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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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スペシャルマーキング



「……で、ハーロック二世が乗った〈109〉の数は全部で十とも二十とも言われるんですが、初めのうちは〈盾にドクロ〉のマークの横に『わが青春のアルカディア』と書かれていた。それは途中から省略されるんですけれど、しかし最後に乗った機には『ARCADIA』とまた書かれたというんです。で、尾翼にはサムライの刀の鍔(つば)を図案化したマーキングがされたという。描いたのはシュタインハイルに技術交換で派遣されてた日本人で、戦後にカメラの自動焦点技術の基礎を築いた人物だとか言われるんですが、その息子がハーロック二世を訪ねたことで、その画の話が世の知るところになったんだとか。けれどその機が飛んだのはただ一度きりで写真に撮られたわけでもなく、描いた当人は死んでるしハーロックは失明していて最後の乗機のマーキングがどんなものであったか説明しようもない。その後ほどなくハーロックも死んでるそうです。だからその機に関しては皆が想像で塗ってるという……」

「ふんふん」

と古代が相槌を打ちつつ聞いてる横で、整備員の大山田がコンピュータを操りながら話している。画面にあるのは第二次世界大戦中のドイツのプロペラ戦闘機だ。〈メッサーシュミット109〉。

それがたくさん。なのだけれども、ひとつひとつが微妙に違う。すべてがどうやらプラモか何かの模型飛行機なのであるが、それぞれの製作者が違うのだ。模型趣味の人間どもが完成させたキットの写真をネットに公開したもので、大量にあるその画像を大山田が古代に見せているのだった。

そのすべてが〈109〉の後期型。胴体に〈盾にドクロ〉のマーク。そこまでは同じだが、

「でもさ、《ARCADIA》の文字なんて、色もわかんないの?」

「だからそんなの説明せずにハーロックは死んでるんです」

「それでみんな好きに決めて……」

「そうそう」

「これはなんだよ。《亜流華出伊阿》って」

「まあその辺は遊びってことで。実機は日本人が描いたんですから」

「うーん、いいねえ。これなんか……」

とふたりで言ってるところに、

「古代一尉」

と声がした。「はい」と古代は顔を上げ、そしてその顔をひきつらせた。

船務科長の森雪が、立ちはだかって般若(はんにゃ)の形相(ぎょうそう)で見下ろしていた。

「そちらの整備員君は、今は非番だそうですからいいでしょう。けれども一尉。あなたは何をしてるんですか」

「え、いや、その……」

「航空隊長のあなたがそれで下に示しがつくんですか」

「あ、いえ、そんな……」

「〈アルファー・ワン〉のマーキング、あなたが自分で描いたというのは本当ですか」

「えーとえーと、はい、ええ、まあ」

「〈コスモゼロ〉はあなたのプラモじゃありません。まして、あれはなんですか」

「えーと、『あれ』と言いますと……」

『がんもどき』、と森は言いたいようだった。けれども歯をギリギリとさせてしばらく黙り、それから口を開いて言った。

「今は何をしているの。ふたりでプラモを作って色を塗る相談?」

「いえ……」と古代は言った。「決してそんなことは……」

「ちょっといらっしゃい」

森は古代の腕を掴んだ。その口ぶりも顔も腕の掴み方も、かつて彼女が子供の頃に、彼女に対して同じことをやった母親そのままだったが、森自身は気付かなかったし古代はもちろん見ている誰にもわかるはずのないことだった。