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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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黙殺という言葉の意味



「波動砲を充填100で撃つ場合には、ワープと砲撃の間の時間は短くて済むんですよね」

新見が言うと、島が頷く。

「まあ、いくらかは」

「もしも地球を充填120で撃てば、波動砲にはオーストラリアを吹き飛ばし、残る全土も津波に呑ませてしまうほどの威力がある。これは昔に恐竜を絶滅させたと言われる隕石とほぼ同じ」

「うん」と南部。

「けれど充填100ならば、威力は6分の5ではなく半分以下のはずですね。その試射はしていませんが……波動砲は100か120のどちらかでしか撃てない。100で日本を撃ったなら日本は消えてしまうけれども、地球の残り大半は壊滅には至らない」

相原が、「それでガミラスを撃つっていうのか?」

「そう……それも人のいない海を撃つとか、南極大陸のようなものがあればそれを撃つとか……」

太田が、「どっちにしても星の海岸みんな大津波なんじゃないのか」

「それでも全滅はしないでしょう。〈彼ら〉としては復興に全力を注がなければならず、地球侵略どころでなくなる」

また島が、「随分と凄いことを考えるもんだな」

「地球だって立場は同じなんですよ。コスモクリーナーを持ち帰っても、復興がどれだけ大変なことか」

「そりゃそうだろうが」

「まあ、今からそういうことも考えておくべきじゃないのかという話ですけど」

「ふうん……」と森が言ってから、「けど、それも撃つ前に勧告すればいいんじゃないの? 『星を撃たれてほしくなければ降伏しろ。あくまで戦うつもりなら撃つ』って言うのよ。やつらとしては降伏するしかないんじゃない?」

「黙殺されたら?」

「え?」

と森。新見は続けて、

「その話、まるっきり〈ポツダム宣言〉じゃないですか。昭和の戦争で日本の首相はポツダムの勧告に黙殺で応えた。イエスかノーかの問いに『イエス』と応えなければ、『ノー』と言うのと同じでしょう。なんだか後で『あれは〈聞かなかったことにする〉という意味ですヨ』とかなんとか言っちゃって、それが正しい意味ということになっていますけど」

「うん、まあ……」

「歴史家は言います。『〈黙殺〉という日本語の意味は〈聞かなかったことにする〉だとトルーマン大統領に正しく訳されていたならば、原爆投下はなかった』と。『原爆なしでもあの八月のうちに日本は降伏していた』と……でも辞書には〈黙殺〉は、『侮蔑を込めた無視』、つまり『ハア?なーに言ってんの?よく聞こえなかったなあ、などと聞こえよがしに言うこと』だと書いてあるんですけどね。それが正しい意味だし首相はそうしたんですが、でも戦後の日本人は深く考えようとせず、歴史修正主義者の嘘を受け入れた」

「うん、まあ……」

「トルーマンは実際には、ポツダム宣言に日本が侮蔑で応えることを聞く前から知っていました。『黙殺』としか答えられない勧告だったし、〈モクサツ〉が『侮蔑を込めた無視』であるというのも知っていました。原爆を使わなければ絶対に、日本が降伏するはずがない。だからその前に『黙殺』と言わせなければならなかった。日本に都合のいいように歴史を歪める歴史家の言葉を鵜呑みにしてはいけない。あの戦争はモクサツにピカドンで応える以外の方法で終わらすことはできなかったとわからないならいつまでも日本は〈12歳児〉のまま」

「うん、まあ……」

「ガミラスに黙殺されたらどうするんです?」

「そりゃ、まあ……」

「撃つしかない」新見は言った。「そのときは撃つしかないでしょう。帝国時代の日本は天皇にすべての決定権があり、御前会議で天皇が『イエス』と言えばYESであり、『ノー』と言えばNOだった。だから、ポツダム宣言には、時の首相は『黙殺』と応えた。裕仁が『朕(ちん)は神だ』と叫んでいたから。神であるから奇跡が起きて、海に沈んだ〈大和〉がドーンと浮上してアメリカまで空飛んで行き、パナマ運河の門をドリルでブチ抜いてくれる。と、そういう話になってしまうからイエスともノーとも言えず『黙殺』と応える以外なくなってしまう。それでは……」

「撃つしかない」森は言った。「日本がそうならアメリカは原爆を落とさなければならないように、あたし達もガミラスを波動砲で撃たねばならないと言うの?」

「そう」と新見。「昭和の日本は原爆の投下なしには降伏しなかったでしょう。〈しない〉のではなく〈降伏できない〉。昭和裕仁を神とする限り日本は降伏できない――天皇が現人神(あらひとがみ)で三種の神器があるってことは、日本が絶体絶命となっても、〈天子様〉が〈勾玉(まがたま)〉を上にかざせばピカッと光ってドビュビューンと40メートルに巨大化し、シュワッチと叫んで空を飛び、〈鏡〉でなんでもハネ返して〈剣〉で戦艦でも空母でも、B-29爆撃機でもP-51戦闘機でも全部やっつけてくれるんだ、と。そういう理屈になるわけでしょう。これを信じると降伏できない。最後は必ずそうなるのだからそれを信じて待とうという話になって、国民みんながあの八月の初めにやっぱり、ドビュビュビュビュンのシュワッチが起きて勝つと思っていた。玉音放送を聞くときまで――昭和裕仁は長崎に原爆が落ちてソ連が侵攻してきたという報せを受けるそのときまで、ドビュビュビュビュンのシュワッチが必ず起きると叫んでいた。だから三種の神器だけを大切にした。なのにどうしてこれで日本が、ピカドンなしに降伏したなんてことが言えるのか」

「うん……」言って森は自分の右腕をさすった。「ガミラスが黙殺すれば……」

「敵は昭和裕仁ということ」新見は言った。「あるいは、松本智津夫か……」