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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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群鰐(ぐんがく)



「〈ヤマト〉のワープアウト座標を特定。〈大陸斜面〉の手前です」

〈デロイデル〉の発令所でレーダー士が報告する。ゾールマンの戦隊は今、〈海面〉上に各種の〈眼〉だけを出して、〈ヤマト〉がワープで消え去った後の宇宙空間にいた。

ガミラス次元潜宙艦は、その形が地球の浅い水に棲むワニにどことなく似ている。波の静かな水面に眼だけを出してじっと潜み、獲物が来るのを待ち構え、大きな口を開けてガブリと食らいつく――そのような生態を持つ種類の水棲爬虫類だ。

ワニであるなら歯が並ぶ辺りに魚雷ミサイルの発射管があり、その蓋を開けるときを待っている。船体はソーセージを衣でくるんで揚げたアメリカン・ドッグのような構造で、〈ソーセージ〉が地球の潜水艦で言う内殻、〈衣〉が外殻だ。乗員の居住区画は〈ソーセージ〉の中にあり、それを包む〈衣〉の中で〈次元海水〉を出し入れして浮上や潜航を行う。

〈衣〉の表面はソナー探知をされにくくする無反響タイルで覆われ、〈水抜き〉のための孔も並んでいるためにまるでワニ革のように見える。そして船体上部には簀(すのこ)状の甲板が張られ、これもワニの背のように見える。

そして、〈眼〉だ。地球の潜水艦が持つサメの背ビレのような司令塔はなく、代わりにそれがあるべき場所にふたつの丸いアンテナがまさにワニの眼のように左右に並び備わっている。そしてワニなら鼻がある場所に〈次元バウ・ソナー〉。四つの脚があるべき場所に〈次元アレイ・ソナー〉。

ために見かけはワニそのもの。ワニが水面に眼鼻を出して、息を吸いつつ獲物の匂いを探すように、いま彼らは〈ヤマト〉が消えた後の〈匂いを嗅いで〉いた。そして〈ヤマト〉が行った先の位置を突き止めていた。

それは地球人類が〈オールトの雲〉、彼らガミラスが彼らの言葉で〈卵〉と呼ぶ領域の手前。次元海底はそこで〈大陸棚〉が終わり、その先は急な〈坂〉となって深く落ちている。

「そうか、やはりな」ゾールマンは言った。「先で待ち伏せはできるのか」

「はい。これが最後のチャンスということになりますが……」

とレーダー士。言わずもがなのことを言う。もしも〈ヤマト〉に〈次元大陸棚〉の上でなく、それが終わっている先にワープで出ていかれたら、潜宙艦での追跡は不能。ゆえに次のチャンスはない――そういう話になるのだった。

『戦えない』ということだが、それは同時に『死なずに済む』ということでもある。おそらく、〈ヤマト〉と戦うとなれば、たとえ魚雷を喰らわすことができたとしても逆襲を受けて、六隻中何隻かは沈められることだろう。それを覚悟で行かねばならない。

レーダー士の言葉は彼にそう聞こえた。発令所内の誰の顔も、同じ思いでいるように見えた。

〈ヤマト〉を追ってもまた攻撃ができずに終われば死なずに済む――それはそういうことでもある。

だが、と思った。ゾールマンは言った。

「我々は戦って死なねばならない」

皆の表情が一変した。

「はい」とガレル。「その通りです」

「ここで〈ヤマト〉を逃がしたら、次は戦えないのだから戦わなくていいというわけにはいかぬ。次は下に〈棚〉のないところでやらねばならないということなのだ」

「はい――そこで我らに勝ち目はありません。ただ〈ヤマト〉に殺られるだけです。だが、それでもやらねばならない」

「そうだ」

と言った。部下らが皆、頷き交わして自分を見る。ゾールマンもまた頷いて彼らに応え、

「しかし今、敵に勝つ最後のチャンスを我らは与えられたのだ。あの船さえ沈めたら、我々は大手を振って故郷(くに)に帰れる。英雄としてだ」

「はい」と機関士。「これが最後の機会となれば、エンジンなど焼きつかせて構わないかと存じます。次は何がなんでも〈ヤマト〉を……」

「うむ」と言った。「通信士。他の船にもそう伝えろ」

「はっ」

「全艦、浮上次第にワープ。ガール・デスラー」

「ガール・デスラー!」

皆が唱和した。それまでは何もなかった空間に突如として六匹のワニのような宇宙船が出現する。

しかしそれも一瞬のことだ。六匹のワニはてんでにグルリと身を横転させて再び超空間に消えた。それは地球の水に棲むワニが獲物をその口で捕らえ、身をひねらせることによって肉をひきちぎる動作に似ていた。束の間、宇宙に血が広がるように、暗黒より暗い影が現れて星の光を隠したが、しかしそれも消えた。

六匹のワニは〈ヤマト〉を待ち受けるべく、行く手の空間にワープしたのだ。