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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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古代はギョウザを焼きながら、そうだよなあ、おれはやっぱり主役になんかなれるような人間じゃない。ギョウザ屋でギョウザでも焼いているのがきっとお似合いなんだろうなと考えていた。まあ、それでもいいだろうさ。見ろよ羽根付きのパリパリギョウザ。そのうちなんとかなるだろう。

テントの中にやってくる〈ヤマト〉のクルー達を見れば、誰も彼もがエリートのバリバリキャリアという感じだ。地球へ戻ればそれなりの椅子が待っているのに違いない。人類を救った千百のひとりというのでやんややんや。

どこへ行っても華形という人間達だ。おれなんかとは出来が違う……このギョウザ作りにしたって、船務科員にああしろこうしろと教わってやっているだけなんだからな。

そんなふうに思っていた。そこに、

「よお、やってるな」

という声がする。見れば島大介が酒のグラスを手にして卓のすぐ向こうに立っていた。

他に何人かと一緒にだ。その者達が「やあ」とか「おう」と口々に言う。

南部に太田に相原、新見、それに森。島を入れて計六人。どうやら若い艦橋クルーで揃って甲板にやって来たのか。

「ああ」と言った。「どうも」

「なんだよ『どうも』って。お前も同じ階級だろう」

「そりゃそうかもしれないけどね」

「『しれない』どころか」太田が言う。「〈コスモゼロ〉のパイロットだろ。地球に戻れば――」

「英雄だよな」と南部。「そこへ行くと、おれ達なんかさ」

「いえ……」

と言った。チラリと新見の顔を見る。〈スタンレーの魔女〉を討ったといったところで、戦術科の立てた作戦に従っただけのことだとわかっている。この者達が力を合わせて砲台の場所を教えてくれたから、そこに行けたということも……〈ヤマト〉のクルーの中でもトップに立つ者達に急にズラリと前に並ばれ、古代はまったくどうしていいかわからなかった。

「けどギョウザとは考えたもんだが……」と相原が言って、それから森に眼を向けた。「何も、古代にまで焼かせなくていいんじゃないの?」

ん?と思った。一同がみな笑顔でいるなかで、カーキ色のコードを付けた服を着た船務科長の森だけが、厳しい眼をこちらの手元に向けている。『指示通りにちゃんとやっているんでしょうね』とでも言いたげに、ギョウザの焼き加減やら羽根の具合を細かくチェックしている感じだ。

「いいえ」と言った。「彼にはこないだの道場の無断使用の件があるから、罰としてこれをやってもらうことにしたの」

「は?」と言った。「なんの話?」

「なんの話『ですか』でしょう、古代一尉。道場の無断使用よ。この間、船務科の予約を取らずに展望室を道場として使ったわよね。なんとかいうケンカ勝負――わたしがあの場にいてじかに見てたのは気づかなかったかしら」

「え?」

と言った。他の者らも、ギョッとしたように森を見た。

「あれは規律違反よね。だからその罰として、このギョウザを焼く仕事をやってもらうことにしたの。何か言うことがあるかしら」

「いや……待てよ、あれは加藤が……」

「加藤二尉のしたことは上官のあなたの責任でしょう。そもそもあなたが士官として不甲斐ないから規律の乱れが起こるんでしょう。加藤二尉には別の罰を受けてもらっています。あなたはこれをやりなさい」

「は……」

と言った。気づけば、テントの隅のところで、加藤がヘトヘトになりながらさっきからの注意事項の説明を続けている。新見がそれを指差すと、森は彼女に頷いた。

「ドームは軟質樹脂製だが――」と言う加藤の声。なんと、あれはいつかの〈エイス・G・ゲーム〉に対しての船務科からの罰であるわけなのか。

「はい……」

と古代は言うしかなかった。あれに比べればこのギョウザ焼きは罰としては軽かろう。森はおもしろくもなさそうに焼けるギョウザを眺めている。

「ま」と新見。「まあとにかく、お酒くらい飲んでいいんじゃないですか? あたし、もらってきましょうか」

伺いを立てる顔で森を見る。森が頷くのを見てから、

「〈シンガポール・スリング〉でいいですか? 今日は最初の一杯はみんなそれみたいですが」

「はい」

と言った。同じ一尉で歳下だから新見は自分にそんな口を利いてもいるが、彼女の方が先任で本当の位は上なのだ。軍にいればそうしたことは敏感に感じ取れるようになる――ようにもなるが、

「なんでも……でも炭酸入りでないのはありますか」

「みんな炭酸入りみたいね」

「なら、それで」

と言ってから、森が持っているグラスに気づいた。他の者らがみな同じ、冥王星の色に似た薄茶色の酒が入ったグラスを手にしているのに対し、ひとりだけ、黒っぽい色の飲み物を持っている。やはり炭酸入りのようだが――。

森はまだ、ホットプレートのギョウザに眼をやっている。飲んでいるのがなんなのか聞くか古代が迷っているうちに新見は行ってしまった。