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ただ、空の向こうを目指して

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ただ、空の先を目指して



翼を無くした僕は、もう前の様には飛べない
暗闇の中、ただ走り続ける
進んでいるのか、止まっているのか、
その感覚もないまま走り続ける

今の僕にはなんの力もない
ニュータイプだなんだって言ったって
僕は何も知らないただの子供だ
ガンダムがあったから僕は戦えただけ

生き残る為という名目で何百もの命を奪った
それでも、選んだ未来が間違いじゃないって思いたかった
「これしかないんだ」そう言い聞かせながら
ただ、空の先を目指して


◇◇◇


 ピッピッピッと午前0時を告げるアラームが鳴る。
その音に、アムロは半ば落ちかけていた意識を呼び起こし、シーツの隣にいる男へと身体を向ける。
「happy new year シャア」
「ああ、happy new year アムロ」
互いに視線を合わせて微笑む。
「ふふ、貴方とこんな風に新年を迎える日が来るとは思わなかった」
「そうだな。正直、あの時君が私の手を取ってくれるとは思わなかった」
シャアの言葉にアムロが目をパチクリさせる。
「なんだよそれ。僕が一緒に行かないって言ったらどうするつもりだったんだ?」
「無理矢理拐おうと思っていた」
「それって誘拐って言うんじゃないの?」
「あんな所に君を置いておく事など出来なかったからな」
シャアがそっとアムロの頬の手を添える。
「あんな瞳をして空を見上げる君を置いていく事など…」
シャアのその言葉に、アムロは一年戦争後に自分の身に起こった事を振り返る。



 戦争が終わり、命からがらア・バオア・クーから脱出した僕たちは、連邦の戦艦に救助され地球へと帰還した。
 初めこそ、連邦の勝利に貢献したとしてもてはやされたが、次第にこんな新兵達の力がなければジオンに勝てない程連邦は脆弱なのかとの声が上がり、気付けばホワイトベースのクルー達の存在は上層部に疎まれる様になっていった。
 それでも、ブライトさんやジョブ・ジョンさんら元々軍人だった人達は軍に残ったが、カイさんを始め、元民間人の現地徴用兵は僅かな退役金を受け取り、皆退役していった。
僕も一緒に退役するつもりだったが、サイド6にいた父の訃報を聞き、身寄りが無くなった事と、未成年では後見人もなしに何も出来ない現実に軍に残る事にした。
…と言うのは建前で、実際は軍からニュータイプは危険人物だからと隔離措置を取られることになった。従わなければ他のクルー達の命の保証は無いとさえ言われ、従わざるを得なかったのだ。


 そして、僕はたった一人、北米のシャイアン基地に配属という形で幽閉される事になった。

 一年戦争終結から二年、僕は毎日、何をするでもなく限られた空間の中だけで生活している。
重力の井戸の底で、日々、空を見上げてはため息を吐く。
「僕は…何の為に戦ったんだろう…僕は…何をしていたんだろう…」
いつしか、あの数ヶ月の出来事が夢だったのではないかとさえ思えてきていた。
青く澄んだ空を見上げて手を伸ばす。
「あの赤い人は本当に存在していたんだろうか…」
僕の心に強烈な印象を残していった人。
僕を殺すと言って剣を向けてきた、赤い彗星。
「そういえば…僕はあの人の顔も知らない…」
サイド6で偶然あった時も、直接剣を交えた時もあの人は仮面を着けていて素顔は分からなかった。
「あの人…僕に同志になれって言ったな…あの時は流石に正気かと思ったけど…あの時あの人について行けば僕の人生は変わっていたのかな…」
拷問まがいの人体実験の被験体となり、心身ともにボロボロの状態になってここに幽閉された。
「このまま…ここで僕は死んでいくのかな…」
「それは困るな」
不意に背後から声が聞こえる。
「え?」
振り返ると、そこには煌めく金髪に、濃い色のスクリーングラスをかけたスーツ姿の男が立っていた。
「…誰……?…あ…シャア⁉︎」
顔なんて知らないが、サイド6で会った時と同じ様に、一目で目の前の人物が赤い彗星のシャアだと判った。
驚きと動揺で立ち竦む僕の元へと、男はゆっくりと歩み寄り、目の前に来た所でスクリーングラスを外す。
「ようやく見つけたぞ、アムロ・レイ」
「…何で…シャアが…?」
目の前にいる人物がシャアだと認識できるが、なぜシャアがここにいるのか理解できない。
「君を探していた」
「僕を?」
「まさかこんな所にいるとはな、随分と探したぞ」
シャアは周囲に何も無い、豪奢な屋敷を見渡す。
「そうだ…ここは厳重にセキュリティでブロックされていて、外からも中からも出入りは出来ない筈だ」
「そうだな、ここはまるで牢獄だ。君はここから出る事もままならない。我々も入るのに少々骨が折れた」
“牢獄”と言う言葉に、思わずビクリと身体を震わせる。
「君の事は連邦のトップシークレット扱いで、見つけ出すのに二年も掛かってしまった」
「なぜ貴方が僕を探す?」
「言っただろう?私の同志になれと」
「同志…?でも僕はジオンの兵士をいっぱい殺したんだ。ジオンになんて行けない」
「ならば、私のものになれ」
シャアが僕の頬へと手を伸ばし、そっと触れる。
「貴方の…もの?」
久しぶりに触れる人の温もりに、思わず胸が熱くなる。
「ああ、ララァの様に私の側にいてくれ」
「ララァの様に?」
「そうだ。来てくれるか?」
優しく僕を見つめる青い瞳に吸い込まれそうになるのを、ギリギリの理性で踏みとどまる。
「でも僕は危険なんでしょう?生きていちゃいけないって…貴方は言った…」
「そうだな。あの時は、本気でそう思った。しかし、君と剣を交え、ニュータイプ同士の交感をした時、それは間違いだと気付いた」
シャアは真っ直ぐに僕を見つめ、グッと両肩を掴む。
「ニュータイプは戦いの道具ではない。あの時ララァはそう言ったな」
「え、ええ…」
あの時、脳裏に響いたララァの声…。
「あの後、君が仲間を導く声を聞いた」
「え?」
「全てではないが…妹を…アルテイシアを仲間の元に導いてくれただろう?」
「あ…あの時の…はい…」
あの時、諦めかけたその時、みんなの姿が見えた。
あの、空間全てが自身に溶け込む様な感覚。
そして、研ぎ澄まされた精神。
あの時、ララァの言った「刻が見える」という言葉の意味をはっきりと理解した。
戦うみんなの姿、蹲って動けないでいるセイラさんの姿がまるで映像の様に脳裏に映し出され、ただ、みんなを守りたいと思った…。

「でも、もう僕にはあの時の力は無いですよ?」
ニュータイプ研究所でどんなに実験をされてもあの時の感覚は再現出来なかった。
「それは重力の井戸の底にいるからだ。君の居場所はここでは無い。宇宙だ、私と共に宇宙に上がれ、そうすれば自然と力も取り戻せるだろう」
「もう一度…」
「そうだ。あの空の向こうが君の居場所だ!私と共に来い」
空を指差し、もう一度、真っすぐにこちらを見つめるシャアの瞳を見つめる。
美しい、青空の様なブルーの瞳。
空に…この空色の瞳の元に…。
そして、その整った顔立ちにドキリとする。
「…貴方の顔…初めて見た…」
「顔?…ああ…」
「おかしいですね。モビルスーツ越しには何度も対峙してたのに…初めて顔を見た…」
「ああ…そうだな」