずは早く怪我を治さないとな。どうしたらどこかに家を借りて一緒に住もう」
「うん」
「そういえば、お前は今どこで寝泊まりしてるんだ?」
「セイラさんのお家だよ」
「え?シャアじゃないのか?」
作品名:Paper Cuts 【番外編】 作家名:koyuho