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彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ

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 彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ


 果てのない荒野を独り――ノリコが歩いている。
 何度も辺りを見回し、その瞳に涙を溜め、必死に……たった一人の人の姿を追い求め、その名を呼んで……

    イザーク……

    イザーク どこ?

 求めても返されない声。
 彼女の不安は、焦燥は、募るばかり……

    寄るな! ノリコ!!

 不意に返された声は、強く、拒絶するかのような言葉。

    おれを見るな!

 確かにイザークの声なのに、その姿は瞬く間に変容してゆく。

    見るな!

 悲痛な声……懇願するかのような叫び。

    見るなっ!!

 異形の姿――痛々しく、禍々しく……
 けれど…………

    ああ 違う!!

    違うよ イザーク

 ノリコは変容したイザークの姿を、涙を溜めながらも見詰め、思う。

    姿がどうでも

    人でなくても

    あたしにとってあなたが――

    あなたがあなたであることに変わりはないの……

 『姿形』など――それは、ノリコにとって些末なこと……

    だから お願い

    帰って来て

 ただ、それだけを願っていた。

    あの日の出会いから ずっと

    その気持ちに触れて……

    その想いに魅かれて……

    あたしはこんなにも……

    あなたのことが好きになってる

 求めても、捜しても、彷徨い続けても――一人の人から差し伸べられる手はない……
 ただその人の、その姿を、声を、手を、求めているのに……
 応えてくれる――応えて欲しい人は……イザークは……

   ***************

 夜――焚火の炎に照らされ、か細い腕が彷徨いながら、何かを捜し求めるように、空に差し伸べられてゆく。
 もう少しで力尽き、落ちて行きそうになるその手を、スッと優しく、大きく力強い手の平で、誰かが受け留めている――ノリコの手を。

 柔らかく、けれどもしっかりと受け留められた手。
 ノリコはその温もりに、ゆっくりと瞼を開いた。
 夢から覚めたばかりで、まだ、ぼんやりとしている瞳に映ったのは――求めていた人……イザークの姿。
 少し、心配そうな瞳を見せる彼を、ノリコは夢から覚め切らぬまま、見詰めていた。


 薪の爆ぜる音が、聴こえる。
 見回せば、辺りを柔らかく照らす炎の周りで眠る、皆の姿が見える。
「イ……ザーク……」
 夢か現か、判然としない中、ノリコは確かめるように、その名を呼んでいた。
 彼女に応えるように、優しく温かな笑みを見せるイザーク。
 大丈夫――そう思ったのだろうか、彼は受け留めていたノリコの手を、スッ――と、離した。

 ――あっ……

 離れてゆくその手に、ドキッとする。
 夢の光景が――荒野で一人彷徨い、イザークを捜し続けた光景が蘇り、ノリコは思わず、離れてゆく彼のその服の袖口を、掴んでいた。
「だめっ」
 ぐっ……と、力を籠める。
「いたっ」
 途端に、痛みが奔る。
 イザークは一瞬の痛みに顔を歪めるノリコを見て、辛そうに瞳を曇らせた。
「あまり動くな、あんたはケガをしているんだ」
 痛みを感じても尚、袖口を離そうとしないノリコの手を優しく抑えながら、イザークは小さく声を掛けた。

 ――ケガ……?

 未だ、夢現の中に居るのか、ノリコはどうして怪我をしたのか思い返せないらしく、怪訝そうな顔を見せている。
 不安げな表情を見せるノリコに、イザークはそっと、顔を寄せた。
 彼の、長くしなやかな黒髪が、ノリコのすぐ眼の前に流れ落ちてくる。
「おれは、隣にいるから……」
 息が掛かるほど近くで――囁きに近い、小さな声で――そう言ってくれるイザーク。
 ノリコは、今にも触れるのではないかと思うほど近くに寄せられた彼の唇に、胸の高鳴りを覚えていた。



「一応、応急手当はしたが……どうだ? じっとしていても痛むか?」
 俯せに、肘を立てて上半身を支えながら、体温が感じられるほど近くに寄り添って、そう訊ねてくれるイザーク。
 ノリコは、横目で彼を見詰め、少し黙った後、口を開いた。
「イザークは…………痛くなかった?」
 問い掛けに問い掛けで返され、『?』となるイザーク。
「体――元に戻ったんだね」
 何の屈託もなく、ノリコは微笑み、
「ご免ね、あの時、見ちゃって」
 謝ってくる……
 
 ――確かに……『見るな』と言ったが……
 ――怖くはなかったのか……? 恐ろしいと――醜いとは、思わなかったのか……?

 謝ってくるということは、あの時の光景を――変容した姿を『覚えている』と言うことだ……
 なのに――倒れる前もそうだったが、彼女の瞳には、今も、何の曇りも見られない。
 恐怖や嫌悪……そう言った感情は、微塵も表われていない。
 
 ――あの姿を見て、どうしてそんなに真っ直ぐな瞳で、おれを見ることが出来る……

 ありのままを……見て、受け留め、そして受け入れてくれる……
 ノリコの偏見の無さ、寛容さに、イザークは感嘆し、眼を見開いていた。
 
「でも嬉しい。イザークが傍にいる。あたし、行ってしまうと思った……」
 じっと、笑みを浮かべたままイザークを見詰め、言葉を並べるノリコ。
 微かに聞こえる皆の寝息と、薪の爆ぜる音。
 木々の隙間から覗く、夜空一杯に広がる星々……
 ノリコは、眼の前にいる彼が、夢の中の自身の声に応えて戻って来てくれたような……そんな感覚に捉われていた。
「夢で見たの、イザークがいないの、ずっと……捜してたの……」
 不安しかなかった夢から解き放たれ、求めた人が傍らにいてくれるそのことに、心から安堵する。
 だからなのだろうか――今の彼女はイザークに、そして自分自身に、とても素直だった。
「あたし本当に、イザークのこと好きなんだってわかったの……」
 躊躇いもせず、そんなことが言えるくらいに……
「ずっと――傍にいてね……もう絶対、置いてったりしないでね」
 彼の瞳を真っ直ぐに見詰めたまま、そんなお願いが出来るほどに……
 
 お願いの返事を――イザークからの返事を待つこともなく、よほど安心したのだろうか……
 ノリコは言うだけ言うとそのまま瞼を閉じ、眠りに落ちた。
 安心すると眠ってしまう――ノリコの悪い癖……
 残されたイザークはどうすることも出来ず、安らかな寝息を立てている彼女の寝顔をただ……見詰めるだけ……
 彼女のお願いの言葉を、もう一度聞かせてくれたその言葉を、噛み締めるだけ……

 ――本当におれのことが好き、だと……そう言ってくれたのか……

 聞き間違いなどではない。
 次第に鼓動が大きく、破裂するかと思うほど、脈打ち始める。

 ――ずっと傍にいてね……と?
 
 嬉しさと、恥ずかしさが同時に込み上げてくる。
 『ずっと』と言う意味を、どう解釈すれば良いのか……さっき諫めた自身の驕った考えが、また、頭を擡げてきそうになる。

 ――おれは……半分覚悟していた
 ――目覚めた時、落ち着きを取り戻した時
 ――ノリコがおれを、忌み嫌うことを……恐れることを
 ――なのに……