敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊
キャプテンズ
「古代さんはいま訓練だそうです」
と新見が言った。すると森が、
「まあ今ここに彼を呼んでもしょうがないでしょう。この写真は誰かが後で渡してあげて」
「おれがやるよ」
言って島が手を伸ばした。『写真』というのはパーティでギョウザを焼く古代の前に第一艦橋の若い士官が並んだものだ。そこに映っているのと同じ島・南部・太田・相原・森・新見の六人。この彼らが今〈ヤマト〉の作戦室でひとつの机を囲んでいる。
この全員が一尉の階級。一尉とはつまり〈大尉〉であり、英語で言えばキャプテンである。
つまりこの者達は〈キャプテンズ〉というわけだった。
そして古代もまた〈キャプテン〉。島は写真を眺め見てから、隣の南部に眼を向けた。電子メモパッドにタッチペンで何やら落書きのようなことをしている。
「何書いてんだ?」
「え、いや」
と言って、南部は書いたものを消した。金魚鉢を逆さにして中にマルがふたつ、といった感じの図画だ。
「で、話ってのはなんなんだ?」
「それはもちろんこれからのことよ」森が言った。「ようやく〈赤道を越え〉てマゼランへの旅に踏み出したわけだけど……」
「おれからは特に言うことはないな。これから先は航海組の問題だろう」
と南部が重ねて言うと、同じく戦闘組である新見が、
「そうとも言えないんじゃないですか。ガミラスは間違いなくこの〈ヤマト〉の目的地を知っている。『イスカンダルの手前では待ち伏せできないだろう』というけど、途中のどこかに罠を張って……」
「まあそうだが、それだって航海組の領分じゃないか。いくらなんでもなんにもないところでやつらは〈ヤマト〉を襲ってくることはない。マゼランまでにはいくつか航行の難所になると予想される場所があって、仕掛けてくるとしたらそこだ、と……」
「ええまあ」
「そこを避けりゃいいんだろ」
「簡単に言うなよ」島が言った。「難所として予想される場所はあるよ。けれども南部、難所として予想されているだけだよ。望遠鏡で見るだけじゃ、結局よくはわからないんだ。マゼランまでの距離だってハッキリわかっているわけじゃない……」
「とにかくそこらへんのことは任せる。敵が襲ってくるとしても、まず〈ヤマト〉が一発で殺られることはない……」
「そうです」とまた新見が言った。「敵は〈ヤマト〉の波動砲を欲しがっていて、撃沈でなくまた〈ヤマト〉を戦えなくして捕まえる手立てを考えるはず……」
「また艦内が血の海になるの?」森が言う。「正直に言ってあんなのは二度とごめんなんだけれど……」
「それについても、今後は大きなビーム砲で撃たれることはないんじゃないかと。おそらく船や戦闘機が群れになって襲ってくる。となれば、〈ヤマト〉を護るのは……」
「航空隊か?」と相原が言った。「船は主砲で撃つものとして、戦闘機を迎え撃つのは戦闘機ということになる。となると古代がタイガー隊を〈ゼロ〉で指揮して戦うってことになるけど」
「ええまあ」
「しかし、あの古代にそんなことができるのか? あいつ、タイタンでぼくの通信を切りやがったぞ」
「あのときは……」
「わかっているが、今後はあれとおんなじことをされちゃあ困る。ぼくの通信を受けながら、何十機ものタイガーを指揮してもらわなきゃならないんだ」
「だからまあそれも含めていま彼を鍛え直そうとしてんじゃないすか」
「そんなことちょっとやそっとでできるのかねえ」
と相原。そこで南部が、
「でもまあ、なんとかなるんじゃないか? なんとなく、あいつがいればこの旅はいけるような気がしてきたぞ」
「南部、お前は楽天的だな」島が言った。「おれ達はイスカンダルに行こうとしてるが、たぶん同時にガミラスの方向にも行こうとしている。いくらなんでもすぐ手前で待ち受けることはないにしても……」
「そう」と太田が言った。「おそらくガミラスは、イスカンダルから百光年と離れていないところにある。イスカンダルが地球を救けてくれるのには必ず裏があるのだから……」
「たとえば、どんな?」
「たとえば」と新見が言った。「こんなのはどうでしょう。イスカンダルはガミラスを〈ヤマト〉に波動砲で撃たそうと考えていて、それがコスモクリーナーを地球に渡す条件だ、とか……」
作品名:敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊 作家名:島田信之